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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
46/270

45話 鉱石地帯に漂う違和感

 試験開始から数日。

 

 

 ダンジョン試験六日目。

 レインとシェティーネ、ブルジブの三名は、剣の素材を入手するため、ダンジョンの他階層へと足を踏み入れていた。

「基本的にダンジョンの魔物には、自分たちのテリトリーが決められてるんでやす。なんで、例え他階層にある食糧や鉱石集めが目的だとしても、あっしらはいつどこから命を狙われたとしても文句は言えやせん」

 先日、ジャイアントベアーの雄が一体、剣聖村へと迷い込み即座に排除されたことから、レインとシェティーネは、ブルジブに言われるまでもなく覚悟を決めていた。

「まだ修行を始めて間もないとは言え、少しずつ師匠の動きを読めるようになって来たんだ。自分の身は自分で守る覚悟はできている」

「ええ、そうじゃなきゃダンジョン探索には来なかったわ」

「余計なお世話だったようで」

「それよりも今は、どこへ向かっているの?」

 今現在三人は、周囲一帯が茶色い岩で囲われた洞窟内にいる。

 ブルジブを先頭として、ただひたすらに細長い道を歩いている最中だ。

「剣の材料に関しては、ダンジョン内の鉱石は最上級と言えやす。魔物の骨を使っても作れやすが、剣の材料足り得る魔物が潜んでいるのは、ここより更に下の深層区域。今のあっしらでは確実に命を落とす羽目になりやす。ですんで、この先にある鉱石地帯で材料集めといきやしょう」

 鉱石には、金属が混じっているため、耐久性や状態異常耐性を宿す剣を多種多様で作ることができるのだ。

 そして、この先にある鉱石地帯には、数えきれない鉱石の山があるらしく、選択肢が無限に広がっている。

「それと、ダンジョン内は、地上よりも濃い密度の魔力によって覆われてるんで、鉱石の中には魔力の粒子が溶け合ったものも存在し、俗に言う魔剣も打つことができるんでさぁ」

「果実以外の魔剣は、魔力樹に加えられるのかしら?」

 ふと、シェティーネが疑問を漏らした。

「魔力樹?」

「俺たち人間は、魔物とは違って空気中にある魔力を使うことはできないんだ」

「ほう。魔力を放出することはできるが、吸収はできないと言うことですかい。面白い」

 ブルジブの言う通り、人間自らが空気中の魔力を吸収することはできない。体内にある魔力の全てが魔力樹からの供給によるものだからだ。しかし、その魔力樹の供給源は、樹の中にある自動生成機関+空気中の魔力を吸収することなのだ。また、魔力樹は光合成を行うため、酸素とともに樹の要素を含ませた魔力の粒子を周囲へと振り撒く役割を持っている。

「俺たち自身は吸収できないだけで、魔力の供給源である魔力樹が、代わりに吸収してくれているんだ」

「何にせよ、あっしら魔物とは構造自体が大きく異なると言うことで。魔物が魔力の溜まり場に発生することはご存知でしょう。そのため、魔物は生まれつき周囲の魔力を利用して魔法を放つことができるんですがね、魔物の厄介なところとでも言いやしょうか、魔力が濃くなればなるほど、その力は増大し、進化する個体も現れるんでやす。もうお分かりでしょうが、この先の鉱石地帯には、相当強力な魔物が潜んでいやすよ」



 ただの一本道を行くこと三十分。

 視界の先に青い光が差してきた。

 一先ずシェティーネの疑問は一旦置いておくこととし、三人は急激に濃くなっていく魔力に違和感を感じながらも、足早で光源へと近づいていく。

 

「これは・・・・・氷の巣窟か?」

 驚いた表情で、レインが第一声に目の前に広がる景色の感想を述べた。

 一本道を抜けた先に広がっていた空間は、多様な色を宿した鋭く透き通った無数の鉱石たちにより彩られていた。

 そして、レインが氷であると勘違いしてしまった訳は、鉱石の透明度が以上な程に高いのだ。

 例えば、赤や青、緑や黒といった鉱石が存在しており、その一つ一つが表面状に色を宿しつつも、内側から宿す色と同色の輝く光が周囲を照らしている。

「違いやすよ。あの輝きを秘める結晶こそが魔鉱石でさぁ。けれど、想像以上に魔力が濃く、魔鉱石の数が多い。これは一体どういうことでやすかね?」

 ブルジブが覚えた違和感。それは、鉱石が全て魔鉱石へと変化するほどの魔力が充満しながらも、鉱石地帯には一体の魔物の姿も見えない。正しく、違和感極まりない状況。

 魔鉱石とは、地上の魔力濃度では奇跡ほどに製造が難しい代物であるため、ここの鉱石地帯ほぼ全ての鉱石が魔鉱石へと変化していること自体おかしいのだ。

「魔物が一体もいないのはどういうことなの?」

 どうやら、レインとシェティーネも同様の違和感を覚えているらしく、魔物はいないと言うのに、いつでも戦闘が始められるように臨戦態勢に入っている。

「まさかとは思いやすがこの漂う魔力の気配、ちと嫌な予感がしやすね。早いとこ魔鉱石を回収して撤収するとしやしょう」

 警戒心を一切緩めることなく、一先ず手当たり次第魔鉱石を、持参した袋へと詰め込んでいく。

「こんくらいにしときやしょうか——————ッ!」

 ブルジブが何かを感じ取ったのか、普段の五倍増しで顔のシワを増やし、険しい表情を浮かべる。

「師匠?」

「感じやせんか?血の臭いを」

 そう言われてシェティーネとレインも周囲に漂う臭いに意識を向けてみると、ブルジブたちが抜けてきた道の反対側にある道の先から、異臭が漂ってくることに気がついた。

「臭い、強くなっていないかしら」

「おそらく死後、時間が経過したことで腐敗臭を漂わせているんでしょう。まぁ、いずれは臭いに釣られた魔物たちに食われる運命でしょうが、その前に少し見に行ってきやす。二人はここで待っていてくだせぇ」

 魔物は死後、約一時間程度で徐々に腐敗臭を醸し出す。その理由は、魔物の生命柱として、魔力以外に血肉を必要とするため、その食物連鎖を維持するためであり、完全に腐敗しきる前に他の魔物たちのエサとなるためである。

 レインとシェティーネは急速に酷くなっていく悪臭を前にして、自分たちもついて行くなどと軽々しく発言できなかった。

「わ、分かったわ。私たちはここで待たせてもらうわね」

「ああ、俺もそうさせてもらう」

 そうしてブルジブは二人を残して臭いの元へと近づいて行く。

 薄暗い道中には、壁や地面の至る箇所にべっとりこびりついた魔物の血液。

 おそらくは鉱石地帯の魔力濃度で発生した魔物たちのものだろうが、狭い道へと誘い込み、大量の魔物たちを一網打尽にしたことからも、犯行は剣魔並みにかなり知恵のある魔物であることが推察できる。

「やはりそうでやしたか。あっしの勘は当たらないでくれた方が助かったんですがねぇ。これはあっしの手には負えそうにありやせん。急いで村長さんに知らせるとしやしょう」

 道の先、再度開けたその空間には、乱雑に引きちぎられた無惨な魔物たちの姿があり、それら全てがご丁寧に山積みにされていた。

 噛みちぎられたと言うよりは、素手で引きちぎられたような跡。その者の趣味を彷彿とさせるかのような死骸の山。

 この時ブルジブには、犯人の目星が大方ついていた。しかしそれは、信じ難いことでもあったのだ。


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