流転の國 計画
久しぶりに見たいわ。
魔術師である貴女達の実戦訓練を…。
その日、久々に玉座の間に現れたマヤリィ。
配下達は彼女の病状を心配しつつも、麗しいご主人様の顔を見られたことを嬉しく思うのだった。
「疲れたわ…」
解散後、マヤリィはしばらく玉座に留まっていた。
そこへ声をかけた者がいる。
「畏れながら、マヤリィ様。私に出来ることはないでしょうか…?」
ルーリは跪いたまま、心配そうに主を見上げる。
「そうね…貴女の部屋で休ませてもらってもいいかしら」
今は一人でいるより、誰かに傍にいて欲しい。
「はっ。畏まりました、マヤリィ様。貴女様の御為、誠心誠意尽くさせて頂きます!」
そう言うと、彼女はマヤリィと共に『転移』した。
ここはルーリの部屋。
「マヤリィ様、どうぞこちらに」
「ありがとう、ルーリ」
顕現したばかりの頃は、皆に比べて少しばかり洒落た内装にしていただけの部屋だが、今はいつマヤリィが来ても良いように最高級の家具を揃えてある。
今、マヤリィがもたれかかっているソファも、生地といい座り心地といい完璧な一品だった。
「マヤリィ様、私の部屋でよろしければ、いつまででもゆっくりなさって下さいませ。…何かお飲み物をお持ちしましょうか…?」
ルーリは主の前に跪き、命令を待っている。
「コーヒーでも、紅茶でも、貴女様がご所望になるお飲み物は全てご用意出来ます。勿論、ミネラルウォーターもございます。それとも…ケーキ…などがよろしいでしょうか?」
ルーリは疲弊した様子の主を気遣い、そっとしておいた方が良いのか悩みつつも、彼女の好きな飲み物を挙げるのだった。
因みに、ケーキは顕現させたことがない。
「ありがとう、ルーリ。…そうね、貴女と一緒に温かいコーヒーが飲みたいわ。いいかしら」
「はっ。貴女様とご一緒させて頂けるとは、有り難き幸せにございます。早速、ご用意させて頂きますので、少々お待ち下さいませ」
ルーリは心配そうな表情から一転して笑顔になると、すぐにコーヒーの準備に取りかかった。
しばらく書類仕事で忙しかったせいかこうしてルーリの部屋でゆっくり過ごすのは久しぶりな気がする。ジェイに支えられて少しずつ回復したマヤリィは、いつまでも休養してはいられないと思い、表の仕事を引き続きルーリに任せつつ、書類仕事を始めた。そういった作業は「書物を読み解く者」であるミノリが相変わらず一人で抱え込んでいたのだが、マヤリィもその分野は得意な方なので、畏まるミノリを説得して、手分けして書類仕事を片付けることになったのだった。そして今日、ようやく皆の前に立つことが出来た。しかし、やはり流転の國最高権力者という肩書きは疲れる。ミノリの代わりにずっと書物と向き合っていたいと思ったくらいだ。…本当にこの人、支配者に向いてないよね。
気付けばコーヒーの香りが漂ってきている。
ほぼ同時に、ルーリの声がする。
「お待たせ致しました、マヤリィ様。そちらにお持ち致しましょうか?」
「いえ、そこに置いて頂戴。すぐに行くわ」
マヤリィは立ち上がって、ルーリに微笑みを向けると、ダイニングテーブルへ移動した。
「ありがとう、ルーリ」
「勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様」
美しいテーブル。座り心地の良い椅子。
上品なデザインのカップとソーサー。
最高級のコーヒー。
それらが全てマヤリィの為に用意されたものであることは明白だった。
ルーリは彼女の微笑みを見て、一瞬安堵の表情を浮かべたが、
「マヤリィ様、書類仕事の方はいかがでございましたでしょうか?貴女様のお役に立てず、大変申し訳なく思っております」
落ち込んだ様子で話す。
「気にしないで頂戴。書類仕事は元々ミノリの管轄だし、私も嫌いな作業ではないから手伝っていただけよ。…貴女は私の側近であり、流転の國最強の魔術師。それに、これまでのように最高権力者代理を任せられるほどの力も持っているわ。それがどんなに凄いことか分かるかしら。ルーリ、貴女は賢くてオールマイティーなサキュバス。そして、私の愛するひと…」
マヤリィ様、フォローの言葉が長い。
そしてまだ続くらしい。
「むしろ、貴女の苦手とする分野があることが分かって、ある意味安心してしまったわ。…だって、貴女はあまりにも有能だから、あれもこれもと仕事を頼んでしまいそうだもの。私としては、貴女には他の皆のように訓練するよりも、私の傍にいて欲しい。だって、貴女は既にこの國の二人の黒魔術師を相手にしても勝てるくらいの力があるのよ?」
二人の黒魔術師。
ネクロとシャドーレのことだ。
「勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様。貴女様の傍にいさせて頂けることは私にとって最上の喜び。そして、命を賭して貴女様をお守りすることが私の使命であり、生きる意味でございます。…黒魔術師二人を相手にするというのは…面白そうにございますね」
命令したら間違いなくやるだろう。
「貴女が本気を出したら、最終的には二人ともシロマに助けてもらうことになりそうね」
「マヤリィ様のご命令とあらば、結界部屋にて二人と実戦訓練を致しますが、いかがなさいましょうか?」
ルーリさん、既にやる気だ…!
「…そうね、結界部屋なら安全ね」
マヤリィは考え込む。今まで、訓練所を使ってランジュやユキ、バイオといった、流転の國の中では上位魔術師とは呼べないレベルの者達の実戦訓練は何度も見てきた。
トップクラスの実力を持つ者同士の実戦訓練を見たのは、流転の國に顕現して間もない時期だけだったかもしれない。
「実戦訓練ともなれば、一人対二人というのはあまりよろしくないわね…。そうだわ、貴女はジェイと組みなさい。雷系統と風系統。二つの魔術は決して相性は悪くない」
マヤリィはそう言うと、
「審判は私。回復役はシロマ。疲れているでしょうけれどミノリにも声をかけてみるわね。貴女はジェイと作戦会議よ」
「はっ、畏まりました!楽しくなりそうでございますね、マヤリィ様」
ルーリはジェイと共闘したことは一度もない。ゆえに、未知の楽しみが期待される。
「日にちは二日後にしましょう。それまで私もゆっくりさせてもらうわね」
マヤリィはそう言うと、コーヒーを飲む。
「貴女が淹れてくれたコーヒー、おいしいわ」
「有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」
その後、マヤリィは再びソファに移動するとルーリを隣に座らせた。
最高級のソファの上、寄り添う二人。
「…ルーリ、今夜は泊まっていいかしら」
「マヤリィ様、嬉しいです!!」
そのまま、二人はお互いを抱きしめた。
しばらく多忙な日々が続いていたらしいマヤリィ。
全然久々な感じしないけど、物語上は結構久々なルーリの部屋です。




