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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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73話 『原 天×点 界』

 ここは『原 天×点 (げんてんかい)』。最高神の存在し得る場所であり、全ての始まりの場所である。

 白銀の光が照らすその場所には、得体の知れぬ三名の姿がある。

 一人は幼い少女の姿を。

 一人は麗しい顔立ちに、華麗な赤いドレスを着ている。

 そしてもう一人は、逆立つ白髪に真っ赤な瞳で鋭い目つきをしている。

「おい、アクエリアス。てめぇはいつになったら人類に仕掛けるつもりなんだぁ?」

 神名『アクエリアス』。本名『ユキ・ヒイラギ』は、苛立つ男には視線すら向けず淡々と言葉を並べる。

「まだじゃ。其方はただ、わらわの合図を待っておればそれでよい」

「まぁまぁ、ネメシスもそうカッカしないで、アクエリアスの合図で人類へと侵攻するのを決めたのは、他でもない最高神様でしょ?」

「ケッ、んなこといちいち言われなくても分かってるっつんだよ」

 男の神名は『ネメシス』。名は『バーベルド』。

 バーベルドは、常に絶えぬ怒りを燃やしている。それが誰へと向けたものなのかは、複雑すぎて二人の知るところではない。

「まぁ、安心するがよい。わらわの力も完璧に回復しつつある。侵攻の時はすぐそこまで迫っておると心しておけ」

「十年前、地上に降らせた『断罪の雨』。本当に美しかったなぁ。あれがまた見れるんだと思うと、心が躍って仕方ないよ!」

 彼女の神名は『フローラ』。名は『ウェルポネス』。

 バーベルドを宥めつつも、実は内心一番侵攻の時を心待ちにしているのは、彼女なのかもしれない。

 ウェルポネスは、ユキが降らせた『ゴッドティアー』にいたく感銘を受け、それ以来、ユキのことを最高神の次に崇めているのだ。そのため、もう一度あの美しい景色を観れるのだと、心躍らせているわけだ。

「確かにあん時のこいつは、俺たちでも引くほどのバケモンだった。けどよぉ、今の俺ならあん時のアクエリアスにも勝てる自信があるぜ?」

 バーベルドの解せない発言に、ウェルポネスは美しくも冷酷な鋭い視線を向ける。

「聞き捨てならないなぁ」

「原初だかなんだか知らねぇけど、生まれた順番なんて、もう関係ねぇだろが」

 『原初』・・・それは、最高神が自らの後継として神の力を与えた最初の『神人(カミビト)』のこと。

 『神人』は、神ではなく、神の力を宿す存在。つまり、人類が神々と呼ぶ存在は、実際には最高神以外は神ではなく、その創造物であるということ。

 

 その瞬間、三名の頭の中へと最高神の声が響く。

「「「最高神様」」」

 三名はシンクロして、その場に姿なき最高神へと片膝をつき頭を垂れる。

 

 最高神は述べた『確かに一対一での戦いなら、勝つのはネメシスであるだろう』と。しかし、それだけが侵攻の先頭を任せる要因ではないとも述べた。

「人間の言葉を借りるならば、失敗は成功の元ってことですよね?」

 最高神の答えは「沈黙」。それ即ち、一つの答えではあり得るということ。

「チッ、何が失敗は成功の元だ。くだんねぇ、だけど俺がどんだけ駄々をこねたところで決定は覆らねぇことぐらい分かってら。最高神様、そこで一つお願いがあります」

 バーベルドは改まって頭を垂れる。その口元には、薄らと笑みが浮かべられていた。

「もしも、魔王の転生体がいたら、その時は俺にやらせてください」

 バーベルドのあまりにも無礼な発言に対し、ユキとウェルポネスが不快な表情を浮かべる。

 それもそうだろう。最高神自らが手を下していないとは言え、生み出した勇者によって滅ぼされた存在なのだから。要するに、最高神が倒したと言っても過言ではない。

 つまり、もしも魔王が転生しているのだとすると、それは最高神の落ち度ということになり、バーベルドはまさに今、そのことを示唆したことになるのだ。

「発言には気をつけた方がよかろう。最高神様が許せど、わらわが貴様を許さぬぞ」

「アクエリアスの言う通りかな。だけど、どうして魔王が復活してると思ったの?完全に滅んだはずじゃん」

 バーベルドは二人を見下すかのように饒舌に語り出す。

「本当に考えすらしなかったのか?まぁいい、俺の考えを聞かせてやるよ。まず、地上に生えるあれは何だ?」

 バーベルドが指すものは、地上に聳え立つ世界樹である。

 白銀の光で包まれている足場に多少の穴が空き、地上の景色を映し出す。根底から『原 天×点 界』は世界の次元からはみ出した次元に存在しているため、流石に地上の様子や音などの詳細な情報は感じ取れない。

