178話 過去と復讐の理由
俺はかつて魔族だった。
魔人化は人型の魔族を作り出し、魔獣化は獣の魔族を作り出す。
魔族の中には、そりゃ多くの魔獣たちがいやがった。そん中でも特に魔王に気に入られていた魔獣がいた。
そいつの名前は、人喰い魔獣「マンティコア」。
人間を喰うことだけに愉悦を感じる存在——————それが俺だ。
俺は俺の自由のために人間どもを殺させてくれる魔王を気に入っていたし、誰にも負けねぇ絶対的な力に憧れを抱いていた。
あの頃は生きたいように、やりてぇように生きる魔王の生き様が眩しくて仕方なかった。
けどそれは強者であり勝者だからこその理屈。
負けちまったら何の意味もねぇ。
それなのに魔王は、魔族は、人間に敗北した。
別にいくら魔族が死のうが、俺にとっちゃどうでもいいことだ。
カスがいくら消えたところで、いちいち気にしねぇだろ。
仲間がいくら消えようが、俺の生き甲斐が奪われなければそれでいい。
だが、結果的に魔王軍は俺を含めた全員が全滅した。
死ぬことよりも、もう人を喰うことができなくなることの方がよっぽど絶望だった。
恨むべきは、人類か? それとも勇者か?
まぁそれもいいだろう。
けどなぁ、俺が一番許せねぇのは、期待を裏切られたことだ。
かつて俺は奴に言った。
「俺はあんたを信じちゃいねぇ。だけど、あんたの強さは信じてる」
と——————誰にも負けやしないと。
だが、魔王は勇者に敗れ、俺の期待を裏切った。
魔人化だか、魔獣化だか知らねぇが、んなこと負けていい理由になるわけねぇだろ。
俺はあいつに憧れた・・・・・そして裏切られた——————魔王が勇者に勝ってさえいりゃあ、俺たち魔族は滅びなかった。
魔王が俺たちを殺したんだ。
だから俺は、俺を裏切った魔王をこの手で叩き潰してやらなくちゃ気がすまねぇ。
けどまぁ、転生した魔王と戦ってる最中に感動を味わっちまうあたり、憧れる気持ちもまだ消えてねぇんだな。
そりゃあ、そうか。
魔王と時間を共にしたあの時の自分を忘れられてねぇんだからな。いや、忘れないようにしてたのか?
神人となった俺は、自分のペットに、かつての自分と同じ「マンティコア」の名と、姿を与えた。
要するに俺が作り出したマンティコアには、少なからず魔王の因子が混じってることになる。
アクエリアスとは違って、既に俺の中には一滴の魔力も残っちゃいねぇが、魔族の細胞が怒りと憧れ。相反する感情だとしても、どちらも忘れさせてくれはしない。
そして俺の力が覚醒し始めたのはマンティコアを作り出した段階。
最高神様から授かった神の力である『神の胃袋』は、吸収したモノ・コトを胃袋内で融合させ、新たな物質や生命を作り出すこともできる。正しくマンティコアはその内の一体であり、魔物や神に仕える生物、人、魔法などのあらゆるモノを融合させて作り出した存在。
そして、俺の胃袋で吸収し、発散されなかったモノ・コトは、全てが俺自身を構成するエネルギー源へと還元されることになる。
要するに、俺は強さの限界が存在しねぇってことだ。
これが約十年前と今とで、俺の強さがあのアクエリアスを大きく上回ったカラクリってわけだ。
今の俺は、かつての魔王以上の強さを手に入れたと言っていいだろう。
だから最高神様を支える存在は、俺一人で十分。
それにフローラを殺したんだ。今更一人、二人は誤差の内ってな。
最高神様があの時口にしたあの言葉——————
『人類の、我たちの運命の鍵を握るのは、貴方です——————』
あの言葉の意味はいくら考えても分かんなかったが、人類への侵攻を終了した決定打は、間違いなくアクエリアスだ。
幕閉めの鍵がお前なら、幕開けの鍵もお前にしてやるよ。
裏切りは絶対に許さない。
そんで最高神様に教えてやる・・・・・人類なんか生きる価値なんてねぇってことを。