250話 色男
南側領土:ハワウィ
年中極寒の北側領土とは異なり、年中焼けるような蒸し暑さが続く南側領土の一国。
そんな南側領土の中でも最も海に面する面積を持つ国こそが『ハワウィ』と呼ばれる国である。
南側領土の人々は、他領土と比較して日差しの強さが半端ないため、体の色も濃い者が多いいのだが、ここハワウィで暮らしている者の特徴は、肌の色の白さが特徴の一つとして挙げられる。
その理由は、ハワウィの上空にのみ特殊に張られた紫外線を含む、人体に害なす光の要素を八割ほど遮断する効果を有する結界による影響。
ハワウィの巨大ビーチ周辺には、幾つもの巨大なレジャー施設が建ち並び、ビーチ上には砂浜が見えなくなるほどのテントやパラソルが年中見受けられている。
そんな中、色白でビキニを着用したスタイル抜群の美女に大勢囲まれながら、一人優雅にフルーツを贅沢に敷き詰め、キンキンに冷えた飲み物のグラスを片手に、もう片方の手には女の胸が、そして唇は飲み物と周囲の女性たちの唇を行ったり来たりと大忙しな男の姿があった。
「最高だぜぇ。こんなにいい女どもを飽きもせず年中抱いていられる快感はよぉ」
そう言いながら、グラスに入っている緑色のフルーツを口へと運ぶ。
そうしてまた女の口へと自身の唇を重ね合わせる。
「んん〜。今日の相手は、一体どいつがしてくれるんだ?」
今日の相手とは、夜に行われる男女の営みのこと。
男は日中は複数の女性と生殖行為を伴わないスキンシップを繰り返し、夜にはその中から、あるいは街中の目に止まった女性の一人と熱い夜を毎度の如く過ごしているのだ。
ここで重要となるのが、一回の営みにつき、必ず一対一で行われている点。
女性にだらしない一面を持っていそうなこの男。実は、女性にとても紳士であり、プレイにおいては必ず女性のあらゆる意図を汲み取り、優先するのだ。そして、対する一人の女性に、その日その時は、自身の愛のできる限りの全てを捧げる。
それこそがモテる男の使命であると、心の芯に刻み込んでいるのだ。
そして当然、この女性らも男のお世話になったことは一度や二度の話ではない。
故に虜となり、男を取り囲む女性のみならず、その周囲で聞き耳を立てていた女性たちも一斉に夜の相手候補として名乗りを上げ始める。
「ふっ、まったく困った奴らだな。そうだな・・・・・今この時、キスだけで俺を一番楽しませられた奴に相手をしてもらうとしようか」
そう言うと、女性たちは獣の如く男へと迫る。
しかし男は並大抵の実力者ではないため、約五十は超えるだろう女性の束などもろともしない。
「順番だ。これから俺がお前らにキスしていく。存分に楽しませてみせろ」
そうして、男は一人一人の体へと優しく触れ、多少の愛撫をともない、各々との一瞬の時を濃密なモノへとすり替えていく。
男に唇を奪われた者は次々と腰を抜かしていき、砂浜へと倒れ込んでいく。
「そんなもんか? そんなんじゃ、俺の夜の相手は務まらないぜ?」
その後もひたすらに女性たちとの楽しい時間を過ごしていると、男の元へ一人の人物が近づいていく。
その人物は紫色の長髪を後ろで一つに束ね、口には一本のタバコが咥えられている。
「ん? こりゃあ、珍しい客が来たもんだな」
男は、近づいてくる人物に気がつき、女性たちとの絡みを一時中断する。
「全く、君はこんな時でも相変わらずみたいで何よりだよ」
「こんな時だ? まあそんなこと言ってねえで、せっかく来たんならそんなくだらねえもんなんか咥えずに、もっといいもん味わえよ。ゲト」
「こういう所はどうにも息苦しくてね。普段タバコなんてあまり吸わないんだが、どうにもね」
