203話 深層に誕生せし竜
月の晩。
地上とは打って変わり、地下では悲劇の種が芽生えようとしていた。
地下ダンジョンの深層地帯には、それ以前の階層に存在するどの魔物よりも強力な力を秘めた魔物が潜んでいる。
その一体であるクリスタルサーペントは、深層の魔物の中では中の下。そこまで強くもないが、弱くもないと言ったレベル。
しかし、「剣聖魔」であったカリュオスの手によりあっさりと倒されてしまった。
普通ならばそんなことはありえない。
なぜならば、ダンジョンというものはどんな造りであれ、奥に行けば行くほど魔力は濃くなっていくため。
魔物の源は肉体含めて全て魔力なため、魔力が濃ければその場に発生する魔物もより強くなっていく。
しかし剣聖魔は、初代剣聖の力を少なからず継承する魔物であるため、決して階層に左右されたパワーバランスに支配されているわけではない。
それでも、カリュオスのみ飛び抜けた強さを宿しているのもまた事実。
もしもあの場にユーラシアがいなければ、ビヨンドとてカリュオスを仕留めることができず、最悪の場合は村全体が滅んでいた可能性も高い。
そんなカリュオスの魂は、約五年半前に起きたダンジョン融合の影響により、今迷える魂となり広大な二つのダンジョン間を行ったり来たり。次第に奥へ奥へと歩みを進めていく。
そうして辿り着いた場所は深層地帯。
深層地帯の構造は、それ以前の構造とかなり異なりがある。
『創生世界魔法』で創られた世界に存在した剣聖村が存在するダンジョンは、深層地帯以外は、各階層ごとに上下の移動を可能とする階段が必ず設けられているのだが、深層地帯に限り、ドーナツ状に階層の中央が全て空洞となり突き抜けているのだ。
深層地帯は一つの階層ではなく、十以上の幾つもの階層に分かれている。
しかし「深層地帯」と一口に称されている理由は、中央に空いた巨大な空洞の存在が深層地帯全てを一つの階層だと見させているため。
深層地帯の奥深くに存在する魔物は、全ての種類を勇者でさえ把握できていない。
それは当然のこと。魔力溜まりから魔物は発生し、勇者がダンジョンを創って以降、様々な魔物たちがダンジョンには誕生している。
そんな深層地帯のダンジョン最下層。
そこは一帯が暗闇に支配された、一切の光も音も存在しない場所。
そして最下層には、魔大陸に存在した魔怪獣の第二等級以上の魔怪獣がうじゃうじゃと生息している。
突如、暗闇に光が灯った。
それは、青白く光る小さな何か。
しばらくの間宙へと浮かび、そして徐々に徐々に最下層を覆い尽くすほどの輝きを放ち始める。
暗闇が光に覆われると、輝きは止まることを知らずに上昇を始める。
一つ、また一つと深層を青白い光で埋め尽くしていく。
そうして深層全体が一つの輝きに満たされた時、魔物の鼓動・呼吸音の一切が消失していた。
それは潜んでいるのではなく、文字通り消失。
光に包まれた生命全てがその命を奪われたということ。
光は次第に最下層へと輝きを潜めていき、とある生命体の形を取り始める。
それは古の時代に失われ、そして現在、地上の人々の記憶にしかと刻み込まれた存在。
その名は「竜」。
長い尾に、大きな翼、鋭い牙に、額に生えた日本の漆黒の角、そして鋼のように強靭なエメラルドグリーンの鱗を持つ。
竜とは魔物ではなく、生物学上は「魔法生物」と「人間」の二種に分類されている。
その理由は、明らかに人ではないが、魔力樹を持ち魔法を行使するため。魔法生物は魔法を使えど魔力樹は持っていない。
故に、どちらか一方に分類することが不可能なのだ。
しかしこの生物は一体何だろうか?
肉体を魔力で構成されているという魔物の特徴を持ち、見た目は竜である生物。
いつの間にか最下層を覆っていた闇は消え失せ、頭上から届く鉱石の薄らとした輝きが最下層に佇む竜を照らす。
この時を持って深層全ての魔力と、魔力を宿す魔物全てが、新種の竜の魔物一体を生み出す糧とされたのだった。
「グロォォォォォォォォォォォォォォ」




