流転の國 2 VS 2
「さぁ、作戦会議を始めるわよ!…皆、好きな飲み物を頼みなさい」
マヤリィ様の命令により、ジェイ、ルーリ、ネクロ、そしてシャドーレの四人が潮風の吹くカフェテラスに集められた。
勿論、実戦訓練の話をする為だ。
「僕は…ミルクコーヒーがいいな」
「私はブレンド。ミルク有。砂糖はいらない」
「私にもブレンドを下され。ブラックで」
「えっと私は…カフェ・ラテに致しますわ」
注文を承っているのはミノリの配下にあたるメイドである。
「魔術師の皆様のご注文は承りました。…畏れながら、気高くお美しいご主人様。貴女様のご所望を伺ってもよろしいでしょうか?」
書物の魔術師であると共に流転の國のメイド長でもあるミノリの配下はそれなりの戦闘力は持ち合わせているものの魔力量は乏しい。その為、普段はメイドの役割のみを与えられ、皆の大切な寛ぎの場の一つであるカフェテラスのウェイトレスも務めている。だから当然、流転の國の主の顔も見慣れているはずなのだが…
「お姉さーん!ブレンド二つ!」
普段はこのようにルーリがマヤリィの分も一緒に注文する為、主から直接注文を承ったことがない。
「メイドさん、ご主人様と僕にアイスコーヒーを頼むよ。僕の分だけガムシロ付けてね」
普段はこのようにジェイがマヤリィの分も一緒に注文する為…(以下略)。
今日は皆ご主人様の命令により集まったという形なので、いつもより畏まっている。
それで、誰とも相談することなく、一人ずつ注文したせいで、ほとんどご主人様と会話したことのないメイドがこういうことになっている。彼女は緊張のあまり震えていた。
これ以上、メニューを決めるのに時間をかけるわけにはいかなそうだ。
散々迷っていたマヤリィは、
「そうね…アメリカンを頂戴」
「はっ!確かに承りましてございます」
流転の國なのにアメリカンとは!?
「ご主人様直々にお言葉を頂戴出来ましたこと、恐悦至極に存じます。早急に持って参りますので、少々お待ち下さいませ」
メイドは跪き頭を下げるとすぐに立ち上がりさらに一礼して早足で準備の場に向かった。
「私が決めるのに時間かかったせいで彼女に緊張させてしまったみたいね」
ご主人様はわりと優柔不断です。
「あめりかん…とは、初めて耳にするメニューにございます。もしやマヤリィ様お気に入りの一杯なのでしょうか…?」
「ご主人様は我々の知らぬ至高の逸品をご注文なされたということですな」
「一体どんな飲み物なのでしょう…?拝見するのが楽しみですわ」
(姫…なんで迷いに迷ってアメリカンなの!)
ジェイは大いに突っ込みたかったが、皆が期待に満ちた表情で未知の飲み物の登場を待っているのを見て、言葉を呑み込んだ。
(見た目はブレンドとほぼ同じなのだけれど…まぁいいか)
マヤリィはそれについて考えるのをやめた。
「大変お待たせ致しました」
メイドがそれぞれに注文した飲み物を持って現れたのはまもなくのことだった。
「ご主人様、アメリカンコーヒーにございます。こちらに置かせて頂きます」
「ありがとう」
「わ、私のような者に感謝のお言葉を下さるなんて…!ご主人様のお優しいお心に感動致しましてございます。メイドとして顕現してよかった…!」
その場で喜びを噛みしめるメイド。
(誰かに似てないか…?)
