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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
181/234

180話 救世主

 数秒前。

 バーベルドは、以前最高神がユキを『エルフの都』へ転送した際の気配と、『エルフの都』へ贈った恩恵の魔力の気配を頼りに『エルフの都』の位置座標を突き止めていた。

 そこは、空の彼方に存在している。

 空間そのものが別の次元にあるのではなく、正確には、暗黒大陸と呼ばれる魔大陸同様に次元を隔てる結界に覆われているだけのこと。

 しかし、その次元の結界がとてつもなく強力なため、誰一人として辿り着くことのできない場所なのである。

 しかしバーベルドは辿り着いた。

 そして自身の体を透明と化す。

 バーベルドの『神の胃袋』で吸収したモノ・コトの中で、発散されなかった場合はバーベルド自身のエネルギーと化す。それはつまり、その情報体がバーベルド自身の細胞へと刻み込まれることで、吸収したあらゆるモノ・コトの特徴を得ることができるということ。

 現在使用した透明化もその内の一つ。

 この透明化は、いわゆる透過であり、見た目だけでなく、あらゆる物質を通り抜ける術を得る。

 しかし気配を絶てるわけではない。

 故に結界内へとバーベルドが侵入した直後、ユキや勇者、チャンドラなどはその異変に逸早く気がついた。

 そしてもの凄い速さで自身へと向かってくるモノの正体がバーベルドであることを、ユキは瞬時に感じ取る。

「流石は『ネメシス』じゃ。とことんその名に恥じぬ意思を持っておるようじゃ」

 逃げる? そんなことできるはずがない。

 今のバーベルドとて、最高神が一時繋いだ力の繋がりが途絶え、自らの内にある神の力しか使うことができない状態へと戻っている。

 しかし、バーベルドは常に成長し続けることをユキは知っている。

 そして、今のバーベルドに勝てる可能性がないことも。

 しかし、ユキの中にも譲れない覚悟は存在している。

 人間として生きたいと思えたこの気持ちを、決して無駄にすることのないよう、ユキは生にすがりつく。

 けれど死のニオイはもの凄い速さで近づいてくる。

 どうせ勝てないのならば、どんなに惨めに足掻こうとも、絶対に生き延びてみせる意思をより一層強く燃やす。

 そうしてバーベルドの気配が目前へと迫った瞬間、ユキの体は突如背後に引かれる。

 ドスっという鈍い音がユキの耳へと届いた直後、気がつくとユキの目の前には勇者がいた。

 次第に姿を現したバーベルドの腕が、勇者の腹を貫いていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ——————」

 瞬時に頭が真っ白となり、飛び出したのは心の悲鳴。

「これは思ってもみなかった収穫だ。まさかてめぇよりも先に勇者様を狩れるなんてな! ハッ、まぁてめぇを守ってくれる奴はもうどこにもいねぇってわけだ。んじゃ死ね」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ——————ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア‼︎」

 ユキの悲鳴は、徐々に怒りの感情を宿していく。

「逆ギレかよ。てめぇが最初に俺を裏切ったんだろぉが、てめぇ自身はもとより、てめぇの大切にしてる奴らも死ぬ覚悟があったってことでいいんだよな?」

「——————確かに其方から見ればわらわは裏切り者ということになる。じゃがな、神攻の終了は最高神様の意思でもあるのだ!」

「その意思はまたすぐに変わるだろうよ。俺がすぐに変えてやるからな」

 バーベルドはゲスイ笑みを浮かべると、勇者をまるでゴミのように投げ捨てる。

「許さんぞ、ネメシス」

「こっちのセリフだ。クソカス野郎」

 それからは防戦一方の戦いが始まった。

 バーベルドの殺意が込めれた一撃一撃をユキは何とか致命傷を避けながら防いでいる。

 しかし、バーベルドの神器による傷は着々と増えていっており、致命傷を避けていてもいずれ出血多量でかなりのダメージを背負ってしまうことになる。

 ユキの聖水による攻撃は、その全てがバーベルドによって吸収されているため、全くの意味を持たない。

 『断罪の雨』すらもバーベルドにとっては驚異でも何でもない。

 


「雪は絶対に失うわけにはいかない・・・・・」

 勇者は血だらけとなり地に伏せながらも、ドプドプと傷口から溢れ出る血などお構いなしに戦う意思を見せる。

「無茶よ。いくら貴方でも、傷を治すのが優先だわ」

 ミラエラは勇者の腕を掴み、引き留める。

「話してよミラエラ。雪は、僕たちにとって命よりも大切な存在なんだ——————もう二度と、失うわけにはいかないんだよ!」

 ミラエラの掴む力が緩んだ一瞬、勇者はバーベルドの下へ飛んでいった。。

「仕方ないわね——————『エーテルアイス』」

 ミラエラも勇者の後を追いかける。

 一人残されたエルナスは、ただ戦いの行方を見守ることしかできない。

 


 ユキへとバーベルドのトドメの一撃が届きそうな瞬間、またしても勇者による邪魔が入る。

「いい加減うぜぇんだよ、クソがぁ!」

 次の瞬間、バーベルドは神器を勇者の脳天から振り下ろし体を勢いよく回転させると、脳天をかち割る勢いで蹴りをくらわせ、再度地面へと叩きつける。

「手負いの勇者なんざ脅威でも何でもねぇんだよ。寝てろ、死に損ないが」

「ネメシスっ‼︎」

 怒りの形相で声を荒げながら向かってくるユキ。

 しかしユキとは反対側。つまり、バーベルドの背後から忍び寄るミラエラへと意識を向けたバーベルドは、凍つく感覚など無視してミラエラの腕を掴んでユキ諸共投げようとするが、気がつくと全身が動かない現状を知る。

