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竜魔伝説  作者: 融合
堕聖編
209/270

208話 竜王vsエメラル

 ユーラシアとカリュオスの戦いは、既に深層地帯では収まりきらないほどに激化していた。

 数秒前。

 深層地帯の崩壊が発生した直後、ダンジョン全体にその余波が伝わり、ダンジョンだけでなく、そこから繋がる地上にまで大きな地震が発生していた。

 

『ちょっとユーラシア、もしかしてこの揺れってあんたの仕業?』

 剣聖村にいる勇者からの思念伝達がユーラシアへと届く。

「悪りぃな、加減はしてるつもりなんだけどよ、思った以上にあいつが力取り戻してんだ」

『仕方ねえな。今そっちに「創生世界魔法」で作った別次元空間送ったから、そん中で戦いな』

 『創生世界魔法』とは、かつて勇者が『エルフの都』に憧れて創造した魔法であり、マルティプルマジックアカデミーが存在した世界である。

 今回は時間がないだけに勇者が送った創生世界は、青空と茶色い大地が一面広がっている殺風景な空間。

 しかしこと戦闘となれば、持ってこいの場所と言える。

『あーそれとユーラシア。私たちはあんたを信じて任せるけど、あんま暴れすぎるとこの前みたく空間消失でダンジョンごと消えかねないから注意して。いい?』

「ああ。ありがとな」

 突如ユーラシアとカリュオスの全身は頭上から降ってきた黄金色の魔法陣により包まれ、別空間へと転送させられる。

「ここなら思う存分ってわけでもねえけど、少しは力を解放できる」

 カリュオスは一歩後ずさる。

 意識はなくとも、無意識にユーラシア、竜王に対する恐怖心が存在しているため。

 本能がこの小さき存在は、危険であることを脳へと伝達する。

 見た目は人間サイズの小さき存在であるにも関わらず、目の前の存在から感じられる圧に気圧され、身震いさせられる。

 しかし魂に刻まれた生命の頂点である竜族の誇りは心に生じた弱さを許すまいと、下がらせた足を自ら前へ前へと踏み出させる。

「グロォォォォォォ」

 お前など怖くないと、一切の油断なく相手を威嚇するカリュオス。

「いつでも来いよ」

 その様子をただ面白そうに眺めるユーラシア。

 約五年半前は邪神に屈辱的な敗北を期したものの、ユーラシアはその時以上に竜王の力を我が物とし、比べ物にならないほど強く成長を果たした。

 それ故の絶対的な自信が、仲間と再会できた喜びが、抱く怒りを徐々に上回りユーラシアの頬を自然と緩ませる。

 最初に仕掛けたのはカリュオス。

 体内から周囲三百メートルにまで熱風を届かせるエメラルドグリーンの炎を生じさせた咆哮を発する。

 先ほどの声による衝撃波ではなく、体内の魔力を炎へと変換した咆哮。

 あまりにも濃く、巨大で強烈な一撃。

 魔物とは思えない。

 例え魔怪獣だと言われても、最早その次元にすらいないほどの強さ。

 信じられないかもしれないが、実際に対するユーラシアは、目の前のカリュオスがバーベルド改めマンティコア以上の存在であると認識した。

 しかしユーラシアには相手がどんなに強敵であろうと関係がない。

 魔力も神の力もその全てがユーラシアの前では無となる。

 純粋な力技だとしても、本物の竜王の姿を取り戻しつつある今のユーラシアに敵う者などこの世に居らず、まともにダメージを与えられる者も、今の現状では邪神くらいなものだろう。

 ユーラシアはしばらくの間悠々と立ち尽くし、わざとカリュオスの咆哮をその身に受け続ける。

「あの頃のお前の炎はもっと熱かった」

 ユーラシアはゆっくりと灼熱の炎を受け止めながらその中を何事もないようにスタスタと進んでいく。

「見た目だけは一丁前だな」

 そう言ってユーラシアはカリュオスの牙を片手で握りしめる。

「いつまで寝てるつもりだよ。これ以上、奪いたくねえ、失いたくねえモンがあんなら、さっさと目ぇ覚せよ」

 ユーラシアは牙一つを握りしめた状態で、自身の何十倍もある巨体を頭上へと持ち上げると勢いよく地面へと叩きつけた。

「グアァァァァァァァ!」

 図太いカリュオスの叫び声が空間中に響き渡ると同時に、今の一撃により大地が割れる。

 その後もユーラシアはカリュオスを殴り続け、直接地面へと衝撃を加えてなくとも、繰り出される攻撃の衝撃波が天候を荒らし、大地を削る。

 次第に快晴であった空には真っ黒い雲が覆い被さり、雷が生じる。

 ユーラシアが攻撃をカリュオスの体へと繰り出す度、その部位は欠損する。

 腕に撃ち込めば、真っ赤な血液が膨張するように破裂し、一瞬にして再生。

 足を破裂させても、胴体に大きな穴を開けても、結果は変わらず瞬時に再生してしまう。

「相変わらずその再生力には驚かされる」

 竜「エメラル」とは、吐く炎の色からその名が付けられたが、炎の美しさとは相反し、性格は身勝手に竜族の掟に背いて許可されない生物の生命を頻繁に奪っていた。

 バーベルドと異なる点は、バーベルドは食べるためでもあるが、殺しそのものに愉悦を感じていた。

 しかしエメラルは、純粋に空腹という生命の本能に従っていたまで。

 だとしても異なる種族で共存するためには掟は守らなくてはならない。

 故にエメラルは竜王による躾を毎日のように受けていたのだ。

 しかし躾により受けた傷は瞬時に回復。

 竜王が竜姫を失い暴走した時も、最後まで生き残っていたのはエメラルである。

 誰よりも必死に止めようとしてくれていた。

 だからこそユーラシアも今、エメラルの次元を逸した再生能力を利用した上で、怒りとは別に意識を何としてでも取り戻させてあげたい一心で拳をひたすらに繰り出している。

「戻ってこい!」

 ユーラシアの今日一番の渾身の一撃がカリュオスの腹部へとクリーンヒットし、土手っ腹に大穴を開けると同時に、もの凄い落下速度で地面へと激突する。

「グアァァァ‼︎」

 案の定衝撃に地面が耐えられるはずもなく遠方にまで複数の割れ目が広がり、そして現実世界で起きていたら世界滅亡レベルの地割れが発生する。

 割れた地面は大きな地震とともに幾つも隆起する。

 と同時に、創生世界は画面にヒビが入ったかのように崩壊し、そしてユーラシアとカリュオスは現実世界のダンジョンへと引き戻される。

 既に深層地帯の崩壊と揺れは収まっており、地面に寝そべるカリュオスと、それを眺めるユーラシア。


 偶然か、視線が重なる。


「——————久しぶりじゃねえか、竜王」

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