ルーリはミノリの顔を思い浮かべる。
ひとしきりご主人様からお言葉を賜った喜びに打ち震えた後、
「それでは、魔術師の皆様。順番に置かせて頂きます」
そう言って、注文順にカップを置いていく。
「ジェイ、ミルクコーヒーとか…可愛いな」
「だって今飲みたいんだもん!」
「だもん!って…お前、本当に可愛いな」
ルーリはジェイを見て楽しそうに笑う。
「本当にもう…君には敵わないよ」
ルーリの笑顔の美しさに魅了されるジェイ。
「シャドーレ殿、カフェ・ラテとは優雅な飲み物にございますな」
「このふわふわなフォームミルクが好きですの。ネクロ様はいつもブラックコーヒーなのですか?」
「はい。甘い物はあまり好みませぬゆえ。アイスコーヒーのブラックも美味ですぞ」
「今度飲んでみたいですわ。…よろしければ、またご一緒しませんこと?」
「それはそれは。嬉しいお誘いにございます」
和気藹々とした皆の様子を見て、マヤリィは黙って微笑んでいた。
(クッキーも持ってこさせようかしら…)
つまりは暇なんですね、マヤリィ様。
「…では、そろそろ本題に入るわ。今日、皆をここに集めた理由を話さなければね」
「はっ!」
皆は姿勢を正して主の言葉を待つ。
「貴方達に命令を下す。明日、二手に分かれて模擬戦をしなさい。今ここにいる者が二対二で勝負するのよ」
「っ…」
突然の思わぬ命令。
「片方はネクロとシャドーレの黒魔術師ペア。もう片方はジェイとルーリの黒くない魔術師ペアよ」
どんなネーミングですか。
因みに、ルーリはこの実戦訓練を行うことを前もって知っていた。
「つまり、最上位黒魔術師二人を相手に、私とジェイが挑むということでございますね?」
「そういうことになるわね。風系統魔術と雷系統魔術の相性は悪くないはずよ」
一方、ネクロは頭を抱えて、
「ルーリ殿が敵に回られるのですか…」
「勝てる気が致しませんわね。ネクロ様、早急に作戦会議を始めましょう」
流転の國最高戦力を前にネクロは恐れ慄く。シャドーレは口ではそう言いながらも、既に頭の中では作戦を考え始めていた。
「僕はサポートに回るから、ルーリはとにかく雷落としてよ。…それとも『魅惑』作戦の方がいいかな…?」
「お前、やる気あるのか?」
ジェイは早くも逃げ腰になっている。
だって黒魔術怖い。
ていうかルーリの方が怖い。
「場所は第4会議室。勿論、すぐに回復出来るようにシロマも呼ぶわ。審判は私よ」
「畏まりました、ご主人様!」
主の命令に逆らえるはずもなく、四人は声を揃えて返事をする。
「魔術は無制限。魔術具は一人一つまで。…指定した方がいいかしら」
マヤリィはそう言うと、それぞれの魔術具の名を挙げた。
「『流転の指環』、『悪神の化身』、『暗黒のティーザー』。そして『流転の閃光』。いいわね?」
「はっ!」
各々、使い慣れた魔術具である。
「シャドーレ殿。『暗黒のティーザー』とは一体どのような…」
「すぐにお見せしますわ、ネクロ様」
そう言ってシャドーレは不敵に微笑む。
先程までとはまるで雰囲気の違う、桜色の都の精鋭黒魔術師部隊『クロス』元副隊長を前にして、ネクロは後ずさりしそうになった。
(この人は…もしかしたら私よりも…)
黒魔術師としての実力や魔力量ではネクロに及ばないかもしれないが、シャドーレは戦い慣れている。それも、一国の王を守る為の戦を経験している。さらには、流転の國に来た後も常に努力を惜しまず、研鑽の日々を送っていると聞く。最上位魔術、禁術、その他あらゆる黒魔術を操ることの出来るネクロだが、今初めてシャドーレに敵わないかもしれないと思った。彼女の力は未知数だ。
(シャドーレの本気が見られそうね。…楽しくなってきたわ…!)
マヤリィもシャドーレの顔付きが変わったのを見て、この勝負はどうなるか分からないと思った。ネクロと同じようにジェイもルーリも本物の戦は知らないからだ。
「ジェイ、私達も作戦を立てるぞ」
「分かったよ。…僕はサポート役でいい?」
「お前、やる気ないだろう」
斯くして、作戦会議は始まった。
流転の國で初めて顕現したルーリやネクロには、時々通じない言葉があります。
注文を受けたメイドも「アメリカンコーヒー」が何のことやら分からず、慌てて上司であるミノリに助けを求めたとか。
ミノリの過去は不明ですが、彼女は書物を司る魔術師なので、すぐに辞書を開くことが出来ます。




