191話 ハンターランク
一週間後。
ケンタは無事ドラゴントゥースの冒険者として合格したため、一人ギルドを訪れていた。
勇者の魔法陣によりクリメシア王国とソルン村との行き来はものの数秒でできるのだが、ケンタも冒険者となった以上、一人前の男として世間では扱われることになる。
故に約12年間暮らしてきたソルン村を離れ、旅立つことにした。
「新人冒険者さんですね。それでは早速冒険者手続きを致します」
ケンタは予めソルン村へと送られてきた真っ白な手のひらサイズのカードをギルドの受付人へと渡す。
冒険者には、全てのギルドに共通するランクというものが存在する。
まずは、入団して間もなく、まだ何の実績も付いていない冒険者を示すホワイトハンターランク。
次にブラウン→グリーン→イエロー→ブルー→レッド→ブラック→シルバー→ゴールドと、簡単な色によるランク分けがされている。
ハンターカードと呼ばれる冒険者ギルド専用に発行されるカードでランクを判断しているという分けだ。
そしてゴールドの上に位置するのがドラゴンスレイヤーというランクであり、彼らは存在が姿と共に世界的に認知されているため、ハンターカードは不要。存在自体がパスとなる。
「手続き完了しました」
返されたハンターカードには、先ほどまで記載されていなかった名前や生年月日、所属ギルドなどの個人情報が記載されている。
持ち主となる者の下への発送の途中で不手際があった際、個人情報が予め記載されてしまっていたら大変なことになってしまう。
それを防ぐために、合格者には真っ白なハンターカードを発送し、直接ギルドで手続きを行ってもらうことになっている。
「それではまず、ハンターさんの実力を実戦の場で見せてもらうために、早速依頼を一つ受けていただきます」
「依頼って、何でもいいの?」
「はい。ただし、ホワイトハンターの方はどの依頼も二人以上、Bランク以上の依頼には必ず四名以上で挑んでもらう必要があります」
「二人以上か〜。もしもこれでBランク以上の依頼をこなせたら、イッキに上のランクまで上がれるってことだよね?」
「その通りです。ただし失敗してしまった場合は、もう一度失敗したランクの依頼よりも低い依頼を受けてもらうことになります。また、監督者を一名同行させますが、実力に見合わない高ランクの依頼を受けることを選択した場合、我々は命の保証はできかねますのでご注意ください」
「うーん・・・・・でもどうせなら高いランクの依頼こなして、イッキに上に行けたらカッケェもんなぁ」
そんな頭を悩ませるケンタの下へと一人の人物が近づいてくる。
ケンタもその気配に気づき、視線を向けるとにっこりと微笑ましい笑みを返される。
「おっす。やっぱりケンタさんも合格してたんですね」
「えっと〜・・・・・あっ、試験の時の!」
「おっす! ルイスというっす。よろしくっす」
「うん、よろしく。あのさ、何でそんなに畏まってんの? 多分だけど、俺よりも歳上だよね?」
「そうですね。年齢で言えば先月で16になったっす」
本来ならばケンタは、四歳も歳上であるルイスに敬語を使う立場である。
けれど今更であるため、逆にルイスの敬語をやめさせる手段に出る。
「俺の方が歳下なんだし、もっと気楽でいいんじゃね? 敬語とかもさ、全然タメ口でいいよ」
しかしルイスは手のひらをケンタへと突き出し、その申し出を断る態度を見せる。
「いや、自分は負けた身なんで」
「負けたって、試合のこと? いや、俺たち引き分けだったじゃん」
「あんなもの、引き分けとは言わないっす。オイラの完敗っすよ」
ルイスの断固として引かない態度に、ケンタは少し呆れつつも、笑みを浮かべて手を差し出す。
「それじゃあ、俺たち友達になろうよ。そうすれば、これから一緒に競いながら高め合えるし、気楽に話せるでしょ?」
ルイスは一瞬渋い表情を浮かべるものの、結果的にケンタの手を取る形となった。
「はいっす。ケンタを見てると、何だかユーラシアくんを思い出すっす」
「ユーラシア・・・? もしかして、竜王のこと? 流石に嬉しくねぇよ。俺とあんな極悪野郎のどこが似てるっつうんだよ」
「極悪・・・・・? えっ、えっ、どういうことっすか?」
「どういうことも何も、人類は竜族と戦争をしてたって話だよ。生き残った竜の王は人の姿に化けて今も人間を襲ってるらしい」
ルイスは今までオルタコアスの地下に存在するダンジョンにいたため、世界事情を把握できていないのだ。
それでも、ルイスにとってのユーラシアとは恩人であり友であるはず。
そんな人間が悪? 理由もなく人の命を奪っている?
