322話 僕にくれよ・・・
地上へ赴いたエメラルと太陽の意思は、夜空に一人佇むユーラシアを眼にする。
「——————シエルは、どうしたんだい?」
「お前のせいだ——————お前が、オレからシエルを奪いさえしなけりゃ・・・・・」
ユーラシアは緑色の瞳を充血させ、涙を浮かべた瞳をエメラルへと向ける。
唇を震わせ、その度に鋭く尖った大きな牙を露わにする。
「シエルをどうしたかって聞いてんだ!」
「殺した」
信じたくない。
しかし、ユーラシアの口から発せられたその一言は、エメラルと太陽の意思の心へと深く刻まれる。
「殺しちまったんだ・・・・・オレがこの手で、シエルの命を奪ったんだ」
「嘘だ・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「オデは、オデはお前のこと信じてたのに——————許せないぞ」
太陽の意思は、静かに怒りの炎を燃やしていく。
「どうして、守ってやれなかった? お前ほどの力があるんなら、守ってやれただろ!」
「守りたい思いも、苦しむ姿を見たくない思いも、結局はオレのエゴでしかねえ・・・・・救える方法が、苦しみから解放してやることくらいしか思いつかなかったんだ」
「——————ふざけんじゃねえぞ・・・・・ふざけんなよ、ユグドラシル! よりよって、あんたがやっちゃダメだろ!」
エメラルとて、無茶苦茶なことを言っている自覚はある。
そもそもユーラシアからシエルを奪いさえしなければ、シエルは今も生きていたかもしれない。
それでも、シエルの愛した男が、シエルの命を奪った事実は、自身のエゴよりも許すことができない。
エメラルの行いが、シエルを苦しめていたことは重々承知している。それでもユーラシアが助けに来てくれるから、シエルは救われていたのに・・・・・その希望自らがシエルの命を奪うなど、決してあってはならない。
めちゃくちゃだ。めちゃくちゃだけど、それが「恋」の本質なのだ。
「どうせ奪うなら、僕にくれよ・・・・・」
「お前のせいでまた、シエルはオレの前から消えたんだ! もう容赦はしねえ——————オレとお前の関係も、もうこれで終わりにしようぜ」
「望むところさ」
ユーラシアとエメラルは地上のことなどお構いなしに至近距離で睨み合う。抑える気のない内なるエネルギーが解放され、周囲でバチバチと火花を散らす。
「許さないぞ!」
更に、エメラルの背後に佇む太陽の意思もまた、人の皮を脱ぎ捨てその身を炎で包み込み、ユーラシアへと憎悪の視線を向ける。
「まとめて片付けてやるよ——————かかってこい」
腹の底から発される存分に怒りを含ませた低く深いユーラシアの挑発が合図となり、愛が生んだ血の争いが今ここに幕を開けるのだった。




