流転の國 2 VS 2 ③
私は本気で行く。覚悟しろよ…?
「『悪魔変化』」
ルーリの声が静かに、低く響き渡る。
直後、黒い風は灰色の靄へと変わり、ルーリを包むと、彼女を『変化』させた。
「っ…その姿は…」
黒魔術師でさえ硬直する悪魔の姿。
ブロンドは漆黒に変わり、瞳はつり上がって色は真紅になり、その口からは鋭い牙が生えている。背中からは全てを切り裂くような尖った悪魔の翼が現れ、真っ黒な爪の先は研いだ刃のように光っている。そして、棘のような装飾が施された黒い服と黒いピンヒール。
「どうした?この姿は恐ろしいか?醜いか?」
そう言って悪魔は素早くネクロに近寄る。
(しまった…『悪神の化身』はまだそこに転がったまま……)
魔術具はなくとも魔術は使える。しかし『悪神の化身』を持たずして目の前の悪魔に対抗し得る最上位魔術を発動するのは心許ない。出来たら禁術を使いたい。
ネクロは完全に気圧されていた。
その隙を見逃すはずもなく。
「さっきの耐性は今も作り出せるのかな?…お前にはとっておきのキスをやるよ」
ルーリは一気に距離を詰め、刃のような爪でネクロの顎を上げると、
「『Bloody Kiss』」
文字通り、真っ赤な唇を彼女の唇に押し当てる。同時に、鋭い牙で口元を突き刺す。
「ゔっ……」
耐性を作る時間などなかった。
ネクロの唇が紅く染まったかと思うと、顔中から血が噴き出す。
「ネクロ様…!」
あまりに凄惨な光景を見せられ、シャドーレは思わず後ずさるが、それでも横槍を入れるだけの気力はあった。
「『暗黒槍』!『最大強化』せよ!!」
ネクロから離れないルーリ目がけて、『最大強化』を施した『暗黒槍』を発動する。
しかし、当たらなかった。
ルーリは一瞬でその場から消えた。
「空…黒い……翼…」
その場に倒れ込んだネクロが苦しそうな息遣いでルーリの行方を告げる。
シャドーレが空中を見上げると、尖った黒翼で『飛行』する悪魔の姿があった。
「次はお前だ、シャドーレ…!」
そう言うと、ルーリは標的目がけて急降下。
「『High heels Knife』」
しかし、攻撃を食らったのはシャドーレではなかった。
「ゔゔっ…」
黒いピンヒールに仕掛けられたナイフで心臓を一突きされ、ネクロは意識を失った。
ほとんど痛みを感じない魔術をかけられているにもかかわらず、凄く痛そうに見えたのは気のせいだろうか。
「戦闘不能!ネクロ、離脱よ!!」
マヤリィは指を鳴らしてネクロをその場から移動させる。
「っ……」
シロマが言葉を失ってしまうほど、ネクロの身体はひどい有り様だった。
全身が血で染まり、顔には爪痕が残り、心臓にはナイフが刺さったまま。
シロマは思いがけない重体の患者を前に、
「『全回復』発動します」
祈りを込めて最上位魔術を施すのだった。
(オーバーキルだったわね、ルーリ…)
マヤリィは平然として勝負の行方を見守る。
依然としてルーリは『変化』したまま。
「これが…貴女が天性の殺戮者と呼ばれる所以なのね…」
『悪魔変化』をしたルーリは容赦なく殺人級の魔術を使役した。しかし、そんなことでいつまでも恐怖しているシャドーレではない。
「一対一になりましたわね」
シャドーレは自分に向けて飛んでくると思った攻撃に備えて張っていた『シールド』を解くと、改めてティーザーを構える。
「『宵闇』発動」
突然、全てが闇に包まれる。その直後、
「『流転の毒槍』!!」
シャドーレは攻撃魔術を発動する。
「私には全て見えていますのよ」
「…悪いな、私もだ」
暗闇の中でルーリの瞳が赤く光る。
「っ…!」
ルーリはシャドーレを押し倒し、その肩を鋭い爪で床に押し付ける。『宵闇』が解ける。
「たとえ一人でも…私は守ってみせますわ!」
強い力でルーリを突き放し、両肩から血を流しながら、シャドーレは云う。
「貴様如きに我が都を奪われるわけにはいかない!!」
「都……?」
ルーリが呆気に取られたその隙に、
「はあーーーっ!!!」
黒魔術ではなく、物理攻撃。
「『一槍両断』!!」
