流転の國 第7会議室②
「第7会議室の件、貴女には重荷だったかしら、ルーリ」
カフェテラスの椅子に深く腰かけ、優雅に足を組んで飲み物を待つマヤリィが訊く。
「と、とんでもございません!マヤリィ様のご期待に応えることが出来ますよう、第7会議室の名に恥じない素晴らしいお部屋に仕上げる所存にございます!」
ルーリは跪き、頭を下げる。
マヤリィは足を組んだ体勢のままルーリを見下ろすと、何事もなかったかのように、
「そう?それなら良いのだけれど」
「はっ。ご心配をおかけして誠に申し訳ございません、マヤリィ様」
「気にしなくていいわ」
「はっ」
まもなく、メイドが飲み物を運んできた。
「…………」
この沈黙は何だろう。
二人は黙ったまま、カフェ・ラテを飲む。
そこへ、通りかかった人物があった。
「ご主人様、本日もご機嫌麗しゅう。お目にかかれて大変嬉しく思いますぞ」
ネクロだった。
いつもの如く『隠遁』のローブを着た彼女はその場に跪き、頭を下げる。
「ネクロ、顔を上げなさい。…貴女、怪我をしているようね。訓練所に行っていたの?」
「はっ。魔術訓練を行っておりました。大した怪我ではございませぬゆえ、ご心配なさらないで下さいませ」
そうは言っても、ネクロの声がいつもより弱々しいのをマヤリィは聞き逃さなかった。
「ローブを脱ぎなさい、ネクロ」
「えっ…」
「早く、脱ぎなさい」
「はっ。畏まりました。…失礼致します」
ネクロが慌ててローブを脱ぐ。
「ネクロ、お前…!」
それまで黙っていたルーリが声を上げる。
左肩に深い裂傷があり、服は血塗れである。自身の魔術で止血したのか、左腕は血の塊のようになっている。
「これのどこが大したことないの?『全回復』」
マヤリィはすぐに回復魔法を発動する。
「申し訳ございません、ご主人様。貴女様のお手を煩わせてしまうとは…」
ネクロはそう言って深く頭を下げる。
『凝塊化』魔術は匂いをも止めてしまう。
『隠遁』のローブは傷さえも隠し通す。
「貴女が宝玉を持っていないなんてことは有り得ないでしょうから、おおかた忘れてきた誰かに与えたというところかしら」
「はっ。畏れながら、その通りにございます」
「貴女の行動は正しかったと思う。けれど、自分の身体も大切にしなくてはいけないわ。…宝玉が足りなかったのなら、私かシロマを呼ぶべきだったわね」
「はっ。このネクロ、反省致しております」
この会話の間、ルーリはマヤリィとネクロを交互に見つつ、
(やはり不思議だ…。なぜネクロはこんなにもマヤリィ様に似た容姿で顕現したのだろう)
彼女は藍色の髪と藍色の瞳を持ち、声は似ていないものの、それ以外はマヤリィである。
(こうして見ると双子みたいだな…)
そんなことを考えていると、
「ルーリ殿にもご心配をおかけしましたな」
ネクロはルーリにも頭を下げる。
「いや、少し驚いたが治ってよかった。私も『全回復』の宝玉は常に持っているから、気にしないで呼び出してくれ。…それにしても、マヤリィ様はすぐにネクロの異変に気付かれたのでございますね」
ルーリは改めてマヤリィに敬服した。
その後、一緒にコーヒーを飲むことになったネクロは、第7会議室の新設について説明を受けたのだった。
流転の國で宝玉を使わずに回復系の魔術を発動出来るのはシロマとマヤリィだけです。
マヤリィは宙色の魔力を持っているので、全属性の魔術に適性があるということになります。
ネクロの『凝塊化』魔術は本来なら敵に対して使役しますが、応急処置として止血する為に発動したようです。
左腕ごと固まってしまったのは、予想以上に出血が多かったからです。
訓練所で何が起きていたかは…不明。




