流転の國 お茶会②
「…そうだったの。貴女はグレーがとても似合うわね。私も大好きな色よ」
「有り難きお言葉にございますわ。マヤリィ様にそう言って頂けるなんて、勇気を出して『正装』に挑戦した甲斐がありました」
これって挑戦するものなのか…?
「ありがとう、シャドーレ。いつか貴女のスーツ姿を見たいと思っていたの。思った通り、凄く素敵だわ。凛々しく美しい流転の國の黒魔術師。その魔力は勿論、他の面でも、貴女はこの國になくてはならない存在ね」
マヤリィはシャドーレの美しさにテンションが上がり、シャドーレはマヤリィ様に褒められて頬を染める。
「マヤリィ様、これからも貴女様のご期待に応えられますよう、鍛錬を怠ることなく、より高みを目指して黒魔術師としての役目を果たして参ります。…畏れながら、魔力だけでない他の面、とは…?」
シャドーレはそこまで理解が及ばなかった。
「ああ、それは……」
マヤリィは主としての表情を引っ込めると、
「貴女がこうして私の傍にいてくれて心強いってことよ。魔力が強いばかりではなく、私の気持ちに寄り添ってくれる存在が必要なの。それが、貴女。シャドーレという人よ」
マヤリィはそう言ってから、
「桜色の都から引き抜くような形で貴女を配下にしたこと、貴女にきちんと聞く間もなく私の一存でそう決めてしまったこと、本当にそれでよかったのかと今でも考える時がある。思えば、貴女の意思を確認したことは一度もなかったわね…」
「マヤリィ様、そのような…!」
シャドーレは胸の鼓動をおさえながら跪き、
「私が『クロス』の副隊長として流転の國に赴いたあの日、桜色の都の予言者の企みを貴女様は見抜いて下さり、そればかりか当時の我が主ツキヨ王と国を救って下さいました。…そんな貴女様の強さと優しさを目の当たりにした私は、桜色の都には戻らず、このまま流転の國に留まり貴女様の配下に加えて頂けるよう直談判したいと思ったくらいです。されど、『クロス』の副隊長にそんなことが許されるはずもなく、マヤリィ様とジェイ様が流転の國に戻っていらしたら、入れ違いに私は都へ帰らなければならないのだと思っておりました。…しかし、國へ帰還された貴女様は私を配下に加えると仰いました。あの時のことは鮮明に覚えています。今思い出しても胸が高鳴ってやみません。これからこの素晴らしい流転の國という場所で、強く美しく優しさに満ちあふれたマヤリィ様という御方にお仕え出来るのだと思うと、私の心には貴女様に対する感謝と喜びしかありませんでした。…ですのでマヤリィ様、私は貴女様の配下となれたことを心から嬉しく思っております。都に戻りたいなどと考えたことはただの一度もございません。これから先もずっと貴女様にお仕えし、貴女様のお役に立つことが私の夢にございます。お優しいマヤリィ様、どうかこれからも貴女様のお傍近くでお仕えさせて下さいませ」
『クロス』の出動…。
そういえば、そんなこともあったね。
「シャドーレ…!」
マヤリィは自身も床に膝をつき、シャドーレを抱きしめた。
「マヤリィ様…!」
シャドーレが驚いて顔を上げると、マヤリィは泣きながら微笑んでいた。
「もう何も確認することはないわ…!あの日、貴女が流転の國に来てくれて本当によかった…!ツキヨ殿には悪いけれど、貴女を桜色の都に帰さなくてよかった…!シャドーレ、これからも私を支えて頂戴…!」
「はっ!畏まりました、マヤリィ様」
「大好きよ、シャドーレ」
「マヤリィ様…!私も貴女様のことが…大好きにございます!!」
やがて、二人の『お茶会』が始まった。
「最近ハマっているバリカンのミリ数は…」
「かなり攻めますのね、マヤリィ様…」
話の内容はあれだが、優雅な二人の楽しい『お茶会』である。
ひとしきり断髪の話題で盛り上がった後、
「シャドーレ、いつも私の心の拠り所となってくれてありがとう」
マヤリィは彼女の耳許でそっと囁くのだった。
心の拠り所…。
それはマヤリィの命綱です。