『暗黒のティーザー』がルーリの翼に刺さる。
「っ…!」
「『暗黒槍』!!」
至近距離で黒魔術が放たれる。
(シャドーレが覚醒した?…いいえ、今、彼女の心は桜色の都にあるのね…)
マヤリィは二人の勝負の行方を見守る。
「黒翼の天使よ。『クロス』に歯向かったことを後悔するがいい。…はあーーっ!」
再び物理攻撃。ルーリに避ける隙を与えず、シャドーレの槍は尖った翼を斬った。目の前の相手を天使だと思ったのは、桜色の都が天界に住む天使達から攻撃を受けたことがあった為だろう。
「そうか…それがお前の実力なんだな…!」
『飛行』出来なくなったルーリはあっさり『悪魔変化』を解く。
そして、腕に雷の渦を巻き付かせながら、
「私は天使などではない。私は流転の國のマヤリィ様に絶対の忠誠を誓った悪魔。そして、この世界の全ての雷を司る閃光の魔術師だ!!」
『流転の閃光』に全ての魔力を注ぎ込む。
それを見て、シャドーレが叫ぶ。
「私とて流転の國の黒魔術師です!マヤリィ様の御前で負けるなんてことは出来ませんわ…!」
(あ、シャドーレが帰ってきた)
勝負の行方より、そっちが気になってたご主人様はとりあえず安心した。
「それじゃ、そろそろ決着をつけようか…!」
「ええ!覚悟して下さいませ!!」
そして、二人は同時に魔術を発動する。
「『流転の迅雷』!!」「『流転の断槍』!!」
直撃した二つの魔術は連なり重なり合い『強化』を施しても互いにダメージを与えることが出来ない。それどころか、
「まずい。このままじゃ魔力爆発する!」
目を覚ましていたジェイが凄まじい魔力量に恐怖を感じる。
「もう少し、もう少しなんだけどな…!」
「負けるわけには…参りませんわ…!」
(そろそろ、部屋が限界かしらね)
第4会議室の結界ですら危うくさせる二人の魔力。一度リセットする必要がありそうだ。
そして、マヤリィは立ち上がり指を鳴らす。
「『シャットダウン』」
その瞬間、『迅雷』も『断槍』も解除された。
それと同時に、二人はその場に倒れ込む。
だが、まだ意識は失っていない。
「「『流転』の……」」
二人はそう言いかけて、
「『せん…こ…う…』」
ルーリが一瞬早く魔術を発動する。
小さな雷の渦は確かにシャドーレの身体に巻き付き、彼女の魔術はそこで止まった。
「ここまで…ですか……」
シャドーレはティーザーに手をかけたまま、気を失った。
「戦闘不能!!」
マヤリィの声が響く。勝敗は決した。
「私も…もう限界だな……」
そう言いつつも、ルーリは立ち上がり、
「ジェイ!私達の勝ちだぞ!!」
笑顔でジェイに向かって叫んだ。
「さすがは魅惑の死神!!さすがは閃光の大魔術師!!ありがとう!!ルーリ!!」
ジェイも笑顔でルーリに応える。
一方、シロマは『全回復』をかけながら、
「シャドーレ様、見事な戦いにございました」
彼女の勇姿を見られたことに感動していた。
「ネクロ…さっきは殺しちゃって悪かったな」
ルーリは後でネクロに謝った。
「とんでもないことにございます。ルーリ殿の『悪魔変化』は大変興味深かったですぞ」
ネクロはローブの下で顔を引きつらせながら答えた。本当に怖かった。
「やはり、戦い慣れている者は違うわね。途中からどちらが勝つか分からなくなったわ」
マヤリィは『シャットダウン』を発動せざるを得なかった実戦訓練を振り返っていた。
「ルーリ様を追い詰めるとは…シャドーレ様はやはり只者ではございませんね」
「貴女も感じていたのね、彼女の強さを…」
「はっ。流転の國でしか生きたことのない者にはない強さをお持ちなのだと思いました」
シロマが答える。
「ふふ、貴女も只者ではないわね…」
マヤリィはそう言うと、
「明日、ここで反省会を行うわ。今日は本当にご苦労でした。今夜はゆっくり休みなさい」
皆に呼びかける。
「はっ!」
「畏まりました、ご主人様!」
こうして、模擬戦は幕を閉じた。
ルーリさんの異名
・魅惑の死神
・天性の殺戮者
・女神の顔をした悪魔
・閃光の大魔術師←New!!




