184話 魔王の正体と真の目的
今こそ語ろうではないか。
俺の正体と真の目的の全てを。
俺はアート・バートリーであり、魔王であり、火神 優哉だった存在。
しかしそれらは本当の俺を隠すための偽りの存在にすぎない。
俺こそが「邪神」であり、世界の全てを、万物を操る存在。
最高神の創造したモノ全てが、最高神の創造力たるこの俺のものとなる。
故に人類を始めとする生命は皆、俺の思いのままに操られなければならないのだ。
しかしながらそれには一つ問題があった。
それは、最高神の存在。
奴が存在し続ける限り、俺の支配欲は満たされぬまま朽ちてゆく。
ならば消すか?
それは不可能だ。
なぜならば、俺と同様に最高神には神の力を無効化する力が備わっているため。
要するに、神と神とは争う定めに在らず。
ならば神の力を捨てればよいのではないのか?
そう考えた俺は、偶々目についた一人の人間「火神 優哉」の肉体を依代に地上へと降りることにしたのだ。
神とは地上に降りることを許されない。故に、俺の創造力を持ってしても代償により邪神としての記憶は失われた。
だが、コトは俺の都合のいい方向へと地道に進んでいく。
まず俺にとって幸運だったのは、竜王ユグドラシルへと尊敬の念を抱き、その支配する姿に憧れを抱いたこと。故に俺は、記憶を失いながらも支配欲に駆られて魔王となることができた。
神の力のエネルギーを魔力へと変換できるように体へと馴染ませていた間、しばらく魔法が使えなかったのは想定外だったが、結果的に全てがプラスの方向へと歩みを進めている。
そして次に幸運だったのは、アート・バートリーとして転生できたこと。それにより、復讐という名の最高神を葬る口実を作ることができた。
しかし、人間の肉体を依代としながら神だった頃に劣らずの支配欲と、最高神への復讐心を抱くことのできた副作用として、竜王に対する許容し難い嫉妬心を抱くことになってしまったのだ。
アート・バートリーとしてユーラシアと出会った時、始めはユーラシアとともに最高神を消滅させるつもりであった。
しかしある時を境に邪神の記憶が徐々に戻り始めたことにより、どうせ竜王が迎える結末に変わりがないのなら、思う存分利用してやることにした。
邪神の記憶が戻り始めたということは、この体のエネルギー源である神の力を呼吸をするかの如く扱えるようになるのも時間の問題だということ。そうなれば、魔力も扱える俺は最高神を自らの力で滅ぼすことができる。
だが、確実ではない。
相手は万物の頂点たる存在「最高神」。
だから俺は自らを更に高めていくために竜王の力すらこの身に刻み込むことにした。
つまり、魔導祭で仕掛けられた神の侵攻の結末がどうであれ、俺はユーラシアを魔界へと連れていくつもりだった。
トロプタには既に話していたため、計画通りに遂行してくれたというわけだ。
そこで世界樹=竜王の魔力を扱えるようにならせるための修行を行わせたのも、必要以上にユーラシアへ魔力の放出を強要したのも、全て魔大陸中を竜王の魔力で満たすため。
「さぁ、始めよう。準備は整った——————」
憧れとは、最大の嫉妬である。