311話 しばしの別れ
その後転移魔法が発動して飛ばされた先は、中間地帯の中央に存在しているシェルター。
以前は『L』や『最終防衛ライン』と呼ばれていた。
今は住む場所を失くしたエルフたちの家でもあり、エルフたちが中枢機能復興のために日々努力している。
勇者たちが転移してから間もなく、地上の入り口から白装束に身を包んだ一人の老人が姿を現す。
「お久しぶりです。老師」
勇者は、チャンドラの姿を捉えるや礼儀正しくお辞儀をする。
「マサちゃん、ヒナちゃん、お久しぶりだぁ〜あね」
老師ことエルフの長チャンドラは、久しぶりの弟子との再会に気分が高揚している様子。
しかし、勇者の隣に立つ存在が誰なのかに気がつき、誠心誠意地面へと額をつけて敬意を示す。
「竜王様もご無事で何よりです」
「ああ。久しぶりだな」
「老師。悪いんだけどさ、ここにいる人たちみんな、ここに住まわせてあげてくんない?」
「——————は?」
視界には人・人・人。
都に暮らしていたエルフ全てがシェルターへと越してきたわけだが、確かに未だある程度の人数を招き入れるスペースは余っている。だとしても、この人数全てを受け入れることなど到底不可能。
勇者とて自身の要望が如何に無謀な提案かは理解しているはず。
チャンドラは難しげな表情をしばらくの間浮かべるも、何かを思いついたのかハッとした表情へと変わる。
「—————ひょっとして、シェルター内に魔法陣を描くつもりぃ?」
チャンドラ自身、以前勇者の『創生世界』へと入った経験があるため、すぐさま一つの可能性に行き当たる。
「その通りです。既に生活できる環境は整えてあるので、エルフ族のみんなも問題なく住める環境です」
それは、チャンドラだけでなくエルフたちにとっては思ってもないプレゼント。
確かに住める場所は手に入れたものの、保管していた食料だけではあまりにも足りず、外部への買い出しは必須な生活を送っていた。人数も人数なため、それもかなりの頻度で。
お金もなく、かなり苦しい生活を送っていたのだ。
そのため、生活環境が整えられている『創生世界』の提案は、むしろエルフ側から頭を下げてでもお願いしたかった話。
「そういうことならむしろ歓迎歓迎! 大歓迎‼︎」
「そう言ってくれると思ってました。それじゃあさっそく、魔法陣を描けるスペースまで案内してもらえますか?」
そして勇者はチャンドラとともにシェルターへと入っていき、魔法陣設置の作業に取り掛かる。
シェルター外に魔法陣を設置するよりも、強固なシェルター内に魔法陣を設置した方があらゆる面において安全性が高い。
勇者が席を外している間、ユーラシアとシェティーネ、レインの間に会話はなく、ひたすらに時が過ぎていく。
もう自分たちは必要とされていないのだと悟ったシェティーネとレインから言えることは何もなかった。
ただ自分たちは守られるだけの存在であり、足手纏いにしかならないのだと思い知らされた悔しさは、二人の勇気を鈍らせるのには十分。
『創生世界魔法』の準備が整い、チャンドラが先頭となってエルフ族による避難民たちの誘導が開始する。
皆、浮かべるは安堵した表情。
国王たちは国を治めるトップとして、形だけでも一人一人が去り際にユーラシアへと頭を下げていく。
そんな中、ガンデルの逞しい手のひらがユーラシアの肩へと落とされる。
「信じているぞ」
「私も」
続くアイナスも同様に感謝の意思を示してシェルター内へと姿を消していった。
「待っているわ・・・・・貴方の帰りを」
悲しみと悔しさに負けず、シェティーネは相変わらず強い意思を瞳に宿す。
耐え難い屈辱を味わっていることだろう。
しかし、その屈辱にすら屈しない強さの片鱗が垣間見えた。
「ああ」
「——————すまない」
一方レインは、ユーラシアと視線を合わせることなく小さくそう告げる。
「またな」
そうしてレインを最後に皆の避難が終了し、ユーラシアは意識を切り替える。
「それで、これからどうすんだ?」
「邪神のことは、邪神に聞くのが一番だ。魔大陸に向かおう」
「それって、魔王城があった場所だよね?」
「ああ。そこに、異世界の邪神と繋がる扉があるんだ」
勇者は耳を疑う。
「そんな話、僕たちは聞いたこともないけど?」
「オレは以前、この世界の邪神と一緒にそこに行ったことがあるからな。けど、魔王城は崩壊してっから正直賭けってわけだ」
「なんか面白そう!」
やや一名、空気の読めない者が混じってしまっているが、ユーラシアと勇者は特に気にする素振りすらなく話を進める。
「よしっ、それじゃあ向かおうか」
こうしてユーラシア、勇者、太陽の意思の三名は、魔大陸ディアステッロの手前の地へと転移するのだった。




