312話 隔絶された魔大陸
転移した先、ユーラシアたちの目の前に広がっていたのは、どこまでも続く更地だった。
山一つなく、綺麗な水平線が浮かんでいる。
「本当にここで合ってんのか?」
「間違いなくここは魔大陸ディアステッロの座標だよ。まさか人魔戦争から数百年が経ってるとはいえ、ここまで変わり果ててるとはね」
「いや、数年前はこんなんじゃなかった。なんつーか、全体的に砂煙で包まれてる感じだった。それに、今は何の気配も感じられねえ・・・・・」
ユーラシアは怪訝な表情を浮かべながら辺りを見回す。
「あの後ここで何が起きたってんだ?」
「ちょっと待って。どうやら内と外を隔てる結界が施されてるみたいだね」
その証拠に、勇者が宙に手のひらを添えると、まるでそこに壁が存在しているかのようにピタリと腕が止まる。
同様にユーラシアも宙へ手を翳してみるが、そこには何も存在してはいない。
「今の僕たちには、魔力と神の力だけじゃなく、エクソシストの力もあるからね。例え次元を隔てるような異次元の結界だとしても干渉することができるのさ。けれどこれは・・・・・」
そう言い、勇者は空間の一点にのみ視線を集中させる。
「・・・・・次元の壁に近いモノだね。おそらく邪神の仕業と見て間違いないよ」
「つまり、こん中にあいつがいるかも知れねえってことか?」
「どうだろうね。確かにその可能性も考えられるけど、君の話と、これまでの経験から察するに、『原 天×点 界』にいると見ているんだ。けれど、君も僕たちも正確な場所を知らない」
考えてみれば単純な話だったと、ユーラシアは納得する。
そしてそれほど周りが見えなくなってしまっていたことに気がつく。
ユーラシアは以前勇者へと、『原 天×点 界』へと赴き、アート=邪神の裏切りによりミラエラの命を奪われた後、地上へと落とされた話をしていた。そしてその影響で竜王跡なるものが誕生したことも。
しかし、記憶が正しければあの時『原 天×点 界』は崩壊したはず。
ユーラシアは知らないが、神は『神』という名のエネルギーであり、『原 天×点 界』はそれ自体が神のエネルギーに満たされているため、『原 天×点 界』=最高神であったとも言える。
よって最高神が消滅した世界に『原 天×点 界』は存在し得ない。
しかし、相手は邪神。
万物の創造を司る邪悪な神。故に邪神に不可能など存在しない。
「最高神が滅びたのだとしたら、おそらく『原 天×点 界』を邪神自らのエネルギーで再生させたと考えるのが妥当だろう」
「それじゃあ一体、何でここにまであいつの力が施されてんだ?」
「そんなモン、考えられるのは一つだけだろ」
「ねえねえ、さっきから難しい話ばかりでつまんないよぉー!」
またしても真剣な空気をぶったぎる太陽の意思。
ユーラシアと勇者は、そんな太陽の意思へとギロリと揃って睨みを利かせる。
「な、何だよぉー。ずっと怖い顔してるから、楽しくした方がいいかなって思っただけじゃんか!」
「黙ってろ」
そのユーラシアの一言にへそを曲げた太陽の意思は、顔を真っ赤にいじけた様子でそっぽを向く。
「まぁ、入ってみれば分かるはずさ」
太陽の意思などお構いなしに、勇者は着々と魔大陸に展開されている結界の解析を進めていく。
「——————ユーラシア。私らが言えたことじゃないんだけどさ、冷静にな」
勇者の異様に緊張感のある声は、怒りや焦り、この先の未知に対する感情が影響してのモノ。
ユーラシアは勇者の発言に妙な引っかかりを覚える。
まるで、この先に何が待ち受けているのか予想できているかのような。
そうして勇者の結界の解析が終わり、縦1メートルほどの小さな漆黒の穴が空中に開く。
「ッ⁉︎」
途端に、ユーラシアの怒りを刺激する気配が漂ってきた。
その気配は勇者の怒りをも刺激する。
「やっぱりか」
そう言い、勇者がユーラシアへと視線を向けた途端、ユーラシアから溢れんばかりの魔力が込み上げる。
「気持ちは分かるけど、怒りに呑まれんなよな。あんたが暴走したら、私らじゃ止めらんない。もちろんこいつにもね」
「あれは、あれはさ、もう戦う気なんかなかったからやられちゃっただけだもん!」
「ああ、分かってる——————オレは冷静だ」
「信じてるからな」
「ああ。そっちは任せる!」
ユーラシアは颯爽と穴の中へと飛び込んで行ってしまった。
「ふぅ・・・・・私らも行くか」
隣へと視線を向けると、既にそこには太陽の意思の姿はなかった。
「あいつ!」
勇者は頭を抱えたくなる衝動を必死に堪え、自らが成すべきことのため、結界内へと足を踏み入れる。
その後、結界に生じた穴は瞬く間に塞がり、外部から完全に隔絶されたのだった。