いや、そんなわけないと思いつつも、この場はルイスの方から引くことにした。
「悪かったっす。オイラ世間知らずで何も知らなかったんすよ。嫌な思いさせたんなら謝るっす」
「まぁ、気にしてないから、ルイスもあんま気にすんなよ」
こうしてケンタとルイスは友となったのだった。
「そういや、もう冒険者登録済ませた?」
「おす。それで任務を一緒にこなしてくれそうな人を探してたところ、ケンタを見つけたわけっす」
「どうする? 俺たちの実力なら高いランクの任務こなしたいよな?」
「そうっすね。できることなら・・・」
「ただまぁ、Bランク以上は四人からだもんなぁ」
そんな時、悩む二人の耳へと何やら騒がしいやり取りが聞こえて来た。
「いくらアーノルド家のご子息であると言われましても、二人のみではAランクの任務は受けさせられないんです。ただでさえ、Aランクから任務の難易度は上がり、ブルーハンターでも難度とされる任務なのです。ですからいくらアーノルド家と言えどもホワイトハンターである以上は、規定に従ってもらいます」
「分かったわ。実力関係なくどうしても規定人数を集めなくちゃいけないのなら、そうしましょ」
「そうだな。足手纏いにはならなさそうな者に適当に声をかければいいだろう」
「ねぇ、ちょっといい?」
歳上など関係なく、堂々とした態度で声をかけるケンタ。
時にはその態度が相手の怒りを誘発してしまうこともあるが、何者にも物怖じしないその態度は長所であると言える。
「俺たちも後二人探しててさ、よかったら一緒の依頼受けてくれない?」
「見たところ、まだ十かそこらだろう。俺たちが受けようとしている依頼は命に関わる依頼だ。足を引っ張られては困る」
ケンタは青年の発言に分かりやすく眉を顰める。
「年齢とか見た目だけじゃ、実力なんて分かんないだろ!」
「あれ? お二人は確か、以前剣聖村でお会いしたシェティーネさんと、レインさんじゃないっすか?」
「もしかして剣魔? 随分と久しぶりね。まさかダンジョンから出てくるなんて思わなかったわ」
「オイラの父も昔に地上に出た時、師匠と出会ったみたいっす。オイラもいい歳ですから、地上の世界のことを知りたいと思って出て来たんすけど——————」
ルイスの深く何かを考え込む様子に違和感を覚えるシェティーネとレイン。
「けど、何?・・・・・まぁいいわ。この数年で貴方もかなり成長したようだし、心強いわ」
「だな。ダンジョン試験では、あまり関わりを持てなかったが、剣魔の実力はよく知っているつもりだ。よろしく頼む」
レインとルイスが手を取り合う様子を見ていたケンタの表情が更に不貞腐れたものとなっていく。
「ケンタは、オイラよりも強いっすよ。だから足を引っ張るなんてことは絶対ありえないっす」
それを聞いたレインの瞳に多少の期待が宿る。
「それなら期待するとしよう。よろしく頼む」
「当たり前だっつーの。マジで俺の凄さ見せて腰抜かせてやるよ」
ケンタはレインに差し出された握手を強引に払いのけると、そっぽを向く。
こうしてシェティーネ、レイン、ケンタ、ルイスの即席パーティが出来上がったのだった。