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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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77話 指名手配宣言

「それにしても驚いたわ。国の様相がカーディナルにそっくりなんだもの」

「そうですね。それに、この建物も外見は俺たちの家とよく似た造りになっています」

 カーディナルとオルタコアス。この二つの共通点は、和の様相である。しかし異なるのは、カーディナルは発展後の様相が和を醸し出しているのに対し、オルタコアスは、まだまだ未成熟の通過点として和を創り出しているに過ぎないのである。

 勿論、似ているだけで建物一つ一つの見た目や造りにはかなりの違いがある上、オルタコアスには世界樹が聳え立っているため、受け取る印象がかなり異なる。しかし、ミラエラからすればカーディナルもオルタコアスも懐かしい光景であった。

「あれ?そういえばアートくんたちは?」

 気がつくと、この場にはユーラシア、ミラエラ、レイン、シェティーネの四名の姿しかなく、アート、ユキ、ミューラの姿が消えしまっている。

 しかし、ユーラシアの問いに対する反応が返ってくる前に部屋の扉が開かれた。

「やぁやぁやぁ、待たせたな。自称世界樹の宿主よ!今から貴様が偽物かそうでないかをしっかりと確かめさせてもらうぞ!」

 ユーラシア一行を騎士に囲ませ待機させていた部屋へと、先ほどの男たち二人が姿を見せる。

「あの人は大丈夫なんですか?」

「父上のことか。今は妻に付き添ってもらい静かに眠っている」

 ユーラシアは心底ホッとしたような表情を浮かべ、ため息をついた。

 そうして大きなシャンデリアの下に置かれたソファへと双方腰掛け話し合いが開始される。

「私の名はフレーゴ・アムストラダムス。そしてこっちが息子の———」

「ポルド・アムストラダムスだ!」

「知っているかは分からないが、オルタコアスとなる前のこの国は、かつてアムストラダムスという名の大国だったのだ。要するに、私と私の父であるグリシャ。そして妻は、アムストラダムスの国を生きた王族というわけだ。当然、他にも生き残った名のある貴族連中はいたにはいたのだが、文明が滅んだ直後に国を捨て出て行ってしまった」

 つまり、アムストラダムスだった頃からこの地で暮らしている貴族・王族は、アムストラダムス家のみということになる。勿論、市民の中にはアムストラダムスの頃からの住人もいる可能性はある。

 そして、そういった者たちにより、スレイロットの伝説、その息子の存在が語り継がれているのだ。

 しかし、息子であるユーラシアを目にしたことのある者はほとんどいない。その証拠に、ユーラシアの赤髪やその面影を見ても、フレーゴとポルドは目の前の少年がユーラシア・スレイロット本人であることを疑っている。

