304話 復讐の始まり
オレは何をしてる。
ここはどこだ?
辺りは闇に包まれ、その闇が体中にまとわりつき、安らぐ温かさを帯びている。
手足は何かに縛られているかのように思うように動かせず、肌から感じる温かさとは異なり、胸の奥からは吐き気を覚えるほどの憎悪する感情が込み上げてくる。
頭の中は澄み渡り冷静なはずなのに、形容し難い憎悪の感情が心を侵食していく。
オレはさっきまで何をしていた?
どうしてここまでの怒りを抱いている?
——————いや、これはオレの感情じゃない・・・・・・
その瞬間ふと、オレはある出来事を思い出す。
それは、ブラッドアイスの紅い壁に触れた時に流れ込んできたあの憎悪。今の感覚は、あの時と非常に酷似してる。
だとしてもだ、どうしてオレはここにいる?
オレにはやらなきゃいけないことがあったはずだ。
思い出せ・・・思い出せ・・・・・思い出せ——————
この憎悪を感じて、オレは何を思った?
何を覚悟した?
何を誓った?
オレは誰で、この憎悪は誰のモノだ?
——————この世で一番大切な存在。命落としても守らなくちゃいけなかった存在。
怒り・悲しみ・期待・絶望。
その全てがこの憎悪からは感じられる。
オレは大切な存在を守りたかった・・・・・けど守れなかった。
どうして——————
奪われたからだ‼︎
何もかも奪われたからだ。
力が欲しい・・・・・憎い・・・・・殺す。
そうか・・・・・この憎悪は、既にオレの力の一部だったんだ。
オレは、守る力じゃなく、復讐の力を望んだんだ。
いやそれも少し違うな。
守りたい意思よりも、大切な存在を奪われたことに対する怒りの感情が何よりも勝ったってことか。
オレは憎悪に抗うのではなく、抵抗をやめ、自らの内に受け止める。
守るためには、誰であろうと邪魔な存在を消さなきゃなんねえ。
それはオレから大切を奪う者であり、オレの行手を阻む者であり、足枷となる者。
さぁこっからは復讐の時間だ。
途端にユーラシアの意識は目覚め、周囲の悲惨な状況を把握する。
「オレが、やったのか・・・・・?」
視界全てを、燃え盛る漆黒色の炎が包み込んでいる。
そこには誰一人の姿もあらず、シエルはもちろん、勇者の姿すらない。
記憶の片隅には、エメラルとともに姿を眩ましたシエルと、必死な形相をこちらへと向ける勇者の姿がある。
それから何分、何時間も経ったのだろうか?
それに、先ほど対峙していた者の姿も見当たらない。
次第に不安な感情が抱く怒りを上回り、ユーラシアの全身は徐々に紅色を取り戻していく。
体内に取り込まれていくかのように、鱗と鱗の隙間へと漆黒は取り込まれていく。
そうしてユーラシアは人の姿へと戻る。
と同時に、辺り一帯を包み込んでいた漆黒の炎も鳴りを潜め、残ったのは壊滅したブラッドアイスの無惨な光景と、ユーラシアの足元に横たわる見知らぬ少年。
「——————ひどい・・・・・ひどいよ。オデもう、戦う気なんてなかったのにここまでする必要あったのかよ——————ヒクッ、ヒクッ」
どうやら泣いているらしい。
ユーラシアは一瞬戸惑ったが、記憶にある声色と口調から、先ほどまで自身を圧倒していた存在であることを理解した。
「聞きたいことはいっぱいあるけどよ、お前もオレをボコったんだし、これでおあいこだろ」
「フンだ!」
仰向けの体勢から横へと寝返りを打ち、完全にいじけモードに入ってしまった太陽の意思。
しかしユーラシアはそれを気に留める様子もなく辺りを見回していると、突如目の前へと勇者が現れる。
「・・・・・」
顔面蒼白、満身創痍。
明らかにまともではない様子の勇者。
この状況を見れば無理もないことだが、勇者は何かを考え込んだように下へと視線を向けたまま顔を動かさない。
「——————ユーラシア。雪が、雪が・・・・・」
その後、勇者から聞かされた衝撃の出来事に驚愕させられると同時に、ユーラシアは邪神に対する怒りの感情を更に燃やすのだった。




