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竜魔伝説  作者: 融合
堕聖編
226/270

225話 十大魔神オーレル

 我は後に魔界と称されるようになった魔大陸ディアステッロで誕生した最初の個体。

 生まれた時から全身を満遍なく魔力で満たされ、正しくその地の『王』であった。

 我に続いて数多の魔物が魔大陸には無数に誕生し、いつしか喰っては喰われの弱肉強食の世界がそこには存在していた。

 魔物は喰えば喰うほど力を増すことのできる存在。弱者は強者の糧となり、強者は弱者を喰らうことにより、更なる高みへと登り詰めていく。

 我は魔大陸の弱肉強食の食物連鎖を地獄であると思ったことなど一度もない。

 我は最強。

 故に喰らいたいだけ喰らい、進化したいだけ進化できる圧倒的強者。

 

 唯我独尊——————極楽浄土。

 

 だが、永遠など存在するはずもなく、我の進化は停滞を迎える。

 いくら喰らえど変化の兆しすら見えなくなり、変わらぬ『退屈』と名のつく永遠にも思える地獄のような時間。

 我は気づいた・・・・・どんなに強くなろうと、魔物の枠から抜け出すことはできないのだと。

 ならば、どうするか?

 魔物以外のモノを喰らえばいい。

 いつしか魔大陸には人間という未知の生物が足を踏み入れるようになる。

 我は喜びに震えた。これでようやく永き静寂の時を終わらせられるのだと・・・・・

 だがそうはならなかった。

 人間をいくら喰らえど、魔物であるこの身は魔物のまま。

 故に我は人間が嫌いだ。

 我に希望を与えておきながら、絶望へと叩き落としたあの醜い生命が。

 

 もう一度、もう一度・・・・・王としての快感を享受したい——————その一心で我は来る日も来る日も強さを追い求めるようになる。

 何もかも思い通りにいくあの心地よい感覚。

 忘れられるはずがない。

 

 そうして欲望に飢えていたある時、その者は醜く憎き人間でありながら、魔物の頂点に君臨していた我へ絶望的なまでの力量差を見せつけた。

 と同時に、我は憧れてしまった。その者のあらゆることが可能となるような、そんな絶対的な力の存在に。

 その者——————そのお方こそ、かつて魔王という名で世界を震撼させ、今では邪神と名のつく神であらせられる存在。

 魔大陸の弱肉強食で生き残った我を含む十名の魔物へ、神は自身のお力を分けてくださった。

 神は、我らにお力を与えてくださったその時から、我らの神として崇めるべき存在となったのだ。

 

 けれど我は悔いている・・・・・我らに力を与えてくださったがために勇者と名乗る人間に神を敗れさせてしまったことを。

 そして歓喜した。我らが神は、我らを見捨てず更なるお力を与えてくださったことに。

 

 ——————それなのに・・・・・魔族になるための魔力だけでなく、神のお力、更に竜王の力まで与えてくださり、魔神へと至った・・・・・それなのに我は一体何をしている?

 たかだか蟻数匹に何を手こずっている?

 全身を凍結させられたこんな無様を晒していいと、それで神がお喜びになると、本気で思っているのか?

 

 力を与えられた時に誓ったのではないのか?

 ——————神の願いは我の願い。

 必ずや、神を世界の支配者=王の座へとお連れし、共に極楽浄土を実現してみせるのだと。

 こんなところで足を止められることなど、死んでも許されないぞ——————オーレルよ‼︎

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ‼︎」

 

 身体の芯にまで響き渡り、天地を震動させるほど大きな唸り声が西側諸国全土を揺らす。

 

「従わぬのならば死ね。我が神の歩みを止めるわけにはいかぬのだ」

 その直後、オーレルから発せられる魔力量が一気に増大する。

 それと同時に体全体を赤黒く染め、ドス黒い目に見えるほどの魔力をオーラとして具現化させたモノを身に纏う。

 オーラはもの凄いスピードで球体状にオーレルを中心として広がっていく。

 

「消えろぉ‼︎」

 

 オーレルのがなり声と同時にオルタコアスに落とされる赤黒い巨大な柱。

 それはまるで竜王の咆哮のそれと瓜二つの様であった。

 オーレルの怒りの一撃によりオルタコアスの全てが、土地が、民が、ダンジョンが消し飛ばされてしまった。

 当然エルピスにより張られた結界も既に消失してしまっている。

 ただ一人を除いて——————

 オーレルは、赤黒い柱の中で一人生き残り悶え苦しむ勇者の下へ一瞬で移動すると、その太すぎる腕で、か細い勇者の首をがっしりと掴む。

「貴様にはずっとこうしてやりたかった。姑息な人間が、本来ならば貴様如き人間に神が負けるはずがなかったのだ」

「ガッア———アッ——————」

 勇者はなんとかオーレルの腕を引き剥がそうとするが、ビクともしない。

「知っているか、勇者。魔力とは、膨大な量を供給される際は魔法の行使が不可能となるのだ。そしてそれは、吸収においても言えること」

 すると直後、勇者の全身からもの凄いスピードで魔力が抜けていく。

「純粋な力で我に遥かに劣る貴様の生きる道は既に絶たれた——————さらばだ」

 勇者のクビがミシミシと不快な音を立て始めたその時——————

 

「——————その手を離せ」

 

 突如響いた声と同時に先ほどまでオルタコアスを包んでいた巨大な赤黒い柱は姿を顰め、勇者の首を掴んでいたオーレルの大木のように太い左腕は切断されて宙を舞う。

 

 突如姿を現したその者は、ぐったりと力が抜けた勇者を片腕で抱えると、一言——————

「待たせたな」

 そう言って身の毛もよだつ鋭い眼球をオーレルへと向けるのだった。

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