「あ? んだこれ?」

「どうやら私の攻撃の方が速かったらしいわね」

 余裕を見せるミラエラへ、バーベルドは余裕の笑みを見せる。

「むかつく面してんな、てめぇ」

「———うそ⁉︎」

 バーベルドは瞬時に全身にまとわりつく氷を胃袋内へと吸収すると、ミラエラの肩へとかぶりつき、発動させているエーテルアイスの魔法自体を全て吸収してしまった。

「死ね」

 再度ミラエラの腕を引っ張りそのまま勢いよく勇者のいる地面へと叩きつける。

 

「さて、今度こそてめぇは終わりだぜ。アクエリアス」

 素早くユキの四肢を拘束し、そのまま地面へと叩きつけた。

「カハッ」

 ユキの両足の骨はバーベルドに踏まれて粉々になっており、拘束されている両腕も片腕で押さえつけられているというのにびくともしない。

「あばよ、アクエリアス」

「ウッ——————グフッ」

 バーベルドの振り下ろした片腕が、勇者同様、ユキの胴体を貫いた。

「ゆ、ゆ・・・・・雪——————雪ー!」

 勇者は意識を朦朧とさせながら、地を這いユキへと近づいていく。

「惨めだな」

「許さんぞ!」

 地を這う勇者と、ユキを蔑むバーベルド。そんなバーベルドへとエルナスの拳が放たれる。

 しかし、エルナスの拳は空を切り、バーベルドには掠りもしない。

「貴様が死んだら恨むこともできないだろ・・・・・貴様は、ミューラの分も生きなければならない責任があるはずだ!」

 エルナスは涙を浮かべ、瀕死のユキへと怒りをぶつける。

「もう、こんな場所に用はねぇ。いや、もう少し殺してった方が最高神様の目も冷めっか?——————あ? 何してやがる?」

 

 勇者はユキの上に重なると、自身とユキとを囲むように魔法陣を地上へと形成していく。

 この魔法陣は、『超再生』を促す魔法陣。

 おそらくこのままでは二人とも死ぬ運命にあるだろうが、それはまだ確定したわけではない。故に、死の運命ではなかった場合に『運命改変魔法』を発動させてしまえば、生の運命が変化してしまう可能性がある。

 それに、運命を改変するには自分たちだけでなく、世界に甚大なる影響を及ぼすことにもなってしまう。

 そのため、勇者はユキを救うと決めた瞬間から『超再生』の魔法を行使する魔法陣を作成していたのだ。

 しかし現状、ただの『超再生』は、意味を成さない。

 理由は、バーベルドの神器による特殊効果。

 神器によってつけられた傷は、一生癒えない傷となるというもの。

 故に勇者は、自身とユキとの命が尽きる瀬戸際で己に刻まれた神器の傷に込められた力を解析し、アンチできる神の力を組み込んだ新たな魔法を創り上げていく。

 

 一体勇者が何をしているかなどバーベルドには分からない。

 しかし、それが自分にとってよくないことであることはすぐさま理解した。

「させねぇよ!」

 もう誰一人としてバーベルドへ立ち向かうことはできない。

 次にバーベルドの刃が振り下ろされたら確実に終わってしまう。

 そんな状況の中、無駄死ぬと分かっていながらも、エルナスは両手を広げ、勇者とユキを庇うようにバーベルドの前に立ち塞がる。

「てめぇごとぶち抜いてやるよ」

 エルナスやミラエラなど目で追えない速さで距離を詰めるバーベルド。

 エルナスが何を感じる暇もなく脳天から振り下ろされたバーベルドの神器は、エルナスに当たる直前で動きを止めた。

 いや、止めさせられた。

「あ?——————てめぇは確か・・・・・クッ!」

 神器は次第にエルナスの頭上からバーベルドの胸元へと運ばれる。

「何つー馬鹿力だよ」

 エルナスとミラエラは、突如現れたその存在に目を見開き驚く。

 

 次の瞬間、握られたバーベルドの神器は、相手の手の平に一切の傷を付けることなく、握力のみで粉々に砕かれてしまった。

「は?——————は⁉︎ ふざけんじゃ——————ウグッ!」

 バーベルドへ放たれた蹴りは腹部へとめり込み、遠方に聳え立つ巨大なユグドラシルの魔力樹へとぶっ飛んで行った。


 

「——————もしかして、ユーラシアか?」

「お久しぶりです。校長先生」

「見違えたぞ・・・・・身長も、顔つきも、感じるオーラも全てが別人のようだ」

 以前までのユーラシアは、ミラエラよりも10センチほど低い身長だったのが、今は約30センチほど成長している。

 エルナスの169センチを5センチほど上回っていることからも、間違いはない。

「本当に、ユーラシアなの?」

「うん。久しぶりだね、ミラ。そのぉ、ボクもあれから色々あったんだ」

 そう言うと、ユーラシアの視線は一度横たわる勇者とユキへと向けられる。

「ボクもミラたちに色々聞きたいことはあるけど、まずはあいつを倒さなくちゃね」

「勝てる自信はあるのか?」

「自信しかないよ。まぁ見ててください。ボクの成長した姿を」


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