表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜魔伝説  作者: 融合
反撃編
239/271

238話 旅支度

 時刻が朝8時を回り、ユーラシア、勇者、シエル、シェティーネ、レインの五名は剣聖村を出発した。

 剣魔やケンタたちとの別れの挨拶は案外あっさりとしたものであった。

 涙する者はなく、ただ短く別れの挨拶を交わしただけ。

 しかし信頼に言葉などいらないのだ。

 必ずユーラシアたちは生きて無事に帰ってくると信じているからこそ、快く送り出したのだ。

 しかし信頼にも様々な形があるのもまた事実。

 ユーラシアたちは出発した先、オルタコアスの民たちに行手を阻まれていた。

 いや阻むと言っては人聞きが悪いだろう。

 正確には、旅立ってしまう勇者一行をせめて短い間だけでももてなしたいと躍起になっているのだ。

 約六年前、オルタコアスの民は、ユーラシア・スレイロットという存在がかつて神により仕掛けられた『ゴッドティアー』から世界を救った新時代の勇者の息子であり、自分たちに恵みを与えてくれる世界樹の宿主である事実を知った。その上、地上へと二度目の『ゴッドティアー』から守護してくれた敬愛すべき存在だという認識を持っている。

 そして現在、ユーラシアの世界樹が元々存在していたおかげで邪神による記憶改ざんの影響を受けてはいないが、世界状況は把握している。そのため、ユーラシア・スレイロットが今では世界から『竜王』と称される存在であることを知っている。故にオルタコアス内では、ユーラシアが古代に存在した竜と呼ばれる幻の存在の王の転生体だという噂が飛び交っているのだ。

 そして先日、オルタコアスから遠く離れたポーメル国で人々は目にしたのだ。雷に照らされ巨大な積乱雲に映し出された勇ましい竜の姿を。

 この国でユーラシアを心から敬愛していない者など、王族を含めて誰一人としていない。

 故にユーラシアたち五名を囲む人だかりにも納得がつくというもの。

 要するにこの状況は、自身の存在による影響力を今一度再考しなかったユーラシア自身の問題というわけだ。

 勇者と言葉を交わしていたあの時間帯に出発していれば、こんな騒ぎにはならなかっただろう。

 しかしこの先の国々に待ち受ける人々は、誰も彼もが竜王を敵視する者たち。要するに、皆の記憶を戻せるまでは、この機会を逃したら、当分の間は手厚いもてなしなど受けられない。まぁ、ユーラシアのみ正体を隠せば勇者の恩恵にもあずかれるだろうが、何気兼ねなくもてなしを受けれるのは、現在世界中を探してもオルタコアスをおいて他にない。

「それじゃあせっかくだし、各自色々準備してからお昼までには門の前で待ち合わせしよっか」

「ああ、そうだな」

 気前がいい勇者の提案により、ユーラシアたち五名はそれぞれ別れて自由行動を開始する。

 しかし勇者やシエルたちと別れた途端、やはりと言うべきか、ユーラシアを囲う人だかりが先ほどの倍以上に膨れ上がり、最早強引でないと歩くことの出来ないほど人が密集してしまう。

 すると、遠方から高らかな笛の音が響いた直後、民衆をかき分け、計六名の銀色の鎧を纏った兵士が現れた。

「出発されるまで、ご同行させていただきます。ご容赦を」

「助かる」

「つきましては、陛下よりお言葉を預かっております。『偶には民たちにもてなしてあげられて欲しい』とのことです」

「ああ、そのつもりだ。それじゃあ早速行きたい場所があるんだ」

 


 そうしてまず初めにやって来たのは、散髪屋。

「うぅれしいぃわねぇ、ぶちゅ——————」

 紫色の口紅をテカらせた唇を鳥の嘴のように尖らせ、ユーラシアの後頭部ギリギリへと近づける。

 それを目にした兵士全員の視線が店主へと釘付けに。

「ギクッ・・・・・冗談よ、冗談じゃないのよ、もう!」

 既にお察しの通り、彼女・・・いやゴリゴリにマッチョでピンクのワンピースを着た彼は男性である。

 女性の内面を装いながら体をここまでゴリゴリに鍛えていることから、単なる趣味なのか、それとも本当に心が女性なのかの真偽はさっぱり分からない。

 しかし見た目に反してこの者のハサミ捌きは見事と言わざるを得ない。

 あれほど長かったユーラシアの赤髪が、以前の竜王の記憶を取り戻す前にしていた懐かしき短髪姿を思い出させる仕上がりに。

 おまけに所々鋒に白い色素を滲ませたスタイリングを施してもらい、散髪は終了。

 


