252話 ノクステラ
ドラルドとトロプタが俺の下から消え、俺は一人魔界の玉座に佇む。
その暗黒に染められし座にて、俺は一人高々に声を上げ、笑う。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
まだ叶えられたわけではない。
この惑星を含むこの世界の王となる野望を。
勇者は俺の支配から逃れる術を持ち、その力を他者へと行使する術をも持ち得る。
故に新世界に奴らの存在は不必要。
最高神に憧れ、竜王の支配するその姿に憧れた。
故に俺は、支配することに心の底から愉悦を覚え、恐怖ではなく崇拝心を持ってして崇められる存在たり得るため、己の力を世界の生命へと植え付けている。
だからこそ、竜王への嫉妬心は愉悦の邪魔にしかならず、悲願のため、これ以上はないと思えるほど最強となった竜王を、ユーラシアをこの手で殺す必要がある・・・・・そう思っていた。
しかし実際、悲願の時を目前へとしてみれば、なんてことはない。
こんなにも容易いことだったのかと、そう思わずにはいられない。
俺は最高神を喰らったことで、文字通り「世界を支配」する力を手にしてしまったのだ。
最高神は、すべての生命を思い通りにできる力を持っていたにも関わらず、その力を存分に行使しようとはしなかった。
いや違うな。
この力を手にしてみて理解した。
この万能の力は、意識に起因しているのだ。
つまり、最高神は地上の生命を見守る意思を己の力へと根付かせてしまったが故に、神人などというコマ頼りの戦法を取るしかなかったというわけだ。
だからこそ俺はこの力を存分に、己の野心のためだけに行使する。
だが、支配したその先は?
万能の力を行使すれば、すぐにでも野望を果たすことはできる。
だが、つまらない——————退屈だ。
支配欲は変わらず抱き続けているというのに、俺の愉悦は・・・・・『支配』では満たされないのか?
——————俺は笑顔の先に涙を流していた。
あーそうか、そうだったのか。
あいつに憧れた時、
あいつと拳を交えた時に気がつくべきだったな。
人間の肉体を依代としながら、神だった頃に劣らずの支配欲と、最高神へと復讐心を抱くことのできた副作用などではなかった——————
「これが『恋』か?」
竜王を独り占めしたい。
奴の絶望する姿をもっと見てみたい。
奴に殺意を向けられたい。
危うく見失ってしまうところだったな。
竜王を叩き潰すこと。それは、俺にとって何よりの快感だ。
奴の苦痛にもがき、絶望する姿をこれ以上なく堪能することができるから。
だが、そんな極上の時間は一瞬で終わってしまう。
「俺が王となる新世界に、竜王——————お前は必要な存在だ」
何度でも俺の手により殺され、何度でも立ち上がれ。
世界の王となったその先も、俺の快楽を存分に満たしてくれ!
俺は手のひらに人の心臓を生成する。
「グッ」
そしてその心臓を自身の胸の奥へと押し込んだ。
「俺の前へ現れるその時まで、これはここで育てておくとしよう」
この心臓を竜王へと捧げることにより、俺の体へと脈々と流れる血が奴の体へも流れることとなり、奴は不死の力を手に入れる。
「待ち遠しいな」
それでは仕上げに入るとしよう。
「『ノクステラ』」
何人たりとも干渉不可の暗黒がこの星を起点としたこの世界すべての惑星へと広がっていく。
ノクステラは、最高神の世界を支配する最大の力『ルミナス』とは対となる力。
そうか・・・・・最高神は惑星に生きる生命の行方を見守る意思を根付かせてしまったから行使できなかったのでもない・・・・・世界を照らす力を、悪だと理解した状態での正義として使うことができなかったということか。
だが俺のノクステラは、闇により世界を支配するためのもの。
故に、邪なるモノが正であり、正義である。
「俺に支配されろ——————勇者を殺せ——————竜王の大切な存在も全て殺せ」
この言葉は世界の果てまでも届いているだろう。
だが、流石だな。
まだ俺と対等な強さは得ていないとはいえ、この惑星に施されている竜王の力の影響でノクステラの干渉ができない。
さて、一体どのような未知と出会えるのか、実に楽しみだな。




