198話 『オレはお前らの味方』
遡ること数分前。
巨大な気配の衝突を感知した勇者は、気配の下であるポーメル国へと訪れていた。
かつて目にしたことのある目に焼き付けられた残酷な風景・臭い・音。
その全てが人魔戦争を彷彿とさせる。
「こりゃあ、ひでぇ———流石に竜王の仕業じゃないよな」
「彼はここまで残虐じゃないからね」
直後、馴染みのある気配を感知する。
即その場へと向かうと、『魔法協会』の者たちに保護されたケンタを含めた計四名の男女を発見した。
「無事でよかったよ」
「——————あ」
普段の元気はまるでないケンタ。
無理もない。地獄のような惨状を目の当たりにし、まともに精神を保つには、ケンタは経験も年齢も足りなさすぎる。
「もう少し落ち着いてから、一体何があったのか聞かせてくれる?」
その後しばらく経った後、ケンタたちが先ほど体験した事実を聞かされる。
ケンタたちの話によると、この国の民を惨殺したであろう化け物に襲われそうになったところ、敵であるはずの竜王が突如現れ助けてくれたとのこと。
しかし魔法協会は、全てが竜王の仕業として処理を進めるとのことだった。
これで更に竜王は世界の敵として色濃く歴史に名を刻むことになる。
それも偽の記憶を。
そしてケンタたちの顔には、揃って疑念が浮かべられていた。
「何でか分かんねぇけどさ、あいつ俺たちに言ったんだよ。『オレはお前らの味方』だって」
恐怖と悲痛に心が打ち勝てはしていないものの、強い意思を瞳に宿してケンタの言葉に頷くシェティーネとレイン。
彼らは胸に抱かれた感情の矛盾を放棄せず、解決しようとしている。
辛い現実から目を背けるためだとしても、竜王に対して自らの意思で歩み寄ろうとしている。
この世界では多くの者たちが竜王の恐怖に負けて胸の奥にしまってしまう疑問を、ケンタたちは解決しようとしているのだ。
その理由の一つに、竜王が大切に思い、記憶を改ざんされる以前は、彼らもユーラシアのことを大切に思う感情を抱いていたことが大きく関係している。
自身の内に芽生えた竜王に対する温かな感情が真実を求めている。
そして、彼らならばひたすらに闇へ闇へと堕ちていく今の竜王の心を救ってあげられるかもしれない——————そう思った勇者は、自らの作り出した異次元空間へとケンタたちを閉じ込め、ユーラシアのいる『エルフの都』へと連れていくことにしたのだった。