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竜魔伝説  作者: 融合
反撃編
303/324

302話 希望が絶望色に染まる瞬間

 シエルが連れ去られる直前。

「悪い国王、後は任せる!」

 そう言い放ち、ガンデルが状況を察する前に勇者は突如現れた存在——————人の姿をしたエメラルへ向けて剣を振るう。

 聖剣から放たれる白銀の斬撃は、約三メートルほどの大きさとなり三日月の如く放たれる。

 しかしエメラルの体に触れる前に、エメラルの吐息に混じった些細な炎に触れた途端に消失してしまう。

 勇者はエメラルの周囲を駆けながら、視界が白銀色に染まるほどの勢いで無数の斬撃を放つが全て無に帰す。

「僕に魔力は効かないことぐらい、君なら分かってるんじゃない?」

「そうだな! 『創生世界魔法』」

 勇者は斬撃による目眩しと同時に、エメラルを囲うように描いた魔法陣へと魔力を込める。

 直後、エメラルとシエルはムンテルダルクから姿を消し、勇者の創り出した異次元世界へと隔離される。

「ユーラシア。そう長くは持たないからな——————」

 しかし、勇者の足掻きは無意味。一瞬にしてエメラルはムンテルダルクへと帰還する。

「嘘でしょ⁉︎」

「確かに異空間に飛ばされたとなれば、魔力や神の力の無効化は関係ないね。けどさ、勇者如きの力なんざ、僕の咆哮一つで全て無にできる———————そのおめでたい脳みそにしっかり刻み込んどけよ」

 創生世界魔法は、いわゆる次元の壁から順に構築される異世界のようなモノ。その全ての情報が刻まれているのが魔法陣であり、魔力は発動時点でしか必要としない。故に、例え魔力や神の力を無効化する力を有していたとして、次元の壁が破壊される理由にはならない。ただし、次元の壁が不滅ではないことも確かである。

 だからと言って、一瞬で消滅させることなどあり得ない。

 エメラルが初めて勇者の創生世界へと触れたのは、ユーラシアと剣聖村の地下にある深層地帯で手合わせをした時であるが、その時は二体の竜族の力に耐えきれず、創生世界は消滅した。

 しかしあの時は、即座に創り上げた創生世界であったこともあり、そこまでの耐久力は有してはいなかった。

 しかし今回は、かつてクリメシア王国に施したモノ以上の頑丈さを有した創生世界魔法だったはず。

「お前・・・・・一体どれだけの力を邪神から与えられたんだよ」

「それだけじゃないけどね。今の僕なら竜王にも勝てるかな?」

「アレを見てそんなことが言えるなんて、素直に感心するよ」

 そう言い、勇者は威嚇にも似た挑発的な笑みを見せる。

 視界で捉えられる距離にユーラシアはいないが、伝わる衝撃が戦いの壮絶さを物語っている。

「例え敵わなかったとしても、シエルはもう僕のモノだ」

 これが勇者の時間稼ぎだとも知らず、勝ち誇ったような笑みを浮かべるエメラル。

 直後、ムンテルダルクに仕掛けた転移魔法陣が発動する。

 勇者はその気配を感じ取り再び聖剣を輝かせると、側面を天へ向けた形で自身の目の前へと掲げ、左手を剣の先端へと乗せる。

 勇者の聖剣に刻まれる魔法陣は、その制限が予め決められており、新たな魔法陣を刻む際は、既に刻まれている魔法陣を削除する必要があるのだが、大元となる内容をそのままにグレードアップさせる際は追加情報を付け加えることが可能となる。

 勇者は聖剣に刻まれている、魔力・神の力・エクソシストの力・物理干渉・精神干渉など、結界内で発生するあらゆる事象を無効化する結界魔法陣へと更に追加情報を付け加えていく。

 この魔法は以前、マルティプルマジックアカデミーの存在した創生世界で魔王による『アベオス』が放たれた際に使用した結界の強化版魔法陣である。

 しかし、それが現段階で発動されていない理由としては、人々に展開させた結界魔法の効果を弱めてしまう可能性があげられる。また、この結界魔法の無効化能力には決して高くはない限界点が存在するため、破壊された挙句、個々に施した結界魔法の効果が弱まってしまうケースが最も最悪であることを理解していたのだ。

