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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
82/270

81話 刻まれた竜王の恐怖

 『原 天×点 界』。

 白銀の光が照らすその場所は最高神のお膝元であり、バーベルドは一人静かに光の先にいるだろう最高神を眺めるように仰向けとなり寛ぎのひとときを堪能していた。

 そこへ巨大な魔力反応が届いた直後、片腕を失った状態のユキが慌ただしく現れる。

 光の空間に入った途端、失ったはずのユキの片腕はみるみるうちに再生していく。

「おい、アクエリアス!今の魔力はいってぇ何だ!俺の細胞が思い出したくてウズウズしてるんだが、どうにも思い出せねぇ!」

「わらわとしたことが、完璧にあやつの実力を見誤っておったわ!」

 息を乱しながら焦った様子で発言するユキ。

 一方のバーベルドとて、今まで感じたこともない巨大な魔力反応を感知してしまったため、落ち着いてはいられない。

 なぜなら先ほど感じた魔力の気配は、かつての魔王にすら感じ得なかったほどの魔力量だったのだから。

「早よ答えろ!てめぇは一体何と戦ってきやがった?」

「先ほど言ったであろう?」

 自分とて混乱している状況の中、ひたすらに答えを急かすバーベルドへとユキは怒りの矛先を向ける。

「ユーラシア・スレイロットとかいうガキってことだけな。だがな、俺が聞いてんのはそのガキの正体についてだよ!十年前にてめぇの『断罪の雨』を止ませた勇者の息子か何か知んねぇけど、エルフでもねぇたかが人間風情があれほどの魔力量を宿せるわけねぇ。原初のてめぇなら、あいつの正体に気づいてんじゃねぇのか?」

 バーベルドは先ほど感じた気配の正体を知っているような感覚に陥っている。自身の記憶にはない情報。それは即ち、最高神から授けられた力に刻み込まれた記憶であるということ。そのため、最も古き神人である原初ならば最高神の次に最高神のことを分かっているに違いない。そう判断してのバーベルドによる追及。

「教えてもよいが、愚かな真似は決してしないと誓うがよい」

 傷も癒え、心も多少落ち着いてきたユキは、普段のように上から目線でものを言う。

「俺の独断が、最高神様の意に沿わないことくらい分かってら。いいから勿体ぶらずにさっさと話せや」

 ユキは失っていた片腕に視線を向けると、眉を顰める。

「竜王だ」

「んだと?」

「最高神様の力に刻まれた記憶でしかないが、あの気配は疑いようもないほど、竜王の魔力であった」

 ユキは話しながら顔を青ざめさせていく。

 もしも後レイコンマ数秒逃げるのが遅れていれば消滅していた可能性だってあった。

 そう考えるだけでも背筋が凍る衝動に駆られてしまう。

「わらわは驕っていたのだ・・・・・十年前に人類に絶望を刻み込んだ余韻に未だ浸っていたのだ。アレを刺激するべきではなかった——————」

 ユキは思考する。


 (だが人類に敵対する以上、奴の存在は無視することなどできぬ。ならばもう少し時間をかけて正体を暴くべきであったのか?けれどそれからどうすればよいのだ?異次元に隔離しようとも意味などなかろう。わらわのあらゆる攻撃が意味をなさぬだろう。あんなものに勝てる道理がどこにあると言うのか——————)


 ユキは冷静であって冷静ではなかった。

 ユーラシアと真正面から向き合うことに固執してしまう考えこそがその証拠である。

「情けねぇな、おい!竜王か、魔力を感じた時は驚いちまったが、面白いことになってきたじゃねぇかよ」

 真剣に思考するユキを前にして、笑みを浮かべ余裕の発言をかますバーベルド。

 そんなバーベルドを見てユキはまたもや怒りを覚える。

「其方は竜王がどれほど強大か知らぬからそのような態度でいられるのだ」

「だから何だよ?今はまだ竜王って単語にピンとは来てねぇが、俺の中にある最高神様の力に刻まれた記憶をここまで思い出しかけてんだよ。まぁ、思い出したところで俺の態度が変わることはねぇけどなぁ」