「んなもんが最高神様の加護を受けずに、人間だけの力で誕生させられると?悪りぃが俺はそうは思えねんだよ」

「だが、魔王のものとも限らぬであろう。現に、周辺の環境は、凶々しい魔力には一切晒されてはおらぬであろうが」

 客観的に観察したユキの的確な指摘により、バーベルドの考えは早くも崩れるかと思われたが、バーベルドの表情に怒りは含まれていない。

「あれが生えたのは十年前なんだろ?てことは、まだ宿主はガキってことじゃねぇかよ。あんなもんが成長したら勇者なんか比べ物になんねぇ大きさになる。いいか?力ある者には、必ず宿敵っつう因果が巡るってくるもんなんだよ」

 事実、魔王の因果は勇者であったと、バーベルドは言う。

「つまり、あの魔力樹の宿主の因果が魔王って言いたいの?」

 ウェルポネスの発言に対し、浮かべていた笑みを更に深めるバーベルド。

「可能性として、否定できんのかよ?」

 実際、最高神でも魔王の気配を感知することができてはいない状況。そんな中、推測だけで魔王の復活を前提とした計画を立てるのは、メリットがない。

 バーベルドは貴重な戦力だ。バーベルド自身はもとより、その配下たちも。そのため、不確定要素の多いものに意識が傾きすぎてしまったせいで計画全体に支障をきたしてしまっては笑えない。

「そんな深く考えんなよ。ただ、魔王が復活してたら、俺がその相手をするってだけのことだ。そうじゃなけりゃ、お前らの望み通りに動いてやるよ」

 ユキとウェルポネスにとっても、バーベルドが思い通りに動いてくれるのは、好都合。

 最高神も特に異論はないらしく、こうして両者納得の元に話は終わった。

 最高神が異論を唱えなかった理由。それは、魔王の復活を未だ知ってはいないためであり、例え復活を悟ったとしてもバーベルドへ全幅の信頼を寄せているためである。おそらく魔王が復活すれば、最高神への復讐心を強く抱いていることだろう。しかしバーベルドならば、かつて生み出した勇者に匹敵するほどの強さを宿しているのだ。そんなバーベルドの矛先が魔王へ向いているのならば、最高神自らが口を出すまでもない。しかし破れてしまうようなことがあれば、その時は己に牙を向けているであろう存在を容赦なく消滅させるのみ。

 

 

「前置きが長くなってしまいましたが、人類へと侵攻の目処が立ちましたので、その報告をさせていただきたく存じます」

 最高神は、ユキへと発言の許可を出す。

「わらわの力は、後ひと月ほどで完全なものとなりましょう。そして今から約ふた月後に、わらわが通っている学園で『魔導祭』なるものが開かれ、そこには、東西南北から多数のゴッドスレイヤーたちが集結すると推察されます。よって、その『魔導祭』にて侵攻を開始しようかと」