 それなのに今になりこの結界魔法陣へ干渉する理由はただ一つ。それは、発動した転移魔法効果を阻害するため。

 勇者は、聖剣に刻まれる魔法陣へと新たに自身とエメラルの情報を付け加え、魔法陣を乗せた斬撃をムンテルダルクに展開されるエクソシストの結界へとぶつける。それによりムンテルダルクには、転移魔法の効果と、勇者が今完成させた結界魔法の二種類が発動される。

『私らのことは気にすんな』

『——————無事を祈る』

 勇者とガンデルの短な思念会話が行われた直後、ガンデル含めたムンテルダルクの民全てが中間地帯へと転移した。

 そうして残されたのは、勇者とエメラル。そしてシエルの三名。

「やっぱりそう簡単にはいかないか」

 あえてシエルの情報を書き込まなかったことで転移魔法の効果をシエルにまで及ぼそうと試みたが、周囲に纏わる緑の炎により、転移魔法の効果が無効化されてしまった。

 その直後、体の芯にまで響き渡る深く怒りを宿した雄叫びがブラッドアイスを襲う。

 先ほどよりも高熱を帯びた熱風が勇者の背後へ勢いよく吹き抜ける。額に帯びた汗は瞬時に湯気を立てて蒸発し、しまいには遠方より巨大な炎の津波が押し寄せる。

 先ほどまでシエルを取り戻すことのみに意識を向けていた勇者も、今目の前で起きている天変地異に視線は釘付けとなり、呆気に取られてしまっている。

 

「何だ、アレは」

 

 視界の先、津波の頭上を紅き流星が舞い落ちると、直後に地が割れ、崩壊が始まる。

「あいつ一体何考えてんだよ! これじゃ地上が保たねえぞ」

「けど、僕たちにもアレは止められない。ユーラシアを信じるしかない」

 すると、透き通る声が頭上から響く。

「ユグドラシル——————っ!」

 エメラルの拘束にひたすら抗い続けるシエル。とっくに意識を失っていてもおかしくはない状態だが、愛する者のため、決して諦めることなく意思を奮い立たせる。

 しかしエメラルは、心底おかしそうに勝ち誇ったような見下す笑みを揺らめく炎に包まれるユーラシアへと向け、そのまま姿を眩ませてしまった。

 意識を逸らした一瞬の隙を突かれた自責の念にかられる勇者。しかし逃げられた原因はそれだけではない。息は切れ、徐々に視界が揺らいでいくと同時に体から力が抜けていく。

 勇者はこれまで、ほぼ休まずに『ゲニウス』発動のために行動していた。その上、十大魔神の警戒と対策までを一人で行い、ブラッドアイスに暮らす何億という命を救って見せたのだ。緊張と疲労により体はとうに限界を迎えていた。

 しかし途絶えそうになっていた意識は、全身の細胞一つ一つをヒリつかせる邪悪な気配により再び奮い立たされる。

 勇者が目にしたのは、希望と呼べる存在が、絶望色に染まる瞬間であった。

 真紅が漆黒へと染められ、とてつもない憎悪を充満させる。

 勇者はかつて魔王にすら感じたことのない邪悪な気配に恐怖し、身動きすら取れなくなってしまう。

 強さだけで見れば、魔王は十大魔神となったオーレル、更にそこから進化したドラルドとトロプタよりも劣っているが、邪悪さで言えば魔王に勝る存在に勇者は会ったことがなかった。しかし、邪神の邪悪さは魔王の比ではないことぐらい分かっていた。

 しかし、魔王=邪神の邪悪さとは、純粋なる死を匂わせる冷徹な闇。それに対して今まさにユーラシアから感じる気配は、渦のように荒れ狂う憎しみの覇気。

 その邪悪な力が容赦なく地上へと振るわれる様を、勇者はただ歯を食いしばり見ていることしかできないのだった。

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