 バーベルドは分かりやすく喉に手を当て、ユキへと記憶の主張をする。

 しかし、ユキにとって今のバーベルドほど愚かなことはない。

「よいか?今のわらわと同じく、最高神様も力の回復に努めていらすことは知っているな?」

「たりめぇだ。俺ら神人を作るために力を使ってくれたんだからな」

「それならば、何のためにわらわたち神人を創造してくださったかは知っておるか?」

 バーベルドは鋭い視線をユキへと向けながら沈黙する。

「魔王の時はわらわたちでは歯が立たなかったため再び最高神様が動いて下さったが、最高神様の代わりを務めることがわらわたちに課せられた使命といえようぞ」

 ユキの発言を聞き、ものすごい眼力で睨みを利かすバーベルド。

「最高神様の代わりだ?自惚れてんじゃねぇよ。俺たち如きが最高神様の代わりになんてなれるわけねぇだろうが」

 現に、最高神は神人三名を除く神の遣いへと常に力を補給し続けている。

 例えばユキが生み出したコキュートスやバーベルドのマンティコアなどは例外だが、ユニコーンなどの最高神が創造した存在は、力の定着ではなく、供給を施している。

 それが叶うのは、最高神が無限に近い力を宿しているからに他ならない。

 それなのにどうして最高神は今弱体化しているのか?

「かつての竜王は、最高神様自らが破壊なさったのだ。そしてその代償として力の半分以上を失うこととなり、回復に努めておるというわけだ。原初であるわらわのことは、その頃の不安定な最高神様を支えるため、自ら創造してくださったのだ」

 そして次はユキによる鋭い視線がバーベルドへと向く。

「其方は、最高神様のお力がわらわたち神人を創造した程度のもので失われるとでも思っておるのか?其方こそ自惚れるのもいい加減にするがよい。よいか?最高神様はその疲弊した状態でわらわたちを創造してくださった上、自らが生み出された存在にまで永遠に力の供給をなされておるのだ。それでも順調に回復なされている現状から考えれば、竜王と魔王。あやつらの恐ろしさが手を取るように分かるであろう?」

 神人にとっては勿論のこと、人類にとっても神である最高神は揺るぎない絶対的存在だ。

 竜王は、そんな最高神の力を半分以上も削る原因となった存在。

 そして、最高神の力を更に削ぐ原因となった魔王とて油断ならぬ相手。しかし、竜王はその比ではないほど最高神の力には恐怖として根強く刻まれているのだ。

「ハハッ」

「何がおかしいのだ?」

「いや、おかげで俺の記憶も目を覚ましてくれたことが嬉しくてな。ありゃやべーなんてもんじゃねぇな」

「じゃが、奴を出し抜く方法はある」

 完璧に冷静となったユキの思考は、前々から準備を進めていたもう一つの計画のことを思い出していた。

「守るものが多い者は、その分弱点も多いことよ」

 ユキの発言を聞いたバーベルドの口元に再び笑みが宿る。

「人質ってやつか。竜王の動きを少しでも封じれりゃあ、勝気も見えてくるってわけだな。だが、さっきから竜王の魔力を感じねぇのはどういうわけだ?まさか、あんなバカでけぇ魔力を押さえてやがんのかよ?」

「それについてはわらわも疑問に思っていたところだ。けれど奴が危険なことに変わりはない。始末できるのならば、早急に始末したいものだな」

 そんなユキの発言に対し、最高神が言葉を返した。

 それは、二人にとって耳を疑うことだった。

 内容は、「竜王の転生体にはこちらからは手を出すな」というものだった。

「はぁ⁉︎いや、すみません。だけど、手を出すなってどういうことですか?」

 予想打にしなかった最高神の反応により、バーベルド同様、ユキも呆気に取られてしまっている。

 しかし最高神は淡々と告げる。

 「竜王を破壊する結果になってしまったのは、竜王のせいではなかった」のだと。それ故に、人類の味方をすることを諦めるよう説得することを説かれてしまった。

 その説得が失敗に終わるようであれば仕方なき、竜王を再び破壊することが許された。

 ユキとバーベルドには詳しい事情は一切明かされないまま、最高神との会話は終了した。

 最高神の命令は絶対ではあるものの、二人が納得していないのも確か。しかし、もしもユーラシアが説得に応じてくれることがあればこれほど助かることはない。まぁ、そんなことありはしないだろうが。

「では、わらわは怪しまれぬようそろそろ地上へ戻るとする。今更ではあるが、フローラはどこへ?」

「いつもの養殖だろ」

「よくも飽きないものよな」

 そう言い残し、ユキは再びオルタコアスへと戻って行ったのだった。


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