流転の國 第7会議室
「いかがでございましょうか?マヤリィ様」
ルーリが鏡越しにマヤリィに訊ねる。
髪型のことだ。
センスのいい彼女は手先も器用で、今や流転の國の主マヤリィの専属スタイリストである。因みに、自分の髪も自分で整えている。
「いい感じよ。色も綺麗に入ったわね。さすがはルーリ」
ブロンドのマヤリィが微笑む。
「お褒めのお言葉、有り難く頂戴致します」
ルーリはその場に跪き、頭を下げる。
カラーの前にカットした床に散らばっている主の髪を踏まないよう気をつけながら。
「後はメイドに任せましょう」
マヤリィはそう言って立ち上がった。
「私達はカフェテラスへ。『転移』」
疲れたのか、マヤリィは言葉少なに潮風の吹くカフェテラスにルーリとともに『転移』した。
主がこうして配下を伴ってカフェテラスに行くのはいつものことだ。
「マヤリィ様、私はこうして貴女様のお傍近くにいられますことが何よりの喜びにございます」
ルーリはマヤリィを椅子に座らせ、自分はその場に跪き、頭を下げる。
「私も、貴女のような素晴らしい配下を持つことが出来て幸せよ。…さぁ、ルーリ。早速、何か飲みましょう。座って頂戴」
「はっ。失礼致します」
ルーリは一礼すると席に着いた。
まもなくメイドがやって来る。
「カフェ・ラテを二つ」
いつもの如くルーリが注文する。
「畏まりました。すぐに持って参ります」
メイドは深く頭を下げると準備に向かった。
「ところで、今日の貴女はいつもより大人しい気がするのだけれど、私の気のせいかしら」
突然マヤリィが云う。
そう、今日のルーリはマヤリィの恋人というよりマヤリィの配下である。
いや、実際配下なんだけど。
一つ一つの言葉や動作の度に跪き、いつにも増して丁寧な言葉遣いをする。
いや、実際そうすべきなんだろうけど。
「マヤリィ様、貴女様にご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。貴女様はやはり誰よりもお優しい御方にございます」
ルーリは再び跪く。そして、
「畏れながら、マヤリィ様」
珍しく、縋るような目でマヤリィを見る。
「先ほどお聞かせ下さったお話…本当によろしいのでしょうか…」
珍しく、ルーリは自信なさげに云う。
「畏れ多くも、あのお部屋を私のヘアメイク部屋として使わせて頂くなど…」
普段はマヤリィが自室にルーリを呼び、ヘアカットやカラーをしてもらっていた。
しかし、今日は違った。
マヤリィはルーリを呼ぶなり見知らぬ部屋の前に転移したのだ。
「ここは第7会議室よ。この部屋を何に使いたいかと言うと…ルーリさんのヘアメイク部屋、ってところかしら」
「わ、私のヘアメイク部屋…?」
「ええ。最初からあるヘアメイク部屋はシェルが管理しているし、私の部屋では貴女も動きづらい時があるかと思って、新しく用意したの」
マヤリィはそう言って微笑むと、第7会議室のドアを開けた。
「今はまだ最低限の物しか置いていないけれど、ここの室長を貴女に頼みたいのよ」
ルーリは突然のことに戸惑っている。
「内装は勿論、貴女に任せる。っていうか、全てを貴女に任せるわ。そして、これから先はここで私の髪を整えて頂戴」
「マ、マヤリィ様…、畏れながら、私がこのように素敵なお部屋の室長を務めるなど、許されるのでしょうか…?私は既に貴女様の側近として常に玉座の間に立ち位置がございます。それに加えてこの会議室を私に委ねられると仰るのですか…?」
シェルが管理する部屋は小さい。
しかし、第7会議室は流転の國のヘアメイク部屋にしては随分と広い。一度に何人もの施術が出来そうなほど。
マヤリィ様、ようやく我儘を言えるようになったんですか?
「慌てて仕上げる必要はないわ。貴女の負担が増すようなら私も手伝うから。…ただ、ずっと欲しいと思っていたの。貴女が管理者として自由に使えるヘアメイク部屋をね」
「マヤリィ様…」
「これは命令よ、ルーリ。この新しい部屋で、私を満足させて頂戴。…いいわね?」
「はっ!畏まりました、マヤリィ様。貴女様にご満足頂けますよう、全身全霊でこの第7会議室の長を務めさせて頂くことをお約束致します!!」
「よろしい。期待しているわ、ルーリ」
「はっ!!」
という会話の後、
「では、早速だけれど、いつものようにして頂戴。道具はひと通り揃っているはずよ」
「はっ!畏まりました、マヤリィ様。このように素晴らしきアイテムまで揃えて下さり、幸甚の極みにございます」
ルーリは跪いたまま、深く頭を下げた。
「足りない物があったら言ってね。…やることはいつもと変わりないのだから、固くならなくても大丈夫よ、ルーリ。それと、そろそろ立ちなさい」
「はっ!早急に始めさせて頂きます!」
この展開はさすがのルーリも畏まって大人しくなりますよ、マヤリィ様。