「私たちオルタコアスの民にとって、世界樹こそが神なのだ。だからこそ、軽率に世界樹の宿主だと語る者を簡単には認められないんだ」

 ユーラシアは、一度たりともフレーゴに対して自分が世界樹の宿主などとは言っていない。言ったのはグリシャである。

「そういうことだ。分かったか?少年よ」

「君だって少年でしょ?ボクとあまり歳変わらなさそうに見えるけど?」

「言うではないか言うではないか!では問おう、もしも貴様が世界樹の宿主だとしたら、その微弱な魔力の気配はどう説明するのだ?」

 ユーラシアを見たことがない者たちにとっては、その魔力でしか世界樹の宿主かそうでないかを確かめる術がない。

 つまり、騎士たち含めこの中で最も魔力の少ないユーラシアを疑う気持ちは至極当然な感情。

「そのことについては、私から話させてもらうわね」

「いいだろう」

 フレーゴはミラエラの話に耳を傾ける。それを見たポルドも、フレーゴ同様に腕組みをしてミラエラへと視線を向ける。

 ミラエラは、十年前に自身がユーラシアの魔力樹を擬似魔力樹によって封印した話を聞かせた。

「なるほどな。確かに矛盾はしない。だが、擬似魔力樹のことをあまり詳しくない私たちからすれば、身分も今の話も、いくらでも嘘で固めることができてしまう」

 そんなことを言ってしまえばキリがない。しかし、裏を返せばそれほど世界樹に対する崇拝が強い証拠でもある。

「ユーラシアの赤髪は見るからに生まれつきだろう?」

「貴殿は、この者の学友か?」

「まぁ、そんなところだ」

 レインはどこか照れくさそうにそっぽを向く。

「生まれつきか染めてあるかなど、たかが十かそこらの君に分かるとでも?」

 思っきしのブーメランが刺さりまくりのポルドに突っ込んでやりたい気持ちを抑えるレイン。

「例え生まれつきだとしても、赤髪など探せばいくらでもいるのではないか?」

「確かにいると思うわよ。だけど、ユーラシアくんは信じるに値する強さを持っているわ」

 続いてユーラシアの助っ人として発言したのはシェティーネ。

「ほほう?ならば一度手合わせ願いたい!このオルタコアスで父上に次ぐ炎使いだと称された俺の華麗な攻撃をとくと貴様に見せてやろうではないか!———————ッ‼︎」

 ポルドが勢いよく立ち上がった瞬間、突如ユーラシアたちの背後のガラスが勢いよく割られ、何者かが城内へと侵入を図った。

「貴様・・・・・誰の顔を掴んでいる?ポルドを、私の息子から手を離せぇ‼︎」

 侵入してきたそいつは、明らかに異形の形をしており、全身が黒く濁った流動的な液体のようであり、ぬるりと伸びた太い腕にポルドの顔面は鷲掴みにされている。

「た、たブゲテッ——————ゴフッ」

 異形の化け物は見た目通り液体のようで、ポルドは咄嗟のことで息が吸えなかったのか、既に溺れかけてしまっている。

「私から離れていろ」

 フレーゴは手のひらを熱く、限界まで輝かせる。

 

「フレアバースト‼︎」

 

 放たれた高熱の熱線は、異形の化け物の胴体へと直撃し、徐々に液体の体を蒸発させていく。

 しかし、その熱に晒された周囲の温度は急激に上昇していく。

「フレーゴ様!このままでは、私たちもろとも焼け死んでしまいます」

「チッ——————なっ⁉︎」

 異形の化け物は、次の瞬間、信じられない行動を取った。

 熱線が届いていない部分で背後にいたユーラシアを包み込み、周囲に蔓延する熱さから守ったのだ。

「これは一体どういうことだ?なぜその化け物が貴様のことを守る?」

 フレーゴの魔法は既に止み、唖然とした表情を浮かべる。

 フレーゴのユーラシアへと向ける瞳は、既に疑念に満ち溢れていた。

「勇者の息子のフリをして私たちに近づいた目的は何だ?」

「違います。ボクは——————」

「息子を離せと、命じてみろ」

「え?」

「いいから、命じてみろ」

 ユーラシアは言われるがままに化け物へと指示を出す。

「その子のこと、話してくれる?」

 化け物はすんなりと掴んでいたポルドの顔から手を離し、ゆっくりと地面へと降ろす。

「何が目的かは知らないが、この国は傷つけさせんぞ。世界樹を愚弄した報いを受けろ、侵入者め!」

 部屋の扉が勢いよく開かれ、待機していたであろう、銃、弓、槍、剣を装備した大勢の騎士たちが姿を見せる。

「ちょっ⁉︎」

 しかし直後、ユーラシアは異形の化け物によって、城の外へと連れ去られてしまった。

「ミラエラ姉さん。一体どういうことなの?どうして襲ってきた化け物がユーラシアくんの見方をするんです?」

「私も状況が理解できていないの。けれど、あの化け物がユーラシアの味方ではないことだけは確かね」

「お前たちがどう考えようが勝手だが、私は王として、この国を守る義務がある。悪いがあの者を指名手配させてもらう」

 その後フレーゴは、すぐさま国民へ向けて勇者の息子ユーラシア・スレイロットの名を語る侵入者の指名手配宣言を発令した。

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