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竜魔伝説  作者: 融合
復讐編
306/323

305話 湧き上がる黒き感情

 漆黒の鱗を纏いし竜。

 ——————名付けて『黒竜王』となったユーラシアは、消えぬ漆黒の炎を理性を無くし、ブラッドアイス中に撒き散らす。

 東西南北の四大領土の一つ、西側領土全域に匹敵するほどの規模を誇るブラッドアイスは、漆黒の竜の誕生からたったの数秒で漆黒の炎に呑み込まれた。

 ユーラシアが意識を取り戻す一分ほど前。

 太陽の意思は、ユーラシアの猛攻から必死に抵抗するも、抵抗すればするほど消えることのない漆黒の炎が体中に纏わりついていた。

 それは純粋な熱さではなく、四肢を常にもがれるような痛みを与え続けてくる。太陽の意思は人の姿へと変化しても、本質は人ではなく最高神の創り出した太陽の核。故に、人と同様の肉体構造までも再現しているわけではないのだが、それでも相当な激痛を味わっている。

「グアーーーーーー‼︎ ヤメロー! オデはもう戦う意思なんかない——————」

 炎による激痛に加え、先ほどよりも次元の異なる熱さを宿した漆黒の鱗を纏う拳の連打が、次々と太陽の意思の体へと打ち込まれていく。

 ユーラシアが竜王の姿となった炎でさえも、太陽の意思にとっては餌にすぎなかった。熱さなど感じるはずもなく、むしろ心なしか地上では回復しないはずのエネルギーが回復したかのような錯覚に襲われたほど。

 それなのに、今は耐え難い苦痛に悶え苦しむ。

「戦いたくないって言ってるだろぉ‼︎」

 人の姿の表面へとメラメラと真っ赤に輝く炎を纏わせ、放たれる竜王の拳と自身の拳をぶつけ合う。

 その衝撃は先ほどとは次元を逸し、ブラッドアイスを形作る周囲の紅き壁の全てを破壊した。

 黒と赤。

 二つの炎の渦が二人を中心としてブラッドアイスを飲み込んでいき、次第に赤は黒に呑み込まれ、ブラッドアイスは再び漆黒の闇に包み込まれる。



 

 その様子を上空より眺める勇者。

 あまりにも戦いの次元が異なっているため、介入しようにも不可能。

「あれ、正気を保ててると思う?」

「いーや、完全に理性失ってんな。あいつの話だと、竜王だった頃にも一度だけ暴走したことがあるみたいだけど、このままだとそん時以上の被害になるぞ」

 ものの数秒でブラッドアイスが消失した様を目の当たりにし、世界が滅ぶのなど一瞬である恐怖を身をもって体感させられる。

 最早勇者に取れる策は在らず、できるとすれば、過去へと戻り、以前行った時のように『運命改変魔法』を発動するしか手立てがない。

 あれはダビュールとして生きていた時代より前の、魔王討伐直後のヒナタが生きている時間軸へと転移し、ダビュール本人とヒナタの運命を改変した時のこと。

 しかしあの時は、明確に運命の変え所が把握できていただけでなく、綿密に魔法陣の作成にあたっていた。対して今回は、即興なだけでなく、どの段階の運命を改変すれば太陽の意思とユーラシアがぶつかり合うことがなく、シエルが攫われることもなく、ブラッドアイスが滅びることもないのか、まるで検討もつかない。しかも、運命を改変することは、世界を破滅へ導くことと同義。世界の摂理に反する行いなため当然の報いだが、創造神である最高神が滅びた今、一概に世界が破滅の道へ進むとも限らない。しかし、創造神が滅びたとて、既に完成されたシステムに影響がないことから、十中八九『運命改変魔法』の代償は払われることとなる。

 なんなら、太陽の意思が目覚めてしまったのは、邪神による『ノクステラ』の影響だが、運悪く太陽の意思を目覚めさせる要因の一つとなった要素として、以前発動させた『運命改変魔法』の代償とも考えられる。

 

 そうして勇者がひたすらに手立てを思考していると、突如背後に何者かの気配が現れた。

 振り返ると、それはまるで別人のように変わり果てた雪であった。

 勇者は言葉を失い、脳を働かせようともがくも、時が止まってしまったかのように何も考えられない。

 目は虚となり、視線は合うも、勇者の姿など瞳には捉えていないよう。

 言うなれば、廃人そのもの。

「ゆ・・・・・き——————」

 あまりにも信じ難い光景により、始めは動揺だけで済んでいた症状も、次第に呼吸が荒くなり、視界が揺らぎ始める。そしてただただ胸の底から絶望一色が込み上げてくる。

「何で、ここに・・・・・?」

 一体自分たちの知らないところで何が起きたのか?

 村に何が起きたのか?

 ただ分かるのは、雪からムンムンと漂う邪神の気配。十大魔神やエメラルと同様の邪悪な気配が、雪から存分に漂ってくる。

「ア——————アァ——————アァァァ——————アァァァァァァ——————」

 途切れ途切れの絶望に打ちひしがれた苦痛の悲鳴を上げる勇者。

「——————邪神・・・・・邪神‼︎」

 悲鳴は怒りを生み出し、鬼の形相となった勇者は憎き存在の名を喉が枯れるほど叫び散らかす。

 その直後、突如何もない空間へと出現した微小な漆黒の粒は、流星の如く複数の軌跡を描き、勇者の四肢と胴体を貫いた。

「——————カハッ」

「『邪水龍』」

 そう言い放った瞬間、勇者は崩れた態勢のまま、またしても突如頭上に出現した流動的な黒龍に突っ込まれ、そのまま遠方のホワイトプリムス大陸まで吹き飛ばされてしまった。

 その様子を冷徹な表情で見据える雪。

 その瞳には、最早何一つの感情すら宿っていない。ただひたすらに邪神の命により動かされる操り人形と化している。

 そうして雪は、勇者に追い討ちをかけるのでもなく、そのまま姿を眩ますのだった。

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