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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
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46話 確信

 レインとシェティーネを連れて、急ぎ『剣聖村』へと戻ったブルジブは、一人村長宅へと出かけた。

 通されたのは、皆で集まる居間ではなく、ビヨンド夫婦の愛の部屋の隣に位置する書斎。

 置かれていたソファへと二人は向き合って腰掛けるが、しばらくの間沈黙が続く。

 そしてようやくブルジブは、その重たい口を開いた。

「今日出向いたのは、少しばかり確認しておきたいことがありやして」

「何かの?」

 ビヨンドの口ぶりは軽く、事態を把握していない様子。

「では単刀直入に、カリュオスは復活したんですかい?」

 その瞬間、ビヨンドの目つきが変わった。

 朗らかな優しい瞳から、警戒心を含ませた鋭い目つきへと。

「いや、そんな気配は感じてはおらん。して、どうしてそんな質問を?」

「実は先ほど、レインとシェティーネの二人とともに鉱石地帯へ行ってきたんですが———」

 ブルジブは、多くの魔物が戦略的な知恵を用いて無惨な姿にさせられていたこと、それら全てが意図的に山積みにされていたことをビヨンドへと話した。

 話を聞いている最中、ビヨンドの表情は徐々に険しいものとなっていき、何かを悟ったような空気感が書斎内に漂い始める。

「今回のダンジョン試験の件でエルナスと話をした際、人斬り役は五名と申告しておいたのじゃ。生徒たちにもそう伝えておる。それは、カリュオスが五年越しに復活すると思うとったからじゃよ」

 カリュオスとは、ビヨンドの実の息子にして『剣聖魔』の一人である剣魔。訳あって死んでいたのだが、五年越しの復活を近々する予定だったのだ。

「じゃが、自我がそのままとは、一体どういうことかの?残虐非道の性格に、死骸で山を作るクセまで無くなってはおらんとは、術式が残っていたとでも言うのか?」

「信じ難い話ですが、おそらくは———」


 術式・・・人間が脳を持っているのと同じく、魔物には頭の中に自我や己の各要素を構成する情報が刻まれた術式が存在している。

 外部の魔物は死ねば肉体は当然のこと、行き場をなくした魂と、行き場をなくした術式が自然消滅してしまい、二度と同じ自我、魂を持つ個体は現れない。しかしダンジョンでは、肉体をなくせど、魂と術式は空間内に留まり、同じ自我と魂を持つ魔物が復活するのだ。

 ということはつまり、術式を破壊してしまえば、そこに刻まれた情報の全てが消滅し、復活する個体は同じ魂を持つだけの魔物ということになる。

 

 ビヨンドとブルジブが驚愕する理由は、カリュオスが復活したからではなく、破壊したはずの術式をどういうわけか再び宿しているため。


 

 五年前、カリュオスは他の剣聖魔と比べても一つ頭抜けた力を有しており、圧倒的な強者として他の魔物たちの抑止力となっていた。今ではオータルやブルジブの方が剣術の腕は上であるが、それでもカリュオスの純粋な腕力に瞬発力、圧倒的な魔力量に、秀でた戦闘センスの前では、一対一では敵わないだろう。

 それほど強力な男が、五年前に事件を起こした。ずっと隠していた狂暴性を突如露わにし、村中の剣魔たちを次々と虐殺していったのだ。そしてタチの悪いことに、殺した剣魔の死骸を山積みにし、頂上で狂気の笑みに浸っていたのだ。


「あの時、わしは確実にカリュオスの頭を握りつぶしたはずじゃったのだが・・・・・」

 五年前にカリュオスを止めたのはビヨンドであり、その際、ビヨンドは苦渋の決断をしなければならなかった。

 カリュオスは息子であるが、野放しにしておけば被害は更に拡大してしまう。術式を破壊してしまえば、カリュオスの肉体と自我が全て失われてしまうが、カリュオスの魂を宿した剣魔が再び復活する。もし術式をそのままにしてしまえば、復活したカリュオスは再び暴走を始めてしまうだろう。

 ビヨンドはカリュオスの魂だけを残し、愛しき息子との別れを告げたのだった。

「術式は、頭部を潰されれば破壊される。それは言わずと知れた常識でやす。一体なぜ、以前の術式までも復活したのか理解できやせんね」

 魔物には必ず脳ではなく、脳の働きをしてくれる術式が刻まれることとなり、剣魔においては、剣聖村の空間内に記された魔法陣に刻まれた『剣聖の技』も頭の中の術式へと組み込まれる。その際、剣聖の力を授かる度合いは個体によってそれぞれであり、腕前だけでなく、技までも組み込まれた剣魔を剣聖魔と呼んでいる。

 



 ビヨンドは勢いよく立ち上がると、魔法陣が刻まれている方角へと険しい視線を向けた。

「ブルジブ。ちとわしについて来てくれるかの」

「魔法陣ですかい?」

 ブルジブもビヨンドの視界の先にあるものに気がついたらしく、その考えを悟る。

「その通りじゃ。おそらくじゃが、全ての答えはそこにあるじゃろ」

 

 その後、ビヨンドとブルジブは、『剣聖の技』が刻まれた魔法陣が記される場所へとやって来た。

 剣聖村に存在する崖は半円となっており、その反対側には連なる山々が存在している。そして、その最も高い標高を持つ山の頂上へと魔法陣が刻まれているのだ。

「村長さんの予想通りでしたね」

「そのようじゃの」

 魔法陣には、見慣れない情報が新たに記されていた。そしてこの時、ビヨンドには犯人の目星がついてしまった。

「おそらく、死ぬことを承知で暴れたということかの」

「まさか、魔法陣に術式を記していたなんて、考えもしやせんでした」

 一先ずカリュオスの術式は二人によって消された。

「なるほどの。術式の情報を記しはしたが、術式本体はわしが葬った。じゃから術式構築の時間も含めて復活に五年も要したということのようじゃな。肉体だけの再生ならば復活はすぐという概念に囚われすぎていたせいで、完全に騙されてしまったの」

 一本取られた。そんな意味合いを含む言葉を多少おかしそうに話すビヨンドだが、その瞳は笑っておらず、自身への情けなさから怒りを抱き、復活を遂げたカリュオスへ警戒心とともに、悲しげな感情を抱くのだった。

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