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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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85話 ドラゴニュート

 ユーラシアとミラエラのお披露目から二日後、オルタコアスは二つの意味で賑わっていた。

 一つ目は言うまでもなく、自分たちにとって神に等しい存在が今オルタコアスにいるという現実に対する歓喜。

 そしてもう一つは、先日のユーラシアの魔力の影響により、オルタコアスの至る箇所に出現した魔物の存在。

 当然、一般市民にしてみれば魔物は恐怖の対象でしかないが、ユーラシアたちは全ての魔物が敵ではないことを知っている。そのため、今回オルタコアスに出現した魔物もまずは様子を見るところから始めた。もちろん、少しでも被害が出てしまえば即刻処理しなければならなかったのだが、驚くべきことに一体たりとも民を含めたオルタコアス全体へ攻撃する意思を見せなかったのである。

 今のところ城内で確保している魔物は計十体。

 面白いことに、その全員が竜のような鱗に翼、尻尾を生やしている。常識では、魔力溜まりに発生する魔物に法則性はないとされている。唯一あるとするならば、当然濃い魔力の元には質の高い魔物だったり数だったりが発生するのだが、今回のように全員が同一の種族ともなると何かしらの要因が働いているとみて間違いはない。

 

「あの時は後先考えずに魔力を解放しちゃったけど、発生したのが大人しそうな魔物で良かったよ」

「思い出したわ!」

 

 ミラエラとユーラシアは、他にも発生した魔物がいないかどうかを一通り見て回っていた。

 当然の如く周囲から向けられる羨望の眼差し。やはり、悪い気はしないのである。

 ユーラシアとミラエラは、無意識に来る胸の高鳴りから胸を張って堂々と民たちの視線を集めている。ミラエラに関しては、冒険者をしていた時に似たような体験をしたことがあるだけに、ユーラシアの少し硬い笑みと比べ、美しく柔らかな笑みを浮かべている。

 そんな時、不意にミラエラが何か思い出したことでもあったのか、声を上げた。

「ドラゴニュートよ!」

「ドラゴ、何?」

「ドラゴニュート。かつて貴方がまだ竜王だった頃、竜族が支配する地の一つにドラゴニュートという種族が暮らしていたのを思い出したわ。相当昔の記憶だったから中々思い出せなかったけど、見た目があまりにもそっくりだわ」

 そう言うと、ミラエラはユーラシアから世界樹へと視線を移す。

「なるほどね。ドラゴニュートは見た目もさることながら竜の特徴の一つである表皮の硬さ、そして力も強く、竜眼の劣化版だけれど、相手のかなり微細な魔力の流れをも見極められる眼を持っている種族よ」

 そこでユーラシアも何かに勘づいたらしく、驚いた表情を浮かべる。

「えっ、てことは今オルタコアスにいるドラゴニュートたちは、ボクの竜王の魔力を宿してるってこと?でもさ、学園で一度魔力を解放しちゃった時はドラゴニュートは生まれなかったよね?」

「まず最初の質問から整理すると、おそらく竜の因子を取り込んで発生しただけで、貴方と同じ魔力は宿していないでしょうね。感じる魔力も貴方のものとは全然違うわよ」

 ユーラシアは恥ずかしそうに「確かに」と呟き頭をかく。

「そして二つ目ね。今回ドラゴニュートが発生した主な原因は、おそらくアレよ」

 ミラエラの指差す先にあるもの、それは、世界樹である。

「世界樹?」

「そう。魔力樹から発せられる魔力の粒子は、魔物を発生させることなく周囲の環境を豊かにする栄養素だけれど、そこには貴方の竜王の因子が含まれているはず。つまり、貴方自身から発せられたとてつもない魔力と、世界樹から発せられて長いことオルタコアスを満たしていた魔力が結合して、竜の力を宿すドラゴニュートが誕生したと言ったところかしらね。まぁ、なんで世界樹から発せられる魔力と結合した結果、ドラゴニュートが生まれたかのメカニズムまでは分からないけれど」

 おそらくは、母音と子音のような関係性なのだろう。

 元々の周囲の環境を母音と例えると、そこへ蓄えられる環境の栄養とはならない魔力が子音。同じaの子音でも母音がKとSでは全く異なる音となる。また、同じ母音だとしても子音が違ったり、二つ四つと重なり合えば音も形も異なってくる。

 学園の時では魔力はユーラシアのものと同じだったが、今とは環境が異なっていた。そして今回、世界樹=竜王の魔力が環境を形成していたことにより、竜王の魔力(+?×?)竜王の魔力=ドラゴニュートという化学反応的なことが起きたのだろう。