 次にユーラシアが向かったのは、服屋。

「うむ。よく来てくださった!」

 こちらの店主もまたゴツい体つき。しかし、ユーラシアも身長は190センチを超えているため、細身ではあるが、それほど小ささも感じさせない。

 先ほどのお店は国一番の腕を持つとされる美容師が営む店舗であったため、ユーラシアのお眼鏡にかなったのだが、今回の店は、フランチャイズされているわけでも、そこまで知名度がある店舗でもない。

 ただ一つ、訴えかけてくる瞳に宿る愛が伝わって来たから。

 他の民たちにユーラシアに対する愛がないというわけでは決してないが、この者の愛はレベルがちがう。

 そして今まさにユーラシアの目の前へと差し出されている上下セットの服装と靴は、オーダーメイドされたモノ。

「貴方様が竜王であると噂され始めた数年前から拵えていたモノです。長いこと時間をかけて作らせていただいたモノでして、素材には【ミスパーウェッジ】と呼ばれる果実の表皮を使用しております」

「ミスパーウェッジとは、たしか木の根付近に生えているとされる植物・・・・・いや、果物だったか?」

 一人の兵士が興味深そうに発言する。

「そうです。ミスパーウェッジとは外敵からその身を守るため、近くに生命反応を察知した途端、そのV字の全身を透明化させる力を有する果物なんです。当然果物ですから、実の方は素材としては使えないので、こちらにまとめておきました」

 そう言って重さ十キロほどある木箱をカウンターの上へドスンッと置く。

「勇者様方と旅の道中食べてください! おっとそれで話の続きなんですが、今回ミスパーウェッジの表皮を繊維状にしたモノを使用した理由は、お姿を変えられる際に破れてしまわないよう、配慮した結果です。別にお姿を変えられると始めから確信があったわけではないのですが、その時のために念を入れておいたのです。なので、お姿を変えられる際は、首元に付いている黒い紐から直接衣服の方へと魔力を注ぎ込んでください。ズボンの方はポケットの中に紐がありますので、そこから」

 そしてユーラシアは、靴下と黒Vネックのシャツを身につけ、その上からジャケットとズボンを身に付ける。

 まずジャケットは、赤とピンク、紫を混合したような大人の深みを醸し出す色合いとなっており、多少の光沢を宿している上、首元に存在する紐から注入する空気量により、四季全てに対応した厚さへと変化するウルトラアイテムとなっている。

 ズボンはシンプルな黒色であり、ジャケットのような面白い仕組みは特に施されてはいない様子。

 ともかく、とても素晴らしく満足のいく一張羅が誕生した瞬間であった。

 



 その後、兵士に囲まれミスパーウェッジの実が入っている木箱を抱えたユーラシアは、外で待っていた民たちに連れられ、国の中央にある市場で昼食を振舞われる。

 既にシェティーネやレイン、シエルの姿もあり、屋台を大いに楽しんでいる様子。

 そしてユーラシアは、その全てがタダ。

 散髪屋も服屋も全てが無料。

 そのため、多少の罪悪感を感じるものの、民たちの思いやりを無駄にしないよう、今は罪悪感など考えないようにする。

 

 そして食事もいい感じに済んだ後、一人アクセサリー店を眺めているシェティーネへと声をかける。

「ちょっといいか」

 シェティーネも旅先に備えて服装を新調したらしく、上には軽量素材が使用されている首元から手首にかけて防御可能な銀の鎧が、下は膝よりも多少上に位置する丈を持つ赤いスカートを、そしてスカートの中には、肌の色が多少透けて見える黒いスパッツを履いている。

「ええ。あら? そういえば人だかりがなくなっているわね」

「ああ、行きたいところがあってな、そのことを伝えたら、大人しくなった。兵士たちももういねえ」

「そう。それで、私にも付き合って欲しいってこと?」

「まぁそんなとこだ。いいか?」

「ええ、勿論よ」

 シェティーネは嬉しそうに微笑む。

「それで、どこへ行きたいのかしら?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