296話 竜王 vs 太陽の意思 その一
ユキが魔界に拘束されていた頃、ユーラシアの戦いは過激さを増していた。
「クッ」
王城場所から遠方へ飛ばされた先、太陽の意思は瞬時にユーラシアへと追いつき、もう一発ユーラシアの腹部目掛けて拳を叩き込み、交差させたユーラシアの両腕ごと容赦なくぶん殴る。
先ほどとは桁違いの威力。周囲数キロを一気に吹き飛ばす衝撃波が生じる。
ユーラシアは火だるまとなりブラッドアイスを横断する。更にその衝撃波は凄まじく、通り過ぎた国々の環境を厄災の如く破壊し、一瞬にして多数の国が大惨事となる状況に。
吹き飛ばされたユーラシアは、そのまま勢いよくブラッドアイスの果てにある紅き壁へと激突し、大量のヒビを生じさせる。
「・・・・・マジかよ」
今のユーラシアは人の姿と言えど、間違いなく全盛期同然の竜王としての力を取り戻しているはず。それどころか、以前には有していなかった神の力の無効化までも有しているのだ。
しかし突如出現した得体の知れない何かは、明らかにユーラシアの力を圧倒している。
背丈は6年ほど前のケンタとそう変わらない程度だが、発せられるエネルギー量が尋常ではない。
人の形をしているそれは、全身の模様が揺らめく炎のように幾度も変化し、全てがその模様一種で埋め尽くされている。しかし歩くたび触れたモノを容赦なく溶かし、触れずとも、周囲数十、いや、数百メートル規模の土地が湯気を立てて蒸発し始めている。
『勇者、今すぐブラッドアイスにいる人全員をなるべく遠くに避難させてくれ』
『それは・・・・・やってみるよ。それより、君の方は大丈夫?』
『いやぁー正直、ここまでのは邪神以来だな。けど、オレのことは心配すんな。そっちは任せたぜ、勇者』
ゆったゆったと歩きながらこちらへと向かって来る太陽の意思に、力強い眼光を向けながら立ち上がるユーラシア。
距離にして数メートル。
熱さを感じはするものの、ユーラシアならば余裕で耐えられる。
「お前一体何者だ?」
「—————勇者殺す! 竜王の大切も殺す! 全部殺してゆっくり眠るんだぁ‼︎」
まるで子供のように叫ぶ太陽の意思。
この得体の知れない存在が、邪神の手下かなんであれ、ただ湧き上がるのは怒りの感情。
自身の大切な存在を奪う者は誰であろうと容赦しない。
もう既にあの一瞬の攻防で何百人、いや、何千、何万の死者が出ている。そしてこのままこいつを野放しにしていては、間違いなく全てを奪われる。
そう直感したユーラシアは、竜の姿を解放する。
「ついて来い」
そう一言吐き、ユーラシアはブラッドアイスから離れ、南側領土と北側領土の間に存在する大海上へと抱擁の力により一瞬で移動する。
その数秒後に太陽の意思も合流し、ユーラシアは再度抱擁全体に意識を集中させる。
基本的に竜王の抱擁は、生体反応の知りたい場所へと意識を向ける必要があるのだが、目立つ魔力反応などは自然と察知することが可能となる。しかし、抱擁へ意識を向ける余裕すらないほどに、圧倒的な存在がユーラシアの目の前へと佇んでいる。
「よかった・・・・・ここ以外は無事みてえだ」
改めて北側領土以外の無事を知ったユーラシアは、自らの抱擁の力を一時的に解除する。
竜王の抱擁は、魔力消費量で言えば常時稼働させていたとしても、二割程度の消費しかない。その程度ならば、魔力樹から供給される魔力量の方が上回り、結果的に消費ゼロで抑えられている。しかしこの状況では、その消費すら命取りになる。
「来いよ、オレを殺したいんだろ?」
「うん!」
そう元気よく答える太陽の意思は、目を見開きギラつかせ、口を満遍なく横へと引っ張り笑みを浮かべる。その表情には、嬉しさと怒りが混合した感情が宿っていた。
そうして再度両者はぶつかり合う。
互いが先ほどよりも熱量を増し、拳と拳は勢いよく激突する。
その影響は最早人智を超えたレベル。
今の一撃で視界に広がる海は全て蒸発し、周囲に広がるのは中間地帯と変わらぬ茶色い土地と薄く暗さを帯びた青い空。
今二人がいるのは南と北の中間地点。
つまり、たかが一撃の衝撃が周囲数百キロにまで及んだことを示す。
もしもこれが文明の上で行われていたならば、想像するだけで恐ろしい。




