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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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76話 オルタコアス

 国の中央に聳え立つ世界樹。

 その周囲をピラミッド式に緑生い茂る森林の群れが囲んでいる。

 世界樹の影の下に生きる森林よりも外側には、ポーメル国に立ち並ぶ建物と少しだけ似た雰囲気を感じる建物や家が並んでいる。

「まるで江戸時代ね」

 すると、今のオルタコアスを目にしたミラエラから、ユーラシアたちの知らぬ言葉が飛び出した。

「ミラ、エドジダイって何?」

 ユーラシアだけでなく、案内してくれている老人までも不思議そうな表情を浮かべ足を止めている。

「この世界が今、神放暦二六八年と数えられているようなものだと解釈してもらえればいいわ。こことは別の世界には、時代と呼ばれる単位で人の歴史が区切られている場所も存在するということよ」

 神放暦とは、その名の通り神から見放された年月を数えたものである。つまり、魔王討伐以降で神からの恩恵が消え、最初の攻撃を仕掛けられた年が神放暦一年となる。

 ちなみに魔王と人類が戦争していた時代を対人魔暦と呼び、対人魔暦〜神放暦の間に存在する時代を解放暦と呼ぶ。

 そして、竜族が存在していた時代は、ひとくくりに古代暦と称されてはいるものの、細かく見ていけば古代暦の中にも複数の暦が名付けられている。

「はっはっは、この世界のことでない知識もお持ちとは、流石、先生殿は博識ですな!」

「まぁ、私は見た目よりもずっと長く生きているからね」

「おっそうなんですね。ひょっとして私よりも歳上なんてこと・・・はありませんか」

 世界樹の宿主との対面によりテンションがかなり上がってしまっている老人は、冗談にもそんなことを言う。

 しかし老人の発言は、冗談にはならない。

 なぜならば、真実であるから。

「あら、よく分かったわね。私は貴方よりも随分歳上だと思うわよ」

 あまりにも当然とばかりにミラエラが発言すると、老人の表情が曇り、真剣な眼差しをミラエラへと向ける。

「そういえば、私は先生殿のことを初めて見た気がせんのですが・・・・・先生殿は、一体何者なんです?」

「そうね、今言えることは、私はユーラシアの育ての親ということね」

「ということはつまり!貴方様が勇者様からユーラシア様を託されたお方ということですか!」

 老人は感無量というばかりに大粒の涙を流しながらミラエラの手を取る。

「お名前を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「ミラエラ・リンカートンよ」

 流石のミラエラも老人のペースに呑まれ、いつもの調子が出ないといった少し困った表情を浮かべている。

「こうしてはおれません!お二人にはオルタコアスとして生まれ変わった世界樹の地を堪能してもらいたかったのですが、その前にまずは、国民に早くこの事実を伝えなければなりませんな」

「えっ、それって・・・・・」

「そうです。ユーラシア様とミラエラ様をオルタコアスの国民皆にお披露目するのですよ!」

 流石に学園での生活もあるし、ユーラシアとしては、大々的に世界樹の持ち主であることを発表されるのはとても気が進まない。

 まず間違いなく西国だといっても東南北の国々にもすぐにこの噂は広まることだろう。そして間違いなくしばらくの間は注目の的となってしまう。

 更に、お披露目後のオルタコアスでの観光もしづらくなってしまう可能性がある。まぁ逆に、あらゆる店が無料になる可能性もあるのだが。

 しかし、メリットとデメリットを天秤にかけた時、明らかにデメリットの方が大きい。

「私たちにも今の生活があるのだから、流石に大々的に発表されるのは困るわね」

「うん。ボクもあまり注目されるのは得意じゃないから」

 ユーラシアもミラエラと同様の考えだったらしく、ミラエラの意見に同調する。

 しかしその直後、老人は地面に額を擦り付け、誠心誠意精一杯の土下座をして見せた。

 その瞬間、一気に周囲の者たちから響めきが生じる。

 先ほどからユーラシアたちへ複数の視線が向いてはいた。おそらくそれは、外の者たちとは異なり、この国でかなり偉い立場にあるだろう老人と共に行動していたことに対する興味・関心の視線。

 しかし今は、そんな老人に頭を下げさせている困惑と、動揺の視線だ。

「何卒、お願いしたく思います。信じ難い話ですが、この国はたった十年でこれほどまでの景観美と多種多様な種族の者たちで賑わう場所となりました。それらは全て世界樹の恩恵と、我らオルタコアスの民による崇拝と尊敬の念があってこそでございます。そしてそれらは勇者様とその子に向けられています」