 もしかしたら、この関係性を解き明かすことができれば発生する魔物の法則性を導き出す糸口になるかもしれないことは、まだミラエラとユーラシアは気がついていない。

 そんなこんなで一通り見て回ってはみたものの、十体以外のドラゴニュート、あるいはその他の魔物は発生してはいないようだった。

 そうしてミラエラとユーラシアが城へ戻ろうとした時、真っ白な毛に包まれた可愛らしい少女に声をかけられる。

「お兄さん!」

「君は確か、あの時の!本当に無事でよかったよ。ごめんね、とても怖い思いさせちゃって」

 少女はユーラシアがユキの生み出した咎人を相手にしている時、唯一ユーラシアのことを信じて救おうと駆け出した少女。

 見た感じレーナやケンタとあまり歳が変わらなさそうなのに勇敢な子供だ。

「あの時、ボクのことを信じてくれてありがとう」

 ユーラシアは少女の頭をポンポンッと優しく撫でる。

 少女はなんとも可愛らしく無邪気な笑みをユーラシアへと見せた。

「ヒュメの方こそ、助けてくれてありがとう。ずっとお礼が言いたかったんだ。それと、ごめんなさい。助けるどころか、お兄さんに守られるだけだったから」

「そんなことないよ。ヒュメちゃんが信じてくれたからこそ、ボクは折れずにみんなを守ることができたんだから」

 ヒュメはモジモジと恥ずかしそうに俯いてしまう。

 ミラエラは微笑ましそうに二人のやりとりを眺めていた。

「あのね、ヒュメ。お兄さんにお願いしたいことがあるんだ」

「ん?何?」

「いつでもいいから、ヒュメのお家に遊びに来て欲しいの」

「全然いいよ!どんなところだろ〜楽しみだなぁ」

 ユーラシアはケンタたちの面倒をよく見ていただけあって、小さい子の扱いが慣れすぎている。

「えっとね、あそこだよ」

 ヒュメが指差した場所には、一軒のパン屋が建っていた。

「パン屋?」

「そう!あ母さんが作るパン、すごく美味しいから一緒に食べよ?」

 あまりにも可愛すぎる誘いに、ユーラシアの口角は自然と上がってしまっていた。

「うん。約束する」

 ユーラシアとヒュメは小指と小指を交わらせ、約束を交わした。

 ヒュメと別れた後、ユーラシアとミラエラは一先ずドラゴニュートを確保している城へと戻ることに。

 

 




 ユーラシアの下から姿を消したアート・バートリーは、地上にあるダンジョンへと繋がる門を抜けてオルタコアスの地下深くへと足を運んでいた。

 廃墟となった宮殿のようなそこは、高密度の魔力に満たされた空間となっている。

 次々と湧いて出てくる魔物の群れ。

「なるほど、やはりここも奴が作ったダンジョンというわけか」

 ダンジョンとは、外界から魔物たちを隔離・保護する目的で魔王を倒した勇者によって創られたとされる遺物である。

 学園の地下に存在するダンジョンは、異次元に存在するダンジョンへの入り口があるというだけであるが、オルタコアスの地下にあるダンジョンは、その言葉通りダンジョン本体が地中に存在している。しかし、ダンジョン内の魔力が外界へと発散することのないように、干渉できない次元の壁で覆われた状態にある。要するに、モノ自体はその場に存在するが、そこが別次元のようになっているということ。

「ふむ。呼ばれて来たはいいが、これではどれが目当ての声か分からないな」

 ゴッドスレイヤーに囲まれた最中にアートが姿を消し、地下にあるダンジョン内へと来た理由。それは、地下から自分を呼ぶ声が聞こえたからだ。

 しかし現状、他の魔物たちの叫びがあまりにもうるさすぎるせいで先ほどの声の主が誰であるかが分からない。せめて、もう一度自分を呼ぶ声がしたならば向かうこともできるのだが、自分たちのテリトリーに異物が紛れ込んでしまった魔物たちは大騒ぎ状態。

 もちろん、異物とはアート・バートリーのことである。

 そんな時、再度アートを呼ぶ声がした。

 

『こっちだ』

 

 先ほどとは違い頭の中に響く声、それとともに感じるある魔物たちの気配。しかし先ほどは、耳のよいアートでなければ聞き逃してしまうほどの声量が耳の鼓膜を振動させた。

 これほど魔力が満ちる空間内で、一瞬感じた魔力の気配を探り当てるなど到底不可能に近い。しかし、アートは何の迷いもなく一気にダンジョンの深部へと突き進んでいく。

 このダンジョンは体感的に下へと伸びる造りではなく、横に伸びる造りとなっている。

 剣聖村が存在するダンジョンとは異なる造りだ。

「この先か」

 アートの目の前に聳え立つ巨大な木の根のようなモノが張り巡らされた門をこじ開けると、先ほどの景色とは打って変わり、茶色く染められた洞窟が現れる。

 所々に木に生じる特徴的な割れ目や苔などが見受けられる。そうここは、洞窟というよりまるで樹の中にいるような景色が広がっていた。

 周囲を飛び回る鱗を持った魔物たち。一体一体が忙しそうに動き回り、侵入してきたアートに気がつく素振りすら見せない中、階段を経た玉座に座る一体の魔物がアートへと視線を向けている。

「我の誘いに応じてくれたことへの感謝は述べるが、歓迎はしないぞ。お前たち!その者を捕らえよ」

 玉座に座る魔物が命令を下した途端、先ほどまでアートには見向きもしなかった飛び回る魔物たちが一斉に動きを止めたかと思うと、直後勢いよくアートに向かって突進し即座に拘束を成し遂げた。

「呆気ない。抵抗の一つでも見せたらどうだ?」

 アートは手足を縛られ身動きを封じられた上、複数の魔物たちに槍まで首に突きつけられているというのに余裕の笑みを浮かべる。

「フッ、なぜ俺を呼んだのかは分からないが、お前たちに危害を加えるつもりなどない」

「愚か者の割に案外物分かりがよくて助かる。我らは「ドラゴニュート」。偉大なる竜王の名を語った理由、しかと聞かせてもらうとしよう」

 ドラゴニュートの長は、地に座り余裕の笑みを浮かべるアートを殺意ほと走る眼光で見下ろす。


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