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流転の國 番外編全集  作者: 川口冬至夜


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流転の國 反省会のち打ち上げ

次の日。反省会。

「ネクロがご主人様にそっくりだなんて、反則もいいところじゃないですか」

ジェイが抗議する。

「…でも、一瞬貴方は幻覚かもしれないと疑うことが出来たでしょう?これから先、私の姿を模した敵に遭遇したら、ネクロだと思って攻撃するのよ?」

え?それでいいの?

「それに、貴方がネクロと『悪神の化身』を引き離したからこそ、ルーリはネクロに対して有利に立ち回ることが出来た。最初に戦闘不能になったとはいえ、よく健闘したわ」

確かに、あの時ネクロが魔術具を手にしていなかったことは大きかった。

「でも、まさかルーリが『悪魔変化』をするとは思ってなかった。ルーリも予定外だったのではないかしら」

「はっ。『悪魔変化』をすれば昨日のような惨たらしい魔術を躊躇なく使役する私になってしまいますので、出来れば使わないつもりでした。…されど、ジェイが…」

ルーリはそう言いながらジェイを見ると、少し言いづらそうに、

「仲間が戦闘不能になったことが許せなくて…私としたことが冷静さを欠いてオーバーキルも厭わない『悪魔変化』を選んでしまいました」

「…ルーリ、僕がやられたことに対して怒ってくれたの?」

「ああ、そうらしい。お前を助けられなかった私自身も、お前を戦闘不能にしたネクロも、あの時はとにかく許しがたかった」

「ルーリぃ…!!」

そう言ってルーリに抱きつくジェイ。

そういえば、勝敗が決まった時も、ルーリは真っ先にジェイに向かって声を上げていた。

「それに、先ほどマヤリィ様が仰ったように、お前のお陰でネクロを倒すことが出来た。…勝利に導いてくれてありがとよ、相棒」

ルーリはこの上なく美しくカッコいい笑顔を向けて、ジェイを抱きしめた。

「ルーリぃ…!!」

流転の國最高戦力であるルーリに「相棒」と呼ばれ、ジェイは感極まって泣く。

「…それにしても、シャドーレが強かったな。『耐性作成』こそネクロの手を借りたものの、その後は全てお前だけの力で戦っていた」

『暗黒のティーザー』はルーリも初めて見たが、その汎用性とシャドーレとの相性のよさは素晴らしかった。魔術・物理両面であれだけの攻撃力を出せる魔術具はそうそうないしあの槍を使いこなせる人間はシャドーレくらいではないだろうか。

「…でも、私は貴女のピンヒールからネクロ様をお守りすることが出来なかったわ。貴女の言葉を真に受けて、自分だけに『シールド』を張ってしまった」

「それはあの場面では仕方のないことと思われますぞ、シャドーレ殿。私とて、もう少し力が残っていれば貴女に『シールド』を張っていたと思います」

ネクロが言う。

「宣戦布告をする直前までは本当にシャドーレに照準を合わせていたし、私もあれは予想外だったわ。まさかネクロにとどめを刺す攻撃だったとはね」

マヤリィはあの瞬間を思い出し、

「見事だったわ、ルーリ。そして、気の毒だったわね、ネクロ」

「はっ」

二人は気まずそうに頭を下げる。

「私はルーリに『宵闇』が効かなかった時、負けたと思いましたわ。…しかし、私はここで屈するわけにはいかないと思いました。これ以上、敵の追撃を許してはならない。我が主を守ることが出来るのはもはや私一人なのだと思った時、魔力が漲りましたの」

「あの時のシャドーレは凄かったな。私の悪魔の翼を槍で切り裂くとは。…あの瞬間、お前はたった一人残された『クロス』の副隊長の顔をしていた」

ルーリが言う。

「戦慣れしているとはこういうことかと思い知らされたよ。…で、『悪魔変化』を解いて『流転の閃光』で決着をつけようと思った」

「ええ。あの時、ルーリの強大な魔力を痛いほど感じましたわ。…そして、私もまた最後の力を振り絞って応戦致しました」

シャドーレが言う。

「ええ。あの時の二人の魔力は予想以上だったわ。あのまま続ければ確実に大規模な魔力爆発を起こして第4会議室も私達も吹き飛んでいたでしょうね。…もっと結界を強化しておくべきだったと思ったわ」

第4会議室は魔術師の実験の場として、流転の城の中でも一二を争うほど強固な結界が張られている部屋である。

「そこで、急遽『シャットダウン』を使わせてもらった。それでも、二人は諦めなかった」

マヤリィが言う。

「天晴れとしか言いようがないわ。二人とも、最後までよく頑張ったわね。実力は勿論のこと、貴女達の意志の強さを直接見ることが出来て本当によかった。流転の國の最高権力者として、貴女達を誇りに思うわ」

