流転の國 お茶会
「マヤリィ様、本日も大変麗しいお姿にございますわ。貴女様と午後のひとときをご一緒出来ますことに感謝致します」
第1会議室。
時々、マヤリィはシャドーレを呼んで短髪を好む女子二人、お茶会を開いていた。
「ごきげんよう、シャドーレ。私も美しい貴女を独り占め出来て嬉しいわ」
マヤリィはそう言って微笑む。
「それにしても、貴女の『正装』は初めて見る気がするわ。とっても素敵よ、シャドーレ」
普段は軍服を着込んでいるシャドーレだが、今日はグレーのパンツスーツを着ていた。
ジャケットとパンツの丈のバランスがちょうどよく、シャドーレのスタイルのよさが一層際立っている。
「有り難きお言葉にございますわ、マヤリィ様。実は、ルーリに選んでもらいましたの。女性らしい洋服が苦手なら『正装』はどうかとすすめられました」
やはり、彼女の仕業だった。
「珍しいな、服を選びに来たのか?」
今朝、衣装部屋に行ったらルーリに会った。
「ええ、実はこの後マヤリィ様にお会いするのだけれど、常に軍服というのもどうなのかしらと思って、ここへ来てみたの。…でも、今さら女性らしい服装なんて出来ないわ。私は女を捨てたような人間ですもの」
シャドーレは短く刈り整えた髪を触って、
「やはりいつもの格好で参りますわ」
「待て、シャドーレ」
そのまま出て行こうとするシャドーレを止めるルーリ。
「私に考えがあるんだが『正装』をしてみる気はないか?マヤリィ様がいつも身に纏っておられる『スーツ』というやつだ。マヤリィ様が仰るには、スーツにも色々なバリエーションがあって、ジャケットやスラックスの色や素材は勿論のこと、中に着るシャツ一つとっても、数え切れないほどの種類があるらしい。さらに、ジャケットの下にベストを重ねたり、お前もよく知ってるネクタイを合わせたり、シンプルな装いながら個性も出せるとのことだ。…私も着てみたいと思いつつ、なかなか『正装』は私にはハードルが高くてな…。シャドーレなら、軍服を気慣れているし常にネクタイもしてる。だから『正装』もすんなり馴染むんじゃないかと思ったんだ」
「『正装』…。私、着こなせるかしら」
不安げな顔をしつつも興味ありそうな彼女を見て、ルーリはさっさとスーツを探し始める。
衣装部屋に服を探しに行くと、その時その人に合う服が必ず出てくるとルーリは云う。
今、出てきたのは、グレーのパンツスーツ。
「これなんてどうだ?…マヤリィ様は基本的にブラックスーツをお召しになっているから、色が被ることはないと思う。ワイシャツも出てきたことだし、ネクタイもここにあるし、とりあえず着てみろよ」
「分かったわ、ルーリ。一式着てみるわね…」
ルーリのセンスのよさはシャドーレもよく知っている。それに、これを機に『正装』を着られるようになったら、憧れのご主人様に近付ける気がして、シャドーレは照れながらも嬉々として試着した。
「マヤリィ様が着ていらっしゃる『正装』とはこのような着心地なのね…!ルーリ、どうかしら。私、ちゃんと着こなせている?」
「ああ、完璧だ。お前は姿勢も良いし、こういった服が本当に似合うんだな。…ほら、鏡」
「なかなか…悪くありませんわね。マヤリィ様は褒めて下さるかしら」
「それは私が保証するよ。お前は完璧に着こなしてる。…『魅惑』かけてもいいか?」
美しく凛々しいスーツ姿のシャドーレを前にして、夢魔の本性が表れそうになる。
「かけてもいいけれど、先にマヤリィ様の所へ行かなければいけないわ。…ルーリ、素敵な『正装』を選んでくれて本当にありがとう。…後で第2会議室へ行ったら、私を抱いて下さるかしら、魅惑の死神様?」
シャドーレも大概である。
「お預けってことか?…いいだろう。私とて、マヤリィ様とお前の時間を邪魔する気はないよ。…シャドーレ。どうか、あの御方のお心の拠り所となって差し上げてくれ」
急に真面目な顔でルーリが云う。
シャドーレもその言葉の意味が分かるので、
「畏まりましたわ、ルーリ。マヤリィ様のお心に寄り添うことが出来るよう、誠心誠意お仕えすることをお約束致します」
そう言って一礼する。
普段は友人のように接しているが、ルーリは主の側近。シャドーレより上の立場にある。
「…それでは、失礼致します。ごきげんよう」
シャドーレは品良く挨拶をすると、衣装部屋を出て行った。
「よろしく頼む、シャドーレ……」
一人残されたルーリの呟きがシャドーレには聞こえていた。
(マヤリィ様、シャドーレは、これより貴女様の元へ参りますわ…!)
シャドーレは姿勢を正すと、第1会議室の前へと『転移』するのだった。
ファッションコーディネーター活躍中。




