流転の國 2 VS 2 ②
「全力を出してくれないと困るから痛みを感じないように魔術をかけておくわね」
戦いの前に、マヤリィは四人にそう言った。
「意識を失ったら戦闘不能とみなして、シロマに全回復をかけさせるわ。二人を戦闘不能にした時点でそのペアの勝利よ。一人欠けたとしても二対一、一体一で最後まで勝負を続けなさい。降参は認めない」
なかなか厳しいルールだが、服装は自由とした。シャドーレやネクロはいつもと同じだが皆が驚いたのはルーリがプレートアーマーを身に纏って現れたことだ。しかも、いつもはウェーブをかけて自然に任せているミディアムヘアを一つに束ねている。
「マヤリィ様のお取り計らいに感謝致します。ネクロ、シャドーレ、そういうわけだから、悪いが本気で行かせてもらう」
いや、元から本気で行くつもりだったよね?
「望むところですわ、ルーリ。私とて、容易く負ける気はありませんわよ?」
きっちりと軍服を着込み、ベリーショートの髪を固め、魔術具を手にしたシャドーレが不敵に笑う。
「ネクロ、今日こそは君の素顔を見せてもらうよ?可愛かったら攻撃しづらいなぁ…」
「私の顔を見たら後悔することになりますぞ?覚悟はよろしいのでしょうな」
確かに、攻撃しづらいだろう。
そこへ、マヤリィが声をかける。
「お喋りはそのくらいにして、始めましょう。時間は無制限、魔力も無制限、最低二人が戦闘不能になるまで続行よ。いいわね?」
「はっ!」
「では、始めなさい!」
ジェイ・ルーリペアVSネクロ・シャドーレペアの戦いが始まった。
開始早々、ルーリはシャドーレを狙う。
(このプレートアーマーの意味は何?もしや…ルーリは…)
「『魅惑』かけさせてもらうよ」
ルーリが至近距離で魔術を発動する。
『魅惑』の風がシャドーレを覆っていく。
「っ…やはり『魅惑』を使うのね…!」
プレートアーマーを着ていても発動可能な『魅惑』を前に、シャドーレはネクロに合図を送る。想定内だ。
「『瞬間耐性作成』!!」
ネクロはシャドーレに魔術をかける。
一時的に『魅惑』の耐性が出来る。
「『暗黒槍』!!」
魅惑の風を突き抜けて、シャドーレの魔術がルーリに迫る。
『暗黒のティーザー』は長い槍のような形状をしているが、長身のシャドーレはそれを易々と扱いこなす。
「貫け!!」
「っ…」
思いの外、シャドーレの『暗黒槍』は素早く、ルーリの装備を容易く破壊した。
「やれやれ。次当たったら死ぬな、これは」
と言いつつ、ルーリは余裕の表情である。
「『魅惑』耐性を付けられるとはなかなかだ」
「その魔術は私ではなくネクロ様だけれど」
そう言いながらシャドーレは『暗黒のティーザー』を握りしめる。
ルーリは指を鳴らしていつもらしいドレスに着替えると、束ねていた髪もほどいた。プレートアーマーは破壊されることを前提にした装備だったらしい。
「それじゃ、改めてお前の力を見せてもらおうか、シャドーレ」
「それはこちらの台詞ですわ、ルーリ」
(美女が対峙しているというのも、なかなか絵になるわね…!)
審判のマヤリィは職務放棄して二人の戦いの絵面に惚れ惚れしていた。仕事しろ。
「『流転の指環』よ、全てを切り刻む烈風を顕現させ、黒魔術師のローブを切り裂け!!」
「『カウンター』!!」
「『飛行』!!」
ジェイは自身の放った『烈風』をかわすと、もう一度ネクロに向けて攻撃を仕掛けた。
…ように見せかけると『悪神の化身』に向けて攻撃魔術を放った。
「『流転の竜巻』!!」
それは物凄い勢いで渦を巻き『悪神の化身』に直撃した。狙い通り、ネクロと魔術具を引き離したジェイは再び『烈風』を発動する。
「切り裂け!!」
「っ…『シールド』…」
魔術具がなくても魔術を使役することは出来る。しかし、ネクロは動揺してしまった。
咄嗟に発動した『シールド』は脆く『烈風』はネクロに直撃した。
「……。まさか本当にローブを切り裂くとは。ジェイ殿の風系統魔術は恐ろしいですな」
ローブのお陰でネクロ自身は無事だった。
「今度は君自身を切り裂く番だ。覚悟はいいかな、ネクロ?……ネクロ?…姫!?いや、幻覚だよね……っ!?」
マヤリィそっくりのネクロの素顔を目の当たりにして、ジェイは驚きを隠せない。
その隙を見逃すネクロではなかった。
「私は宣告しましたぞ!後悔する…ってね!」
ネクロがそう叫ぶと同時に、何本もの黒い鎖がジェイに絡み付く。
「『毒鎖拘束』」
「っ…!む、むこう…か……」
ジェイの『無効化』は発動しなかった。
「ジェイ!!」
ルーリがジェイに近寄ろうとした時、
「『黒靄』。下手に動くとティーザーにぶつかりますわよ?」
長い槍がルーリの行く手を阻むと同時に、黒い靄を出現させる。ティーザーにぶつかったら、恐らく無傷では済まないだろう。
「『強化』せよ!!」
ネクロが叫ぶ。
ジェイは次から次へと飛び出す鎖に拘束され、ついに意識を失った。
「戦闘不能!ジェイを離脱させるわ!」
マヤリィがそう言って指を鳴らすと、ジェイの身体はシロマの元へ移動した。
「シャドーレ、お前…ネクロの姿を…」
「ええ。見せて頂きましたわ」
昨日、初めてローブの下のネクロの姿を見たシャドーレは激しく動揺した。
「マヤリィ様…!?い、いえ…ネクロ様??」
「正真正銘ネクロにございます。なぜかは分かりませぬが、ご主人様に似た姿で顕現してしまいました。…明日、万が一『隠遁』のローブが切り裂かれても驚かないで下され」
そして、それは現実になった。
「そうか、だからお前は平静でいられたってことか…!」
「ジェイ様には申し訳ないですけれど、これも作戦のうちですのよ?」
「昨日シャドーレ殿に伝えて置いたのは正解でしたな」
ジェイが戦闘不能になり、その場にはネクロとシャドーレ、そしてルーリが残される。
「分かっているだろうな、二人とも…」
ルーリの低い声が恐ろしげに響く。
「ジェイが起きる前に勝負決めてやるよ」
物凄い魔力圧が第4会議室にかかる。
思わず二人は肩を震わせる。
「私は本気で行く。有言実行だ」
ルーリがそう言うと、次第に黒魔術のものとは違う、黒い風が吹き始める。
そして彼女は静かに云う。
「『悪魔変化』」
(勝負、あったわね…)
マヤリィは心の中でそっと呟くのだった。
誰も知らない恐ろしい悪魔が今まさに姿を現そうとしている…。
以前『時渡り』の魔術でマヤリィそっくりの子どもになってしまったネクロは、自分の素顔を知ったジェイに『忘却』魔術をかけました(番外編「『時渡り』の宝玉」参照)。
その為、ジェイにしてみれば今回の模擬戦で初めてネクロの素顔を知ったことになります。
さらにしつこく言うと、シャドーレは『闇堕ち編』でネクロの顔を見ていますが、あの物語は現実ではないので、シャドーレにしてみれば…(以下略)。
それにしてもルーリさん、めっちゃ怒ってる。




