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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
91/270

90話 ユーリの目的

 見ず知らずの美人をお城へ連れて行くわけにもいかず、ユーラシアとシェティーネはヒュメの家の向かい側にあるお店へと入る。

 壁や天井、そして床一面が暖色系の色で埋め尽くされており、数箇所置かれている机や椅子も可愛らしくシールや絵の具のようなものでデコレーションされている。おまけに椅子はクッション性を取り入れられており、客のニーズを汲み取る戦略でとても繁盛している。

 席は全て埋まっており、店内はとても楽しそうな雰囲気で賑わっていた。

 ユーラシアたちが姿を見せるまでは。

 ユーラシアとシェティーネ、そしてユーリは、唯一空いていた窓際一番奥の席へ着くと、明らかに気まずそうな空気感を醸し出す。

 その空気に当てられた他のお客さんたちは、なんとか気にしないようにはしているものの、先ほどの楽しそうな雰囲気からは一変、店内は静けさに包まれていた。

 当然、ユーラシアがお店に来てくれて嬉しく思わない者はこの場には誰一人としていない。しかし、明らかにユーラシアたちのいる席のところだけ異様な空気感となっている現状、誰一人として純粋に喜べない。

 むしろ気まずい。

「え、えっと・・・・・」

「もしかして俺のことを知らないのかな?」

 ユーラシアとシェティーネのユーリへ対する態度は、明らかに不審者へ向けるもの。

「さっきまで騒がれてたから、もしかして俺って有名なんじゃね?って思ったんだけど・・・・・勘違いだったみたいだ。俺は東側のゴッドスレイヤー、ユーリ・ポールメール。聞いたことないかい?」

 ユーラシアはその名前に心当たりがないようだが、シェティーネの方はどうも違うらしい。

「えっ⁉︎」

 分かりやすくシェティーネが声を上げて驚く。

「おっ、そっちのお嬢ちゃんは知ってるみたいだね」

「もしかして、四天王の⁉︎」

「四天王?」

「貴方もゴッドスレイヤーを目指しているのなら知っておくべきよ。東のゴッドスレイヤーたちには、役持ちと呼ばれる人たちが存在するのよ。一番偉い存在が王と呼ばれ、次に四天王、そしてもう一つが六武神と呼ばれているわ。その六武神の一人が校長先生だったなんてあの時は本当に驚いたけれどね」

「え?・・・・・それってフェンメルさんと同じ————」

 ユーラシアは誰に言うでもなく、ただ独り言のように呟く。

 しかしそんなユーラシアから飛び出た名前に、ユーリは浮かべていた笑みを消して視線を向ける。

「私も実際会ったのは初めてだけれど、確か彼は最強と呼ばれているわ」

 そしてシェティーネの発言後にすぐさま笑みを取り戻す。

「勘違いしないで欲しいんだけど、最強っていうのは、何も自分で広めてるわけじゃないんだぜ」

「ていうことは、ゴッドスレイヤーの中で一番強いってこと⁉︎」

 ユーラシアもようやく目の前の人物が誰なのか理解できたらしく、目を見開き驚く。

「おいおい、人の話聞いてたか?俺は一番じゃないって。まっ、話があんま脱線しすぎるのもよくないし、早速用を済ませるとしようか」

 そうして話始めようとしたタイミングで頼んでいた三人分の飲み物が運ばれて来た。

「七日前、ここ西側領土からとてつもなくバカデカい魔力の気配を感じたんだ。どうして一週間も過ぎた今になって現れたのか気になるだろうけど、まぁ色々あって、できれば詮索しないでもらえるとありがたい。だけどその件について俺が聞きたいのは一つだけ。一体何が原因であれほど巨大な魔力が放たれたかってこと」

 ユーラシアは、ユーリの質問が自分の秘密を引き出させようとしているように思えて、どう答えるのが正解か思考する。

「勘違いしないで欲しいんだけど、別に君の秘密を探ろうだなんて思っちゃいないさ。ただ、俺は神による侵攻があったんじゃないかって思ってるんだよね」

 咆哮を放ち気絶した後のことはミラエラから聞かされていたため、『ゴッドティアー』の話は下手な言い訳としか取られないと思っていたが、目の前の人物は、既に神による侵攻があったことまで見抜いているらしい。

「誰かから聞いたんですか?」

「いいや、俺が勝手にそう思ってるだけ。まぁ、俺の知り合いは信じちゃいないらしいけどね。だけど少し考えれば明らかだろ?今まで感じたこともない魔力が突然放たれたんだぜ?今の時代、そんなことする理由なんて一つしかないわな」

「実は——————」

 ユーラシアは、突如何者かがオルタコアスへと『ゴッドティアー』を降らせたこと、そして、この国を守るために世界樹の力を解放したことを話した。

「なるほどな。だいたい俺の予想通りってわけか。とんでもないことが起きたのは確かだったみたいだけど、やっぱり本格的な侵攻はまだ先ってことなのかな?」

 ユーリは予想していた時期よりも侵攻の時期が早まったことを危惧し、即座に西側領土へと向かった直後に対処しようと試みていた。

 ユーリの発言に違和感を覚えたシェティーネは、真剣な表情で質問する。

「本格的な侵攻ってどういうことですか?」

「君たちは確か被害者だよね?バベル試練での事件」

 当然、五月末に行われたバベル試練で起きた事件はゴッドスレイヤー間ではとっくに共有されている。西南北のゴッドスレイヤーたちにもユーリが伝えて回った。

「それに今回のオルタコアスへのピンポイントな攻撃。どちらも前触れと言えばそれまでだけど、俺はその中に何かしらの目的が隠れてると睨んでる。例えば、今回の件に関して言えば、おそらく君が関わってるんじゃないかい?ユーラシアくん」

