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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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57話 息子の最後

「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・ゴフッ」



 カリュオスは、地上に落下した際の砂煙を利用してユーラシアたちの下から一目散に逃げ出し、家の立ち並ぶ密集地へと逃げ込み息を潜めていた。

「チクショー、血が止まらねぇ。剣魔どもはあんまうまかねぇから食いたくはなかったんだがなぁ。そうも言ってられそうにねぇな、こりゃあ」

 カリュオスの体内から溢れ出る血の痕跡は、到底隠せるものではなく、すぐさまオータルが駆けつけるだろう。

 ユーラシアは両足骨折に右腕の骨はぐちゃぐちゃに砕かれてしまっている。その上、コキュートス戦の時と同様、体力を全て使い果たした結果、意識損失。レインに関しても、魔力は底をつき、体力も立ち上がれないほどにギリギリの状態。

 例え左腕を負傷していようとも、唯一カリュオスに対抗できる可能性が残っているのがオータルだけなのだ。

 

「マジでやべぇな、意識を保つのも大分キツくなってきやがった・・・・・ここで死ぬわけにはいかねぇ、せめてあのクソガキを殺してからじゃねぇと」


「カリュオス?」


 地に横たわる瀕死のカリュオスを、瞳に大量の涙を浮かべたミアラが見下ろす。

「それは何の涙だ?俺の行いに対する悲しみか?それとも、息子の死を悟っての悲しみか?」

 ミアラは震える手で腰に携える刀をゆっくり抜刀した。

 ミアラの震えが刀へと伝わり、「カタカタ」と微小な音を立てている。

「ハッハハ、んだよそれ、お前も俺を殺したいのか?確かに俺は本物のイカれ野郎かもしんねぇが、それでも、お前にとっては息子じゃねぇのかよ!」

 まさか息子である自分に母親が刀を向けるとは、思いもしなかった。

 仲間を大量に惨殺した五年前ですら、唯一味方でいてくれたはずの母親が、今では自分へとトドメを刺そうとしているのだ。

 カリュオスとて心がないわけではない。

 ミアラだけは、愛していたし、大切に思っていた。だから絶対に傷つけることはしなかったし、唯一自分のせいで苦しい思いをさせてしまったことを反省していた。

 それ故にもう五年前のような惨劇は起こさないと誓っていた。しかし人間だけでなく、剣魔とてそう簡単には変われない。

 その結果が、唯一味方だと信頼していた存在を敵に回してしまったのだ。

 怒りを向けるべき相手は自分自身だ。しかし、カリュオスは悲しみに駆られて気がつくとミアラへと多いな口を開けて襲いかかっていた。

 

「ガッ!」

 

 しかし額から脳が大きく振動するほどの衝撃が伝わった直後、カリュオスの巨体が後方へと一回転して飛ばされた。

「落ちたのぉ、カリュオスや」

「———オヤジ」

 カリュオスは既に限界が近い。このまま放って置いても肉体が死に、すぐにまた復活するだろう。

「お主の考えは読めておる。大方、血肉を己の糧とし傷を癒すつもりだったのじゃろう。しかし、そうはさせぬよ」

 ビヨンドは地面に座り込むカリュオスへとゆっくりと近づきながら、刃の折れた刀を抜刀する。

「刀を折ってしまったのは、わしの失態じゃった」

「なんで生きてやがんだ?あれほどの魔力の爆発、肉体の原型を保つことすら不可能なはずだ」

 ビヨンドとて決して無傷ではない。口元に薄らと血を吐いた跡が付いている。

「わしを誰だと思うとる?」

「あ?——————ッ⁉︎」

 その瞬間、カリュオスの全身に悪寒が走る。

 それは、死を確定づけるのには十分すぎるほどの威圧感だった。

 ビヨンドが左右の目を開くと、それに合わせて額にある三つ目の瞳も開かれる。

「これをお主に見せるのは二度目じゃな」

 剣魔の額には誰しも三つ目の瞳を宿しているのだが、その瞳を開くことができるのは、研鑽に研鑽を重ねた剣魔のみ。今の剣聖村で開眼することができるのは、ビヨンドだけである。

 そして、三つ目の瞳が開眼すると、絶大な能力が解放され、その強さは閉じている時とは比較にならないほど。

「待ってくれよオヤジ。もう誰も襲わねぇよ!だから、術式を破壊するのだけはやめてくれっ!」

「それはできぬ」

 ビヨンドは下唇を強く噛み締め、血が滲む。

「子を二度も斬らねばならない親の気持ちが理解できるかの?」

 カリュオスは言葉を返すことができなかった。

 なぜなら、今まで見たこともない涙がビヨンドの瞳には浮かんでいたからだ。

「この、親不孝者め」

 カリュオスは理解した。

 自分は、ビヨンド、ミアラの子どもになるべきではなかったと。

 仲間を殺し、約束を破り同じ過ちを繰り返そうとした息子に対して、愛の籠った涙を流すことのできる優しい者たち。

 この者たちが授かるべきは、二人のことを同じくらい愛してくれる心優しき存在であったと。

 

 (オヤジ、母ちゃん・・・・・悪りぃな、こんなクソみてぇな息子でよぉ。次生まれ変わった時は、いい奴になれてるかな?——————あんな優しい笑顔を向けてくれたオヤジに、そんな怖い顔させちまうなんてな・・・・・悪かった)

 

 カリュオスは自らビヨンドへ突っ込んでいくと、ブルジブの「円斬」以上の速度で全身を粉々に切り捨てられた。

 

「もう、二度とバカなことを考えるなよ」

「ええ、本当に反省しています。カリュオスの術式を記した紙は、既に処分しましたよ」

「それならよい。また五年ほど待つことになるじゃろうが、気長に息子の復活を待つとしようかの」

「そうですね」


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