174話 王級界
王級界。
そこは陽の光に包まれたあらゆる世界で最も眩いとされる世界。
中央に存在する黄金の輪っかが幾つも立体的に重なり合い一つの球体を成している。更にそれらは縦横無尽に常に動き、球体内は多様に照度と形を変えた光によって照らされている。
「五人揃うのは、だいたい五百ぶりってとこか? 久しぶりにあいつに会えると思うとワクワクするな」
赤黒い衣装に赤黒い長髪をした瞳の鋭い男が声高らかに空間内に声を響かせる。
「ええ、そうねギムル。どうして貴方が人間のあの子を魔会に招待したのか理解できたかったけど、貴方の予想した通りの展開になって来たみたいね」
彼女は漆黒の翼を幾つも背中へと生やし、白銀色と黄金色で染められた光沢のある肌をしている
「だろ? 別に神として生まれなくても、自らの力で神になれる奴もいるってことだぜ?」
ギムルは堂々とした態度で椅子に腰掛け一人の者に視線を集中させると、支配者たる絶対的な自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。
「ギムル。まさか俺に向けた言葉じゃないだろうな?」
「他に誰がいるってんだよ。どうせ今でもあいつのことを認めちゃいねぇんだろ?」
ギムルの視線を向けられた男は、両手両足を切れた鎖で繋がれており、ところどころ破けてボロボロとなった黒い着物のような衣装を着ている。そして、そこから見える肌には無数の目玉が存在している。それらは決して飾りではなく、瞬きや瞳の動きを繰り返す動的なモノ。
「当たり前だろ。俺たち全員が邪神であり、最高神を滅ぼした存在。奴の世界の最高神はまだ存在している上に、人間だ」
「けどよ、あいつは人間の身でありながらも一時は世界を支配して見せたんだぜ? それに、復活したあいつは最高神を滅ぼすだろうよ」
「とは言っても、あの者の実力は私たちの遥か下。同じ魔会のメンバーとして納得できない気持ちは分かりますけどね」
透き通った青色をしている細長い杖のような物を床へとつくこの者は、綺麗な白髪をまるでサラリーマンのようにビシッとまとめ上げ、色合い豊かな司祭服のような格好をしている。
「お前まで・・・・・ったく、どいつもこいつも不満タラタラだな。めんどくせぇ」
「お互い様よ、ギムル」
「あ?」
「魔会で愚痴を垂れ合うようになる前は、元々誰が強いかの力比べをしていたのを忘れたの?」
「あー、そういやそんな時期もあったっけな」
「私たちは一人一人が世界を支配する神なわけだから、プライドが高いのは分かる。だから手を取り合おうだなんて言わないわ。私自身も気持ち悪いしね」
「おいっ」
「けれど、最高神に比べて邪神の数は圧倒的に少ない。だからせめて魔会の場では仲良くしましょう」
漆黒の翼を持つ彼女の提案に示される反応は三者三様。
一人は無関心。一人は笑みを浮かべ、一人は違う意味での笑みを浮かべる。
「世界を支配することは楽しいですが、やはり一つのことだけだと飽きてしまいますからねぇ。息抜きも必要です」
「フッ、まぁ何でもいいが、この場でも俺が一番なのには変わりない。それだけは覚えておけ」
「おいおい、それは聞き捨てならねぇな。誰が誰より強いって? あんま調子に乗るなよ」
「いいだろう。貴様とはどこかで白黒つけたいと思っていた。その王様気分から引き摺り下ろしてやろう」
「上等だぜ」
両者立ち上がり机へと脚を掛けたタイミングで、より一層眩い光で球体内が照らされ始める。
「おやおや。どうやら時間のようですね」
「命拾いしたな」
「こっちのセリフだ、アホ」
両者不満げな表情を浮かべながらも席へとつく。
そして唯一空席状態の席は、より一層眩い光に照らされるのだった。
「いよいよだな」