流転の國 愛してる
愛する姫の寝顔を見つめながら過ごす夜…。
「姫、寝ちゃったんですか?」
今日は疲れているのか、何もせずベッドに入った姫。途中までは寄り添って静かに話をしていたのだが、気付けば長い沈黙。
ジェイは姫の方を向いて、思わず呟く。
「可愛い……」
美しく可愛らしい恋人とこうして一緒にいられる喜びを噛みしめる。
そして、そっと頬にキスをする。
「僕の…可愛い姫……。今、この時だけは貴女を独り占め出来るのが嬉しい……」
心の声。ではなく、独り言は止まらない。
「愛してる……。ずっと貴女と流転の國にいたい」
「私もよ、ジェイ…」
マヤリィが答える。目が覚めたようだ。
「っ…!姫…いつから起きてました?」
「貴方が私にキスをしたのは覚えているわ」
「…僕の独り言、聞いてました?」
「ふふ、私はこの歳になっても貴方の姫でいられるのね…。嬉しいわ」
全部聞かれてた。
「いや、あの…なんていうか、その…」
顔を真っ赤にして焦るジェイの唇にそっとキスをする姫。
「私、貴方の前でだけは本当に女でいられるみたい…」
マヤリィは言う。
「大好きよ、ジェイ。転移する前からずっと」
「姫…!」
二人は抱き合い、キスをする。今度はなかなか離さない。
「んっ…」
ジェイの顔はまだ赤い。
「貴女のキスは…激しいですよね」
「あら、貴方にはまだ早かったかしら」
「一応、同い年なんですけど」
そう、皆忘れているだろうがジェイもマヤリィと同じ33歳である。
「全部そんな風に見えないわ。…貴方は私の全てを受け止めてくれる大人の男性だけれど、見た目はまだ青年みたい。不思議なひとね、ふふ」
確かに、服装によってはうっかりすると学生に見えるかもしれない。流転の國きっての童顔である。
「そういえば、ネクロやシロマと年齢の話になった時は驚かれましたよ」
しばらく前の話だが、玉座の間を退出したところで珍しくネクロとシロマが話をしていた。気付いたらその会話に加わっていた。
ネクロの歳を聞いて驚くシロマに対し、
「ここだけのお話ですが、ご主人様も私と同じお歳にございますぞ」
声を潜めて言う。
「確かに、ネクロ様はご主人様によく似ていらっしゃいますよね」
流転の國最高峰の模擬戦を見ていたから、今ではシロマもネクロの素顔を知っている。
「ところで、シロマ殿はお幾つになられるのですかな?」
「私は30にございます。…ジェイ様は20代でいらっしゃいますか?」
ネクロ33歳。シロマ30歳。二人から年下だと思われているジェイ。
「私の予想ではずばり25歳ですな。ご主人様がジェイ殿を可愛がっておられるお話はルーリ殿から伺っておりますぞ」
「ど、どこからどこまで伺ってるの!?」
「ルーリ殿曰く『マヤリィ様は年下の男がお好みらしい。例えば、ジェイとかな』…とのことです」
あのサキュバス、喧嘩売ってるのかな…。
ルーリは僕の歳知ってるはずなのに…。
ジェイは頭を抱えたくなる。
「ていうか、25って…本気で言ってるの!?」
「外れですかな?」
「全然外れてるって。マヤリィ様と僕は元いた世界で同級生だったんだよ?」
それを聞いて首を傾げるネクロ。
「はて?ドウキュウセイ、とは…?」
「そこからなの!?」
たまにルーリに通じない言葉があるのは分かっているが、ネクロも似たようなものだった。
ジェイは頭を抱えたくなる。
「基本的に同級生っていうのはみんな同い年なんだよ。留年とかしたらまた別だけど…」
「つ、つまり、ジェイ様も33歳ということですか…?」
シロマが驚く。
「そうは見えませんな」
「見えなくても33歳なの!アジア系は童顔なんだよ!」
と言っても二人には通じないだろう。
「ジェイ様、失礼致しました。お若く見えるので、てっきり年下だとばかり思っておりました」
シロマが謝る。
「いや、気にしなくていいよ。…それにしても、シロマは若くして修道女になったんだね」
そう言って、修道服を着てウィンプルを被ったシロマを見る。
「私はシロマ殿の髪型が気になりますな。そのウィンプルの下は綺麗なロングヘアなのでしょうか…?」
予想がことごとく外れるネクロさん。
「…いえ、お見せするほどのものではございません。どうか、お気になさらず」
シロマは教えてくれなかった。ネクロもそれ以上追及しなかった。
そんな話を思い出しながら、
「姫は知ってるんですか?シロマの髪型」
ジェイはマヤリィに訊ねる。
「ええ、知っているわよ」
「ロングヘアですか?何色ですか?」
皆、シロマは長い髪だと思い込んでいる。
「…ふふ、秘密。本人に聞いてご覧なさい」
「えっ…本人に許可取らないと言っちゃいけない髪型なんですか?」
「直接聞けばいいだけの話でしょう」
「いや、姫が話してくれればいい話ですよ」
しかし、マヤリィは教えてくれなかった。
代わりに、ジェイの頭を撫でながら言う。
「貴方は純粋なひと。だから若く見えるのね」
確かに、ジェイの言動は純粋。というか幼い。
だからルーリにからかわれるんだよ。
「それなら姫だって、純粋で清らかで…」
しかし、マヤリィは首を横に振る。
「私は全く清らかじゃないわ。…それは貴女だって知っているでしょう?」
そう言われてジェイは思い出す。
「…そういえば、姫。貴女はビッチでしたね」
ジェイはマヤリィが何をやらかそうと寛大です。
たとえ他の女性と浮気していても、姫が幸せな時間を過ごしているのならそれでいい。
…でも出来たら自分と一緒にいて欲しい。
彼の望みは他の配下達と同じく「ご主人様の病が治ること」なのです。
そして、それを積極的に実現しようとしているのはジェイとルーリです。
マヤリィ様、今の貴女は結構幸せなのでは?




