303話 触れたい想い
眠りたい。
ただその欲望のためだけに、『ノクステラ』により頭の中に響き続ける邪神の言葉を遂行しようとする太陽の意思だったが、眠気など一瞬にして吹き飛んでしまうほどの「美」と出会ってしまった。
苦しみ必死に抗うその姿は、可憐で儚く、優しく包み込んであげたいと思わせる衝動に駆られる。
白き髪に白き肌。
触れたいと思いつつも、触れてしまえば壊れてしまうと思わせられる繊細な存在。
太陽の意思は生まれて初めて己自身の欲望のためではなく、他者を想って自らの熱さを抑制する。
どうすれば彼女に近づけるか。
太陽の意思の思考は、まず同族としての形を成すところから始まる。
全身が炎で包まれていた姿から、次第に人としての肉体を露わにし、人の形の上に色・パーツの配置などを、記憶にある人間の姿を元に作り上げていく。
そうして完成した姿を一言で表すとするならば、ユーラシアの「弟」、「ミニユーラシア」、「ユーラシアジュニア」といったところだろう。
燃えたぎる炎を表す逆立った真っ赤な髪に、くりっとした緑色の瞳。まさしくユーラシアに瓜二つの存在が誕生した。
新たな存在として生まれ変わった太陽の意思は頭上を見上げるも、初恋の人はどこへやら、綺麗さっぱり姿が消えてしまっている。
そして気がつけば、先ほどまで対峙していた紅き存在は漆黒へと全身を染め上げ、猛烈な怒りの感情を露わにしている。
そしてその感情が自分自身に向けられているのだということをすぐさま理解するも、太陽の意思の眠気と怒りはすでに収まっており、戦闘意思はすでに消失していた。
「オデ——————」
しかし言葉を発し切る前に漆黒の拳は胴体へと直撃し、尋常ならざる痛みを感じる。
「ガッ」
その後も次々と放たれる拳は、その一つ一つが太陽の意思に悶絶するほどの苦痛を与え続けると同時に、周囲の環境は見る見るうちに廃墟と化していく。
先ほどとは逆の立場に立たされる太陽の意思。
確かに発散していた熱を抑えたことにより、無意識に漏れ出る外部の熱エネルギーによる影響は皆無となったが、その分、内部エネルギーの効率性は増している状態。
詳しく説明すると、現在の太陽の意思は、上空に浮かぶ太陽の外殻同様に内包するエネルギーは減り続けている一方。太陽の意思は電池のような存在ではあるが、その効果が発揮されるのは外殻とセットになっている時のみ。故に、内包する熱エネルギーが尽きてしまえば、太陽の意思も外殻同様に消失してしまうこととなる。しかし、先ほどまで無意識に外部へと発散されていた熱エネルギーを全て抑え込むことに成功したため、急激に消耗されていた熱エネルギーは、より効率的に少ない範囲で消耗できるようになったということ。
つまり、人の姿を取ったからと言って、強さに何ら影響はない。もちろんエネルギーが回復しないということは、弱体化が常に進行していることでもあるが、一瞬で激的に変化するわけではない。
この場合、ユーラシアが異常なほどの進化を遂げたということ。
現に太陽の意思に戦う意思はないと言えど、一方的に攻撃をくらい続けている。
太陽の意思は全身の骨が砕け散るような感覚とともにブラッドアイスの紅き壁へと激突。
何百年と聳え続けていた紅き壁は呆気なく崩壊するのだった。




