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流転の國 もう一人

今、明かされるもう一人のマヤリィ。

初めて語られるもう一つの病名。

ここはマヤリィの部屋。


「姫、このお部屋は貴女が作ったのですか?…それとも、流転の國に顕現した時には既にあったのでしょうか…?」

ジェイが聞く。

「私が…作ったのよ」

姫は少し言い淀んで、

「正確には、もう一人の私が…」

「もう一人?」

初めて聞く話にジェイは首を傾げる。

「この部屋、私の趣味とは少し違うように見えるでしょう?…貴方が不思議に思った通り、もう一人が作ったから、このような内装になったのよ」

「姫、もう一人とは…。まさか、貴女は…」

ジェイは姫の顔を見る。

「こんなに貴女の近くにいながら、全然気付きませんでした」

「当然よ。彼女は決して表に出てこないから」

マヤリィは言う。

「若い頃に叶わなかった願いを執念深く持ち続ける女。それが私のもう一つの人格」

「そんな…!表には出てこなくても、今も姫の中にはもう一人が存在するのですね…?」

「ええ。決して共存出来ないけれど」

マヤリィはため息をつく。

「過去に貴女が受けた抑圧の日々から生まれてしまった別人格ということでしょうか…」

「そうね、そういうことだと思うわ」

「共存出来ないというのは、なぜ…?」

ジェイは心を痛める。マヤリィの病気は一つではなかった。彼女を苦しめる存在は一つではなかった。

「彼女の求める物が昔のままだからよ。…今手に入れても仕方のない物ばかり。…言ったでしょう?年相応というものがあるのよ」

「でも…そのもう一人は今も存在しているんですよね…?」

「何度殺そうとしても出てくるの。ある意味、双極性障害より厄介な存在だわ」

「それで…流転の國に顕現した後も現れて、この部屋を作ったということですか?」

ジェイの問いにマヤリィは頷いた。

(姫を苦しめているものが他にもあったなんて知らなかった…。なぜ、姫がこんなに苦しまないといけないのだろう…)

今日はそれ以上、姫は話さなかった。


ジェイは共にマヤリィを支える者として、このことをルーリに伝えることを決めた。


「マヤリィ様が…二重人格…!?」

ルーリは二重人格という言葉は知っているらしい。驚きつつも冷静に話を聞いている。

「あの御方の境遇からすれば、不思議なことではないのだな…。しかし、共存出来ない二重人格ともなれば、マヤリィ様はかなりおつらい思いをされているはず。…どうして、あのような優しい御方が、素晴らしい御方が、いつまでも苦しまなければならないんだ…?」

ルーリは頭を抱える。

「マヤリィ様は以前、可愛い服も綺麗な化粧も諦めたと仰っていたが…それを諦めきれないもう一人の人格がマヤリィ様の中に存在するというのか…」

「どうやら、そういうことらしい」

ジェイは悲痛な面持ちでルーリを見る。

「本来なら、限度があるにしろ、欲しい服も欲しい化粧品も許されるはずなんだ。それに、髪型もね。彼女はそれを許されず、ずっと抑圧された環境に置かれていた。願った時にある程度許されていれば、それで満たされたはずの願いが、何も許されなかった。…結局、それがもう一つの人格となってしまったんだ」

「それはあまりにも悲しい。…マヤリィ様は10代の頃、何を願っただろう?20代の頃、何を願っただろう?…リスがマヤリィ様に憧れるように、若き日のマヤリィ様にも憧れの人がいたりしたのだろうか?その人は、可愛い服を着ていただろうか?綺麗な化粧をしていただろうか?素敵なショートヘアの女性だっただろうか?…普通の女の子が抱く普通の願いを、マヤリィ様は何一つ許されなかったんだな。…それなのに、誰を恨むことなく誰を憎むことなく、流転の國に顕現したのちは我々の心優しき主としてその使命を果たされている…」

「僕もリスのことを考えたよ。…あの子は本当に幸せな子だなって思う。姫のように優しい主人に見守られ、自由に生きている。…姫にだって、その権利があったはずなのに…!」

ジェイの目から涙があふれる。

「…ジェイ、マヤリィ様のもう一人の人格は表に出てこないとさっき言っていたな?」

「うん。君も僕も気付かなかったくらいだ。…恐らく、その別人格は主人格である姫が一人の時にしか現れないのだろう。それに、姫が今までこの話をしなかったということは、最近はあまり現れることがないのかもしれない」

「…だとしても、二重人格は厄介だ。双極性障害以上におつらい症状が今後表面化するかもしれん。…マヤリィ様はパニック障害もお持ちだったよな?」

「うん…。君の言う通りだよ。フラッシュバックからのパニック状態はかなり怖い。問題は、これだけ分かっていながら防げないということだ。いつどんな症状が表れて姫を苦しめるか分からない」

「やはり、悪化していると見るべきなのか?」

「…残念ながら、僕にはそう見える。でも、姫には僕達がついている。きっと、彼女を暗闇の中から救い出そう」

「ああ、必ずな。…それが私達の使命だ」

ジェイとルーリは長い間話していた。

全てはご主人様の御為に。


魔術では癒せぬ病に苦しむ宙色の大魔術師。

最高位の白魔術さえ届かぬ不治の病。

されど、彼女に仕え、彼女を愛する者達は、その身を賭して彼女を救おうとしている。

全ては愛するご主人様の御為に。

二重人格は、正確には『解離性人格障害』と呼ばれる病気です。

マヤリィの中には、全く性格の異なるもう一人が存在しているということになります。

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