「えっ、ボクですか?」

 まさか自分のせいでオルタコアスが攻撃されたのだとしたら——————驚くと同時にとてつもない罪悪感にも駆られてしまう。

「多分だけどさ、神たちにとって君は脅威と判断された。だから、芽が育つ前に始末しようと考えたんじゃない?まぁそりゃそう考えるよね、だってあれだけの魔力は人智を超えているからね。最大の脅威と取られてもおかしくないとは思わないかい?」

 確かにそう考えると、オルタコアスがピンポイントで狙われたのにも納得がいく。

「なるほどね、確かにそう考えるのが妥当かもしれないわね」

 ユーラシアの実力を知っているシェティーネは、尚のことユーリの話に納得させられた。

「つまり、あの場でユーラシアくんがコキュートスと戦っている姿を見ていた人物が怪しいってことかしら?」

 となると、選抜者の学生だけに容疑者は絞られる。

 次の瞬間、シェティーネは顔を真っ青に染め上げた。

「シェティーネさん?」

「もしもあの場にいた人たちの中に『ゴッドティアー』を起こした犯人がいるとして、今回この国にいる生徒は、私と兄さんとユキ、ミューラ、そしてアートくんの五人」

 しかし、シェティーネの推測は、あくまでも単純に考えた場合のもの。もし、バベル試練の時に内部の様子を外部から見れる者が犯人ならば容疑者の範囲は大分広がってしまうし、今回も瞬間移動系の技や転移魔法陣を使用していた場合も予想の範囲外となってしまう。

 けれどシェティーネは、この時、バベル試練の特訓期間で交わしたある人物とのある会話を思い出していた。

 それは・・・・・・

「私、完璧に魔力制御できるのは、彼女とアートくんしかいないと思っていたのよ。けれどもし、彼女の魔法が魔法じゃなかったとしたら?コキュートスは、目の前にいるはずなのに目の前にいないみたく気配を感じることができなかったわ」

「シェティーネさん?一体何の話をしてるの?」

 ユーラシアには全く意味が分からず、終始困った表情を浮かべているが、ユーリはシェティーネを鋭い視線で見守っている。

「もしも、彼女が使っていた力が神の力なんだとしたら、私たちが感じ取れない理由にも納得がいくわ」

 あと少し、あと少しでシェティーネの口から彼女の名が出ようというタイミングでユーリが口を挟む。

「いいのかい?」

「え?」

「俺は今回『ゴッドティアー』を降らせた者の名前を知ってる。だけど、その名前を口にすれば、もう元の関係には戻れないだろ?」

 まぁ、口にしなくとも疑惑が生まれてしまった段階で前みたいには戻れない。しかし、口にしてしまえば後には引けない。

「例え今浮かんでいる人物が犯人だったとしても、胸の中だけにしまっておけばまだ戻れる。俺の予想では侵攻の時はすぐそこまで迫ってるとは言え、まだ一ヶ月弱は友達として接することもできるんだぜ?」

「ですが——————」

「黙ってることが辛いんなら、俺は止めない。だけど、侵攻までの間はこれまで通り友達として過ごす道もあるってことだよ。侵攻の時になったら、俺たちゴッドスレイヤーが何もかも終わらせてあげるからさ」

 口で言うのは簡単だ。しかし、ユーリ・ポールメールという男は、それほどまでに異次元の実力を有している。

 それにこれは、できる限りまだ幼い少年少女に辛い思いをさせないようにしようというユーリなりの優しさなのだ。

「信じてよ。だって俺、最強らしいじゃん?」

 普段は最強という肩書きを否定しているものの、こういう時に使えるのがまた便利なのだ。

 おかげでシェティーネは喉まで出かかっていた言葉を一度飲み込み、一呼吸おく。

「貴方のことを信じるわ。いえ、信じます」

「それじゃあ、もうそろそろ戻らなくちゃいけないんだけど、最後に一つだけ」

 そう言うと、ユーリはユーラシアをじっと見つめる。

「実はわざわざ君のことを探しにオルタコアスに来たのは、今の話をするためでもあったんだけど、本命はこっちなんだよね」

 ユーリはポケットから小さい銀色の何かを取り出した。

「ユーラシアって名前はさ、実はローズやこの国の人たちに聞く前から知ってたんだよ」

「指輪かしら?」

 机の上に置かれた指輪は、だいぶゴツゴツとした派手な造りとなっており、ユーリが付けるにしては大分チャラい。

「君にあげるよ。これさ、フェンメルが気に入ってたやつでね、なぜだかあいつの部屋に置きっぱになってたんだ。弟に残した置き土産ってところかな?あいつらしいと言えばらしいけどさ、俺に何もないのはちょっと理不尽だよな」

 ユーラシアは自分のために残してくれたというフェンメルのお気に入りの指輪へと手を震わせながら伸ばす。

「フェンメルさんが、ボクのために・・・・・」

 手に取った指輪へと目から溢れた雫が垂れる。

「フェンメルの奴言ってたよ。新しく生きる意味ができたんだってね。できればもう少し話していたいけど、もう時間だ。いつかまた、二人であいつの愚痴でも垂れてやろう」

 そう言ってユーリは一足先に店を後にした。

 その後、店に残ったユーラシアは、しばらくの間静かにフェンメルのことを思い出し涙をこぼしていた。

 シェティーネは、そんなユーラシアへとただただ静かに寄り添うのだった。


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