そう言うと、咥えていたタバコの火を海につけて消した後、ポケットの中へと仕舞い込む。
突如姿を見せた人物の名は、ゲト・シュグール。
神放暦では、南側ゴッドスレイヤーの王であった男。
今では冒険者ですらなく、南側領土に存在する魔法協会支部に勤めている。
「今日ここに来たわけは、トルネオン。ドラゴンスレイヤーである君に依頼が入ったからだ」
トルネオンと呼ばれるこの男は、長い銀髪をゲト同様に後ろで束ね、色白であるが、くっきりと鍛え上げられた強靭な筋肉が目に見えて分かるほど発達・隆起している。
ゴリゴリすぎるマッチョではなく、それでいてしっかりと男を感じさせてくる肉厚感が女性フェロモンを刺激するのだろう。
「兄貴。俺が好きでドラゴンスレイヤーになってないことは知ってるだろ?」
「そうだね、覚えてるよ。ドラゴンスレイヤーになれば、あらゆるコトが顔パスでまかり通るからね」
「フッ流石だな。ドラゴンスレイヤーになれば、制限なしで色んな国の女を味わえる。そう思ったから冒険者を始めたまでだ。俺には劣るが、兄貴も相当な実力者だろ? なら、俺に頼まず、兄貴が依頼を受けたらどうなんだ?」
トルネオン・シュグール。
そう、ゲトとトルネオンは、兄弟なのだ。ゲトが兄で、トルネオンが弟。
彼らに記憶があるはずもないが、神放暦では、ゲトがゴッドスレイヤーの王であったのに対して、トルネオンは何者でもない一般市民であった。
仮にトルネオンがその実力を証明していたならば、ゴッドスレイヤー時代であっても、トルネオンが南側領土の王になっていたことは疑い用もない。
しかしゴッドスレイヤーへの興味を示さなかったのには、理由がある。
それは、雑務が面倒であったから。
それに比べてドラゴンスレイヤーは、ただ協会の依頼を受けるだけで済む。
しかし面倒なのは、ゴールドハンターですら困難であると判断された依頼に関しては、強制参加となってしまう点。
正に今回がその例である。
「さっき北側領土の協会支部から連絡があってね。おそらくだけど、協会本部は正体不明の敵の手により壊滅させられたと推察できるとのことだ」
ゲトの言葉を聞いたトルネオンだけでなく、周囲の者たち全ての表情が青ざめる。
「更に西側領土も襲撃にあったらしくてね」
「んで、どうなったんだ?」
「嘘か本当か、西側領土の情報によると、竜王が助けてくれたらしいんだ」
「あぁ?」
トルネオンは分かりやすく眉間に皺を寄せ、渋い表情を浮かべる。
「そんじゃあ、先日の巨大な揺れの正体は、奴が戦ってた衝撃ってことか?」
「それは何とも言えないね。ただ、エクソシストの一人が妙なことを言っていてね。今、竜王跡を調べに行かせているよ。彼らには、僕らには見えない何か別の世界が見えているんだ」
「竜王跡か。あの西と北の境界付近に存在するっていうアレか」
「そう、アレだ」
「仕方ねえか。悪いが、今日からお前らとの夜の営みはしばらくの間はお預けだ」
多くの不満が女性たちから垂れ流されるが、仕方のない話だ。
不満気ではあるが、熱く唇を奪われた者たちは満足そうな表情も浮かべている。
「仕方ねえな」
そう言うと、トルネオンは残りの女性たちとも熱いキスを交わしていく。
「はぁ、依頼があったのは北側領土ブラッドアイスのムンテルダルクからだ。正体不明の敵の力により国民が次々と異形の怪物と化しているとのこと。君への依頼内容は、原因の追求と改善、必要ならば敵の始末だ」
「んんっあぁ・・・・・了解」
「それじゃあ、僕は失礼させてもらうよ」
「ああ。これが済んだら俺も直ぐに発つ」
その後、トルネオンはしばらくの間女性たちとの熱い時間を満喫するのだった。