「マヤリィ様…!」

「私はこんなにも素晴らしい配下を持つことが出来て幸せよ。ルーリ、シャドーレ、ネクロ、ジェイ、そしてシロマ。あなた達の主人として、礼を言います。皆、ありがとう」

「はっ!」

「勿体ないお言葉にございます!」

皆は跪き、揃って頭を下げる。

「ご主人様、攻撃適性のない私のような者にまでそのような有り難きお言葉を下さるなんて」

思いがけず名前を呼ばれたシロマは感激のあまり目に涙を浮かべる。

「貴女がいてくれなければ、此度の実戦訓練は出来なかったのよ、シロマ。それに、貴女の白魔術はこの中の誰にも真似することの出来ない希少な魔術。回復適性を持つ者は流転の國には貴女しかいないの。貴女は皆にとっても私にとってもなくてはならない存在。それを忘れてはいけないわ、シロマ」

「ご主人様ぁ…!」

マヤリィは優しくシロマに語りかけた。

「ご主人様の仰る通りにございますぞ。ルーリ殿の殺人魔術を食らった私が今こうして生きていられるのはシロマ殿のお陰です」

「僕も、ネクロに縛られた時の傷を綺麗に治してもらった。毒状態だったことも覚えていないくらい、素早く完璧な『全回復』だったよ」

「シロマ様は私が幾度も戦を経験していることを見抜かれていたそうですね。私自身も自覚していなかった戦慣れというアドバンテージに早々にお気付きになったとは、流転の國の参謀の役割もこなすことが出来るのではないかと思いましたわ」

「確かに、シャドーレが桜色の都で積んだ経験は凄まじいものだと実際に戦ってみて初めて感じたよ。…私は今回の模擬戦で、シャドーレの潜在能力は勿論だが、シロマの頭脳にも驚かされた。私もぼんやりしているわけにはいかないな」

シロマが思っていた以上に、皆は彼女のことを信頼し、尊敬している。

「そ、そのような…!皆様、私の訓練のハードルを上げないで下さいませ!」

頬を染め、照れているシロマだったが、

「これからもご主人様、そして皆様のお役に立つことが出来ますよう、訓練に励んで参る所存です。…ご主人様、此度はお呼び下さり、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます」

マヤリィの前に跪き、頭を下げる。

「ご苦労だったわ、シロマ。私は貴女の忠誠と絶え間ない努力を知っている。どうか、これからも私についてきて頂戴」

「はっ!畏まりました、ご主人様!私はどこまでも貴女様について参る所存でございます!」

頬を紅潮させ、深く頭を下げるシロマ。

《今回のMVPはシロマだね、ルーリ》

《エムブイ…って、なんだ?私の知らない言葉を使うのはやめろよ、ジェイ》

《この流れから察するに、此度の訓練における一番の功労者という意味でしょうか?》

《シャドーレ殿は本当に底知れない御方にございますな…》(私も全然分からなかった…)

今、ご主人様とシロマの間には誰も入ることが出来ない。

その為、こんな所で念話を使っている。

「…というわけで、総評すると、今回の訓練のMVPは最後まで意識を保っていたルーリね!やはり、流転の國の最高戦力というだけのことはあるわ。これからも流転の國の切り札として、有事の際には私を守って頂戴」

守られなくても十分強いマヤリィ様ですが。

ていうか、宙色の大魔術師はこの世界に存在する全ての魔術を自在に使役出来るのだから当然回復魔法も使えるはず…。まぁいいか。

「勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様。これからも貴女様の御為、力を尽くすことをお約束致します!」

突然MVPに輝いたルーリはマヤリィの言葉を聞いて嬉しそうに頭を下げるが、

(これは…やはりシャドーレの解釈で合っているのか?私が一番だったってことか?)

内心、まだ言葉の意味に戸惑っている。

「さぁ、反省会はこれくらいにして、この後は自由時間にしましょう。…私はこれからカフェテラスに行くのだけれど、一緒に来てくれる人はいるかしら?」

皆は間髪入れずに答えた。

「ぜひ、ご一緒させて下さいませ!!」


そして、マヤリィと素晴らしき配下達の「打ち上げ」が始まった。

「お姉さーん!ブレンド六つ!!」

潮風の吹くカフェテラスにルーリの声が響く。

するとまもなく、ルーリよりも遥かに若いメイドが七人分のコーヒーを持って現れた。

「ルーリのお姉さんになったつもりはございませんが、ブレンドコーヒーをお持ち致しました、ご主人様」

メイドは恭しくマヤリィの前にカップを置く。

「ありがとう、ミノリ。ご苦労だったわね」

「勿体ないお言葉にございます。ご主人様にお目にかかれて、ミノリは幸せです」

書類仕事に追われて模擬戦に参加出来なかったミノリだが、先ほどマヤリィから念話を受け、自分の配下のメイドの代わりにコーヒーを持ってきたのだった。

(そうか、姫があの時誰かと話してると思ったら…こういうことだったのか)

(やはりミノリがいなくてはな)

皆が驚く中、ジェイとルーリはこれが偶然ではないと分かっていた。

第4会議室を出た時、マヤリィが誰かと念話していることに気付いていたのだ。


《こちらマヤリィよ。今から皆を連れてカフェテラスに行くわ。貴女も一緒にどうかしら、ミノリ?》

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