流転の國 シロマの剃髪
これは、マヤリィをはじめとして、皆が流転の國に顕現してから、少し経った頃のお話…。
「やはり、切ってしまいましょう」
そう言ってウィンプルを外し、一つに束ねていた髪をほどく修道女。
彼女の名はシロマ。
流転の國唯一の回復魔法の使い手である。
白魔術を極めると誓い、訓練に励む彼女。
修道女として顕現した彼女は、普段は一つに束ねた髪の上からウィンプルを被っている。
しかし、訓練を続けていくうちに、腰まである自身の長い髪が邪魔に思えてきた。
「私は修道女。そして白魔術を極めると誓った者。…いっそのこと、何の妨げにもならないように剃髪してしまいましょうか」
そう思い立った彼女はすぐに行動に移した。
「私には髪など必要ないのだから」
シロマは30歳の女性。
切ってしまうには惜しい美しい髪だが、彼女の決心は揺らがなかった。
そして、セルフカットに踏み切った。
ジャキッ、ジャキッ………
長い髪を根元から断つ。
ジャキッ、ジャキッ……
前髪も根元から断つ。
ジャキッ、ジャキッ……
手当たり次第に鋏で切り落としていく。
残されたのは、虎刈りの頭。
「便利な道具があって、よかった…」
シロマはそう呟くと、バリカンのスイッチを入れる。
何の躊躇いもなく、アタッチメント無しのバリカンで自分の髪を刈り落としていく。
ヴィーーン……ジジジジ………
縦横無尽にバリカンを走らせる。
ヴィーーン……ジジジジ………
粗切りした髪には刃も引っかからない。
ヴィーーン……ジジジジ………
彼女は手際よくバリカンでの作業を終えた。
1mmに満たない丸坊主になった。
その頭に、温かいタオルを乗せる。
その頭に、シェービングクリームを塗る。
その頭に、カミソリを当てる。
残った髪を剃り落としていく。
そして、彼女は自分の手で剃髪を成し遂げた。
「これからは、これが私」
鏡に映るのは青光りする坊主頭の女。
「白魔術師として、修道女として。…何よりご主人様の御為に、私は生きる」
つるつる頭も悪くないと思いながら、シロマは先程まで自身の元にあり、今は残骸と成り果てた長い髪をかき集め、全て処分した。
「もう、伸ばすことはないでしょうね」
不思議と寂しくはなかった。
身軽になった己が心地よく思えた。
「さあ、訓練を続けなくては」
剃髪の後片付けを終え、軽くシャワーを浴びて細かな毛を全て洗い流してしまうと、読みかけだった魔術書を開き、何事もなかったかのように訓練を再開した。
今もシロマは毎日のように自分の頭にカミソリを当てています。




