309話 奪われた故郷
緑豊かな平和な地は、燃え盛る緑色の炎に包まれ、無惨な姿へと変貌させられていた。
ユーラシアはただただ無言のまま茫然と立ち尽くし、胸を強く締め付けられる。
「クッ——————ハァハァハァハァハァハァハァ——————」
以前ソルン村に訪れたのは、ユーラシアがまだユグドラシルの記憶を取り戻す前のこと。
幸いケンタとレーナは巻き込まれずに済んだが、他の人たちはそうはいかない。
それでも万が一の可能性にかけ、燃え盛る炎の中へとゆっくりと歩みを進める。
ユーラシアの転移から少し遅れて到着する勇者と太陽の意思。
勇者はあまりの衝撃的な光景に、言葉を失う。
ユーラシアと比べれば、シスターや教会の子どもたち、村の人たちとの関わりは短いが、それでも勇者にとっても彼らは大切な守るべき存在となっていた。
それが自分の知らぬところで呆気なく奪われたのだ。
勇者はかつて魔王に感じた時以上のとてつもない怒りを感じ、血が出るほど拳を握り込む。
「——————許さない」
それはエメラルに向けたモノであり、邪神へと向けたモノ。
炎から感じる気配は、間違いなくエメラルの気配。しかし、邪神から力を授かっていたこととシエルを連れ去ったことから考えて、エメラルは邪神の命令でソルン村を襲撃したのだと推察した。
ユーラシアは怒りを抱く余裕すらなく、ただただ焦りを抱きながら、必死に辺りを見回す。
どうかないでくれと願って——————
しかし、そんな願いは虚しく散る。
皮膚は完全に焼け焦げ、緑の炎に包まれてはっきりとは分からないものの、見覚えのあるシスター服と、その側に落ちた十字架のネックレスを視界に捉える。
側には数名の子どもたちの亡骸。
いつも優しく接してくれた。
ミラエラに怒られた時でも、いつだってシスターはユーラシアを優しく慰め、包み込んでくれた。
「大丈夫・・・大丈夫・・・・・大丈夫——————」。
そんな優しいシスターの言葉が頭に響く。
「・・・・・シスター」
ユーラシアは締め付けられる胸を押さえ、そのまま地面へと崩れ落ちてしまった。
「ダメだ・・・・・あぁ・・・・・ダメだシスター。まだ何も、何も恩返しができてねえんだ!」
勇者は、泣き崩れるユーラシアの様子を唇を噛み締め眺める。
「ヒナッちゃん——————」
「気持ちは分かるけど、ダメだ」
「分かってるさ。次に運命を改変したら、本当に世界が壊れるかもしれない」
「ああ。もしかしたら雪も助けられるかも知んないけど、それで世界がなくなっちまったら、意味がないからね」
勇者ならば、シスターやこの村を救うことができる。
ただそれが意味するところは、雪の運命やシエル、エメラルの運命、終いには、邪神の定めにさえ干渉することとなり、その規模での運命改変を行えば、間違いなく世界は無事では済まなくなる。
それが確定しているからこそ、勇者は必死に込み上げる絶望を押さえ込む。
そうして勇者の下へと、シスターと三人の子どもたちの亡骸を大事そうに抱えたユーラシアが姿を見せる。
「埋めてやりたい」
「そうしてあげよう」
その後、辺りの炎が収まり、ユーラシアと勇者はシスターたちの亡骸を地中へと埋めて、安らかに眠れるよう願いを込める。
「戻るか」
そう淡々と告げるユーラシア。
その表情は、怒りでも絶望でも悲しみでもない。ただ虚無となり、瞳の先に見据えているモノが見えてこない。そんな表情。
「どうやら無事な人たちもいるみたいだし、その人たちも連れて行こうか」
「ああ、頼む」
そうして生き残り住む場所を奪われたソルン村の人々を一か所に集め、皆でブラッドアイスの避難民が待つ中間地帯へと転移するのだった。




