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竜魔伝説  作者: 融合
復讐編
316/324

315話 二つの竜

 ユーラシアたちが王級界へと飛ばされる少し前。

 2頭の竜による格闘戦が繰り広げられていた。

 古の時代、竜族たちは自らが率先して争いを起こすことは滅多になかった。

 なぜならば、それほどまでに竜族とはずば抜けた種族だったからである。

 拳を交えるだけで地形が変わってしまうほどのその力は、他種族に百害あって一利なし。

 しかし竜族にも感情は存在し、度々すれ違いによる喧嘩が勃発していた。

 そんな時は決まって竜王かシエル、竜族の血族であるミラエラが仲裁役を担っていたのだが、今は誰もユーラシアとエメラルの戦いを止める者はいない。

 竜族はその全てが魔力を無効化する鱗を有しているため、戦闘は必ず拳と拳による格闘戦となる。

 しかし今回はまともに拳と拳がぶつかり合うこともなく、ユーラシアから繰り出される真紅の拳がエメラルの全身をことごとく穿つ。

 放たれる一撃一撃が鋼鉄の鱗をもろともせずに内部へとめり込み、極太の骨という骨が幾度も粉砕される不愉快な音を奏で続ける。

 殴られるたびに大量の血を雨のように撒き散らし、周囲の岩山をことごとく吹き飛ばす。

 エメラルの再生力を上回るほどの速度と威力で止めどなく放たれるユーラシアの攻撃に、エメラルは声を上げることすら許されない。

「シエルだけじゃねえ。てめえはミラの尊厳すら踏みにじったんだ‼︎」

「グハァ!」

 ユーラシアは思い切りエメラルを地上へ投げ飛ばし、一際尖っている岩山へとエメラルの胴体を突き刺す。

 そうしてエメラルは、胴体へどデカい穴が空いた状態で拳の雨を受け続ける。

 竜族一の再生力を持つエメラルがこの程度でくたばるなど、ユーラシアは微塵も思っていない。

「どうしてミラに罪をなすりつけた!」

「——————らんのわなしか・・・・・ざっぱりだね」

 ユーラシアの額の血管がビチビチと浮かび上がり、ピタリと拳が静止する。

 その一瞬でみるみると回復していくエメラル。

「てめえがミラに罪を押し付けたせいで、ミラは命落とす最後の瞬間まで、その罪を悔いることになったんだぞ!」

「だから言ってるだろう。何の話かさっぱりだよ!」

 逆上するエメラル。

 その様子はふざけているようでも、嘲笑っているようでもなく、心の底から怒りが込み上げてくる様子だった。

「ミラは・・・・・自分がシエルを殺したと思ってたんだ」

「は? 君ももう知ってるんだろ? かつて君の妻の命を奪ったのは僕だと」

「ああ、イグドルから全部聞かされた。今更だけど・・・・・それでもオレは、お前を許す可能性も頭に過ったんだ——————」

 ユーラシアのセリフを聞いたエメラルの表情から、徐々に怒りが消えていく。

 思ってもなかった言葉。

 殺したいほど憎しみを抱いているはずなのに、そんな相手にまだ情を抱こうとしていたことを知り、呆気に取られてしまった。

「まだそんな甘いこと言えるのかい?」

「それくらい・・・・・お前も、オレにとっては大切な存在だったんだ」

 エメラルの胴体を貫いていた岩山は崩れ去り、横たわったエメラルの上に佇むユーラシア。

 いつの間にかエメラルの傷が完全に癒えた頃、場は静まり返っていた。

「けど・・・・・今は自分でも抑えが効かないほどの怒りが止めどなく押し寄せてくるんだ。復讐なんかじゃ意味ねえことくらい、オレにも分かってんだ」

「——————僕は、君を嫌いだったわけでも、ましてやシエルを嫌いだったわけじゃない・・・・・どうしようもないくらい、彼女のことが好きで好きでたまらなかったんだ」

 過去の光景を思い出しながら話すエメラルの表情は、恐怖と悲しみの入り混じった弱々しい覇気などないものだった。

「僕も君のことは大切だった・・・・・だけど、シエルへの愛情が溢れて、気がついたらこの手にかけていたんだ。僕のモノになってくれないなら、奪うしかなかったんだ」

「どうして——————クッ・・・・・どうしてだよ・・・・・」

「・・・・・けど僕はミラエラに、シエルを殺した罪をなすりつけた記憶なんてない」

 むしろ当時のエメラルは、シエルを手にかけてしまった現実にとてつもない恐怖と後悔、絶望を抱いていた。

 だからこそ、シエルの死を知り暴走してしまった竜王を命懸けで止めようと必死になっていた。自分のせいで他の者たちまで巻き込むわけにはいかないと。

 しかし最悪の結末を迎えた。

 そしてかつてあれだけ後悔と絶望の念を抱いていたのにも関わらず、邪神と関わり、再び同じ過ちを繰り返してしまっている。

「んなの、信じられるわけねえだろ」

 そうしてユーラシアが唇を噛み締めた次の瞬間、周囲の景色が一瞬にして変化した。

「——————なんだ・・・・・」

「久しぶりだな、赤いの」

 聞き覚えのある声がして咄嗟に振り向くと、そこには愉しげな笑みを浮かべた存在の姿があった。


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