294話 悲しい再会
勇者の目の前に降り立つユーラシアとシエル。
ユーラシアの視線の先には、ドラルドとトロプタの姿があった。
両者警戒心を抱きながらも、再会に多少の喜びを胸の内に抱いていた。それと同時に、悲しさも込み上げて来るのだった。
「——————お久しぶりですね、ユーラシア」
先に口を開いたのはドラルド。
「ああ、魔界以来だな。仕方ない展開とは言え、あんたたちとは戦いたくなかった」
「そうですね。短な間だったとは言え、私たちと貴方との間には、確かに絆が生まれていたのですから」
「一つ訂正するとすれば、オレにとってアストラル界での三年は決して短い時間じゃなかった・・・・・けど、一人じゃなかったから乗り越えられたんだ」
「そういうところは相変わらずだね。雰囲気はまるで別人なのに、優しさはちっとも変わってない」
姿を言うのなら、ユーリであったトロプタの方が別人と言うに相応しく激的に変化しているが、醸し出す雰囲気はユーラシアの知るユーリ・ポールメールのまま。
「ユーリさんも久しぶりだな」
「さん付けはもうよせ。それに、今の俺は邪神配下の十大魔神トロプタだ」
やり取りをするユーラシアとトロプタの顔には、どこか安らいだ表情が浮かべられている。
互いが敵同士だとは思えない、友との再会を思わせる様子。
「——————一応謝っとくよ。いつか、ユーラシアくんと初めて会った時に交わした約束と、魔界で交わした自然界の誕生秘話について聞かせてあげる約束——————守れそうにないからさ」
ユーラシアは思わず笑みをこぼす。
「フッ、あんたたちの立場は理解してるし、フェンメルさんのことを大切に思っていたことも分かってる」
ユーラシアの発言を聞いたドラルドは目を見開き、視線をすぐさまトロプタへと向ける。それの意味するところが何なのかはユーラシアには理解できないが、特に気に留めることもなく発言を続ける。
「ドラルド、最後に一つ聞いておきたい」
「何ですか?」
「——————あん時、アストラル界から出る直前にオレに言ったことを覚えてるか?」
それは、邪神がムンテルダルクに必要以上の力を植え付けた理由であり、ドラルドとトロプタからすれば、つい先ほどもその者の話をしていた記憶が鮮明に脳内に残っていたため、すぐさまユーラシアの質問の答えが思い当たる。
何よりもこの地に竜王がいるということは、何かしらの繋がりを感じ取っていても不思議ではない。
「はい、覚えています」
そう答えるドラルドの表情は、どこか辛さを帯びるモノとなっていた。
「——————覚悟を決めたはずなのに、本当に自分自身が情けなくなりますよ。これでは、邪神様にも、ユーラシア貴方にも、失礼というものですよね」
トロプタは、すぐ隣で葛藤に苦しむドラルドをただ無言でひたすらに見守る。
トロプタも本心ではユーラシアとは戦いたくはない。勝てる勝てないの話ではなく、情があるからこその躊躇う心。
しかしドラルドは、誰よりもユーラシアと親しく、そして竜王の子供と親しかったために、心が裂けるほどの葛藤に襲われている。
「以前お話しした子供の話は、例え話ではありません・・・・・」
「——————そうか。実は、知ってるんだ」
「え?」
「竜王だった頃に、オレに子供がいたこと。魔族が恩人だってこともな」
ユーラシアの発言を受けたドラルドとトロプタの目つきが変わる。もう彼らの瞳には、ユーラシアは敵として映ってはいなかった。
その光景を見ていた勇者、シエル、ガンデルとその子供たちは、場の空気が徐々に落ち着き始めているのを感じ取っていた。
しかし、争わずに済むのかと言われれば、そういうわけにもいかないのが悲しい現実。
次第にドラルドとトロプタの視線はユーラシアを見ることを忘れ、いや、敢えて意識から外し、敵対心を宿す瞳を勇者一点に注ぐ。
「ユーラシア・・・・・やはり貴方とは敵対したくありません。できないみたいです。ですから、この場合は見逃してください」
「俺たちは勇者をやらなくちゃいけない。神は、俺たちにとって絶対的な存在だからだ。どの道今回の命令を成さなきゃ俺たちは殺されて終わりだ」
ユーラシアは深く息を吸い、ゆっくりと吐きながら改めてドラルドとトロプタへと視線を向ける。
「悪りぃな。お前らを、オレの大切な存在にするわけにはいかねえらしい」
寂しさを押し殺し、覚悟を決めた鋭い表情をドラルドとトロプタへと向けるユーラシア。
「もっと違う形で出会いたかったと、願わずにはいられませんね」
「けれどこれで、自由になれるのかも知れないな」
二人の言葉が止んだのち、ユーラシアは淡々と言葉を述べる。
「——————結界を張ってくれ」
しかしその直後、かなり遠方からとてつもない地鳴りが響く。更に、五十度近くある熱が瓦礫を吹き飛ばすほどの強風に乗せられ、ムンテルダルク全体に吹き荒れる。
しかし本当の恐怖はこれからだった。
そのことをいち早く悟ったユーラシアは、柄にもなく焦りを滲ませた表情を浮かべて勇者ら背後に控える者たちへと視線を向ける。
「今すぐここから離れろ——————早くっ‼︎」
ユーラシアがここまで冷静さを取り乱した様子を、この場にいる者たちは初めて見る。
その理由も分からなぬままユーラシアの言葉が勇者たちに届いた頃には、先ほどの熱風など比較にならない熱量が辺り一帯を包み込み、既にドラルドとトロプタは熱によりその体を溶かされ、命を奪われていた。
この場で反応できたのはユーラシア含めてたったの三名。シエルと勇者は持てる力の全てを発揮し、ムンテルダルク内にいる存在全てに全力の結界を施す。
「おっ、なんか強そうな人がいる! てことはアレが勇者かな〜」
どこか呑気で高らかな声がユーラシアの耳に届いた直後、邪神に匹敵するほどの速さの拳が顔寸前へと繰り出される。
「ッ⁉︎」
ギリギリで拳を受け止めるユーラシア。
片方の掌でがっしりと放たれた拳を捕らえてはいるが、徐々に押し込まれていく。
そしてその衝撃波はとてつもなく、周囲数キロの瓦礫を勢いよく吹き飛ばし、地面を豪快に抉った。
「誰だお前?」
これほどの存在をユーラシアは知らない。いや、ユグドラシルの記憶にすらない。
魔力や神の力と言った知る気配は全く感じられず、ただ感じられるのは、炎属性の竜王であるこの身にすら届き得るほどの熱さ。
抉られた地面は次第に泥のように溶けていき、地に立つ両者の体が沈んでいく。
次に繰り出されたのは捕らえている拳とは異なるもう一方の拳。武術の心得などからっきしないことが窺える左の大振り。先ほどとは異なり、多少の余裕ありで防御の姿勢を取るユーラシアだが、防御した腕から伝わる衝撃は竜王の身に『痛さ』を感じさせるほどであり、一瞬にして視界が反転したかと思うと、勢いよく遠方へと吹き飛ばされてしまった。