 今は最高神とユキの会話の時間。

 バーベルドとウェルポネスも少なからず礼儀を弁えているからこそ、二者のやりとりに割り込むような愚行はしない。

 そして、最高神はユキの考えに賛同する意を示す。

 ゴッドスレイヤーは、今の世界では人類の希望である最高戦力である。そのため、その戦力が集中する『魔導祭』は、絶好の侵攻日となり得るのだ。

 しかしここで大きな問題が浮上する。

「けれど、一つ問題があるのです。最高神様の命令通り、わらわは、バベルに囚われた仲間を解放することに成功致しました」

 そして、解放後の扱いにおいては命じられてはいなかったため、ユキは仲間を養分としてコキュートスを誕生させた。

「わらわは、誕生させたコキュートスを利用して自らの復讐を果たそうとしたのですが・・・・・」

「復讐?アクエリアス、てめぇ、そりゃあネメシスの名を授かる俺の真似ごとか?」

 ユキが少しの間言葉を詰まらせた途端、先ほどから発言を我慢していたバーベルドの怒りを含んだ一言が飛ばされる。

「しっ!今は、最高神様とアクエリアスが会話してるんだよ」

「わりぃ、ついな」

 バーベルドはウェルポネスの指摘をすんなりと受け入れ、再び黙り込む。

「わらわのペットであるコキュートスは、何者かに粉々に葬られたのです」

 ユキの計画では、コキュートスはミラエラにやられてしまう予定であった。しかし、実際にコキュートスを倒したのは、おそらくユーラシア・スレイロット。

「マジかよ」

 バーベルドとて、コキュートスの強さは理解しているため、跡形もなく倒された事実に衝撃を受け、思わず言葉を漏らしてしまった。

 そしてそれは、先ほどバーベルドを指摘したウェルポネスまでも。

「え?待って待って、それってさ、以前もアクエリアスのペットを倒したミラエラ・リンカートンっていう人間の仕業?」

 ユキは、鋭い目つきでユーラシアを想像しながら真実を語る。

「——————かつて、わらわが降らせた『断罪の雨』を止ませた勇者と謳われる二人の息子じゃ。歳は十。けれど其奴である確信も持てぬのだ」

「あ?てことは、実際どうやって倒されたのかは分かんねぇってことかよ。まぁ、てめぇのペットは俺のペットに比べたら貧弱だからな。粉々にされちまったのは驚きだが、倒されたのは不思議じゃねぇ」

 バーベルドの発言を受け、今まで冷静さを保っていたユキの額の血管が浮き彫りになる。

「其方のペットは確か、マンティコア。と言ったか?人を喰らうことしか能のない三流ペットなぞ、いくらでも替えが効きそうで羨ましい限りよな」

 二人の怒りが徐々に沸騰していく中、ウェルポネスは苦笑いでその場を取り持とうと奮闘する。

「まぁまぁ、私なんてほら、二人みたいにペットすら飼ったことないし羨ましいなぁ〜?私も二人を見習って自分のペットを作ってみようかな?」

 ウェルポネスの発言は、二人に全く響いていない。しかし、この場にひたすら流れる最高神の沈黙が何よりの圧となり、二人を再び冷静とさせる。

「失礼しました。今し方の無礼をお許しください」

 バーベルドもユキに合わせて頭を垂れる。

 最高神は再びユキへと発言の許可を出し、話の続きへ。

「コキュートスを倒した者の名は、ユーラシア・スレイロット。わらわは、其奴の真実を確かめるべく、これから接触を試みようと思います」

 そう話すユキへと、バーベルドとウェルポネスが同時に視線を向ける。

「これは、わらわの勘にすぎないのですが、奴はわらわたちの脅威になる気がするのです。そして、もしもユーラシア・スレイロットが脅威であると判断したならば、わらわに力を行使する許可をいただけませんでしょうか?」

 この後接触する際に、ユーラシアが脅威となり得るかならざるかを判断するということは、可能性として、完全な力の回復を待つ前に力を行使してしまうことを意味している。

 となれば、先ほど述べた『魔導祭』の侵攻はどうなるのか?

 そんな最高神の疑問へ、ユキは眉ひとつ動かさずに答える。

「例え力を行使しまったとしても、『魔導祭』で仕掛けることに変わりはありません。けれどその場合は、計画の練り直しを行った上での侵攻を改めて進言致します」

 『魔導祭』まで力を使うことがなければ、十年前と同じか、それ以上での規模で放たれる『断罪の雨』を侵攻の合図とするつもり。

 しかし力を行使してしまえば、圧倒的な力量差を見せつける『断罪の雨』による侵攻開始ができなくなってしまう。なぜならば、ユキは十年前の『断罪の雨』による消耗の回復を今の今まで待っていたのだから。

「心配は無用というものです。既に力を行使してしまった場合の計画も同時に進行しております」

 ユキはウェルポネスに視線を向け、一度アイコンタクトを取る。

 最高神は、その計画とやらを深くは聞かずに、バーベルド同様、絶大なる信頼をおいているユキに任せることとした。

 

 こうしてユキは『原 天×点 界』を再び離れ、微かなるユーラシアの魔力を頼りに彼の下へと向かうのだった。

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