 世界樹の恩恵とは、魔力樹が光合成を行う際に発する酸素とともにばら撒かれる樹の要素を含ませた魔力粒子のこと。この魔力粒子は、魔物の養分となる魔力ではなく、周囲の環境への栄養となる魔力に変換されたものである。

 そしてオルタコアスの民は、世界樹を想う気持ちがあってこそ復興への力を振り絞ることができ、その想いは次第に種族の壁を超えて伝播していき、たったの十年で面積と景観美においては他国と比較しても遜色ないほどまでに成長することができた。しかし、建物などの人工物は、まだまだ技術不足が目立つ部分が多くある。そのため、数もそこまで多くはない。

「本当にありがたいことに、世界樹からの膨大なる恩恵はまだまだ止まりません。そして更なる発展には、更なる民たちの心の支えが必要となるのです。だからどうか、どうか民たちへと貴方様方のお姿を拝見させていただけないでしょうか?」

 オルタコアスは、村でも噂通りの小国などでもなかった。

 オルタコアスは、立派な国となっている。しかし、蓋を開ければまだまだ未熟な部分もあるのも確か。

 そして、世界樹の恩恵を受け取るオルタコアスは、この世界で一番の大国へといずれは発展することだろう。しかしそのためには、民たちの力が必要不可欠となる。

 ユーラシアとミラエラのお披露目は、そんな民たちの力を引き出すためには欠かすことのできないことだと老人は涙ながらに語る。勿論、今後民となる者たちの原動力にもなり得る。

「何を迷うことがある?ユーラシア、お前の持つ力は秘めておけるような代物ではないだろう。ならば、この機にバラしてしまうのも一つの手だと思うぞ」

 まかさの老人の想いを後押ししたのは、近くで三人のやり取りを終始眺めていたアートだった。

「アートくん」

「それに、今更断るにしても手遅れ感が否めないな。周りを見てみろユーラシア」

 レインに言われて視線を老人から周囲の人たちへと向けると、先ほどの外での状況と似たような状況が出来上がっていた。

 あれほど世界樹を連呼した上、ユーラシアとミラエラに向けて位の高い者が頭を下げているとなれば、かなりの非常事態。

 既に手遅れ・・・・・ユーラシアとミラエラは、本当にその通りだと思ってしまった。

「諦めるしかなさそうね」

「うん———」

 直後、明るくなった老人の表情が何の前触れもなしに急に険しいものとなり、胸を押さえて猛烈に苦しみ出した。

 

「ありがと、ウッ‼︎カッ——————」

「これは、心筋梗塞の類か。この状況では、事情を知らぬ者からすれば俺たちが悪者に見えてしまうだろう」

 今にも死を迎えそうな人を前にして、冗談めかしにそんなことを言うアート。

「アート、お前・・・・・」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!ねぇミラ、こういう時ってどうすればいいの?」

「そうね・・・・・病気については専門外だけれど、一先ず医師の下へ運びましょう」

 そうして老人の体に触れようとした時、複数の騎士たちがこちらへと向かって来るのが伺えた。

「父上ッ!」

 地に倒れ悶え苦しむ老人を目視した途端、騎士に囲まれていた一人の男が飛び出した。

「お体も優れないと言うのに、突然城を出ていかれるなど、もう少し自身の命を大切にしてくだされ」

 一先ず親族が駆けつけてくれたことにより、老人の一命は何とか取り留められた。

「全く、薬も持たずにどこかへ行かれるなど、何を焦っていたんだ?」

 そう言って、立ち尽くすユーラシアたちへと朝焼け色の衣装を着こなした橙色の髪の男性が視線を向ける。

「そういえば、門番である審査官の一人が先ほど父上と何やら話していたようだが・・・・・」

「——————赤髪の彼こそが、世界樹の宿主だ」

「それは本当ですかッ‼︎おじいちゃん!」

 すると、老人の発言に対し息子である男性だけでなく、背後に控える騎士たちまでもオロオロと動揺の様子を見せ始める中、息子である男性と同じ髪の色をしたユーラシアと同い年くらいの男の子が元気よく騎士たちの隙間からひょっこりと姿を現した。

「むむっ⁉︎だがおかしくはないか?あれほど大きな魔力樹を宿しているとするならば、貴殿から感じる魔力の気配はいささか少なすぎる気がするのだが?貴様、もしや偽物かぁ!」

「確かにそうだな小さき子供が、あれほど巨大な魔力をたったそれだけの微弱な気配へと抑えられるとは到底思えない。しかしここで話すような内容ではないな。この者たちを一度城へと案内して差し上げろ」

 何はともあれ、ユーラシアたちは当初の予定通り老人の家。いわゆるこの国の城に案内してもらえることに。

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