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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
174/234

173話 約束の時間

 コヤムギは、魔大陸とアストラル界の境界線に到着した直後に姿を見せたユーラシアを見て驚きの感情を抱く。

 その驚きは、突如姿を現したからではない。

 見た目もそうだが、ユーラシアの顔つきが以前とは別人のように変わっていたため。

 そして、数日前までは常時漏れ出ていた魔力の気配も今は全くしない状態。故に、アストラル界でユーラシアがどれほどの成長を遂げたのかは、コヤムギには知る由がない。

 前提としてアストラル界は、『エルフの都』同様に内側で発生した魔力の気配は絶対外部へと漏れ出ることはない。そのため、竜王としてのユーラシアの魔力を感じたのも今のところはドラルド一人だけ。

 しかし明らかに以前とは大きく変わったのが、見た目だけではないことはコヤムギ自身直感で感じ取っていた。

 

 その後コヤムギに遅れて姿を見せたのは、ユーリ。

「あれ? ユーラシアくん何か、少し・・・いや大分変わったね」

 ユーリもユーラシアの変化を感じ取る。

「やはり魔王城へ戻っていたのですか」

「まぁね。自然界には先客がいたし、流石に三日も一緒なんて耐えられないだろ?」

「なるほど、モリィのことですか。お二人は仲が良いのだと思ってましたが、どうやら違ったみたいですね」

 ユーリは勘弁してくれと言いたげに首を横へ振る。

「それじゃあ、少しユーラシアくんを借りてもいいかな?」

「待つだす」

「おぉっと———」

 ユーラシアと肩を組み歩き出そうとするユーリの服を思い切り引っ張るコヤムギ。

 思わぬ力で勢いよく後方へと引っ張られたユーリは、驚いた表情で振り返る。

「何⁉︎ 引っ張らないでくれよ!この服意外と高かったんだぜ?」

「魔王様の命令だす。そいつを連れてこいと」

「魔王様が? まだ第一等級を魔力だけで倒すという命をこなせていませんが?」

「三日後に魔会が開かれるとのことだす。その席に、竜王も連れて行くとのことだすよ」

 コヤムギの発言を受け、目を丸くして見つめ合うドラルドとユーリ。

「ということは、約五百年ぶりの魔会ということになりますね。ですが、いつも同席していたのはオーレルのはず。今回彼は同席しないのですか?」

「いいえ、するみたいだすよ」

「ユーラシアくんを魔会にか・・・・・こればっかりは王の考えが読めないな」

「下手な発言は控えた方がいいですよ。魔王様はこの会話ですら、おそらくはお聞きになられているはずですから」

 アートの耳はかなり距離のある遠方の音すらも聞き分け、詳細に聞き取ってしまう。アストラル界や自然界のように、異なる次元を挟んだ場合は例外だが、今この場の会話は、一つ残らず間違いなくアートの耳へと届いている。

 ユーリは忘れていたのか、自身の失言に多少の後悔を抱きつつも終始ユーラシアの肩から手を離さない。

「分かったなら行くだすよ」

「いいや。今日中には連れて帰るから、やっぱり少しの間ユーラシアくんは借りてくわ」

「あっちょっとぉ!」

 ユーリは勝手にも、ユーラシアと共に自然界へ向かってしまった。

「ああ、もう!魔王様に叱られるのわだすなんだすよぉ」

「トロプタの身勝手さは今に始まったことではありません。それに、今日中に戻って来るのなら、問題はないでしょう」

「そ、そうだすかねぇ?」

 


 風の自然界へとやって来たユーリとユーラシア。

「あーやっぱまだいるよな」

 どこか呆れた様子で空を見上げてそう呟くユーリ。

「よしっ、行こう」

「行くって?」

 突如ユーラシアとユーリの胴体に風が纏わりつき、ふわりと勢いよく天へ舞い上がる。

 そして上空で横になりながら寛ぐ一人の女性の下へと到着した。

「悪いんだけどさ、この空間から出てってもらってもいいかい?」

「う、うぅん——————何ですか? 人が気持ちよく寝ていたのに無理矢理起こすなんて・・・・・まさに外道ですね。流石醜穢です」

 ユーリは言い返したい気持ちをグッと堪え、再度笑顔で口を開く。

「何でもいいけど、オーレルが呼んでたぜ? せっかく呼びに来てあげたのに酷いな」

 するとモリィはばっと状態を勢いよく起こすと、多少の動揺を見せ始める。

「オーレルが私を、ですか? あの人は怖いのであまり近づきたくはないですが・・・そうですね、行かなければ行かなかったで後がめんどくさそうです。かと言って今めんどくさくないわけではないですが、今行きます」

 何やらボソボソと早口で独り言を呟いたモリィとユーラシアの視線が重なる。

「おや? 貴方は今話題の竜王ではありませんか。ですが、今はオーレルが優先です。ユーラシア、ぜひ今度お話しさせてください」

 そう言い残すと、モリィは一人慌てた様子で風の世界から去って行った。

「ハハッ。いやぁー無心とか呼ばれてる割に、あいつ、オーレルには弱いんだよな。けど、嘘ついたって知れた後がめんどくさそうだ」

「えっ、嘘なんですか?」

 ユーラシアがキョトン顔で聞き返すため、ユーリは再度腹を抱えて笑みをこぼす。

「ああ、あれは俺のハッタリだよ。まぁ、王を理由にしたら笑ってなんていられないからな。まぁ、どの道後でモリィとオーレルには怒られるだろうけどさ」

 そう言いながら、ユーリは昔オーレルと喧嘩をしてこの風の自然界を創り出したことを思い出す。

「そういや、この世界を創り出すきっかけになったオーレルとの喧嘩も、こんなくだらない揉め事がきっかけだったな。まっ、今やってもこの姿じゃ勝てっこないし穏便に済ませられることを祈ろうか」

「えっ・・・・・オーレルさんとの喧嘩でこの世界を創ったって、どういうことですか?」

 訳がわからないと言った様子でユーリへと視線を向けるユーラシア。

 ユーリにしてみれば、懐かしの思い出話だが、ユーラシアからしてみれば全てがぶっ飛んだ理解できない内容。

 この世界とは、風の自然界であることは理解しているが、それをオーレルとユーリが創ったというのだから十分驚く内容。その上、ユーリの口ぶりから昔はオーレルと互角に戦えていたような口ぶりも驚愕に値する。

「言葉通りの意味だよ。この風の自然界は、俺とオーレルの喧嘩が引き金で誕生したってこと。まぁ他の三つの誕生秘話もあるが、それはまたいつか機会があったらってことで、今は別の話をしようか」

 それは、ユーラシアとわざわざ二人きりになってまで話したかったこと。

 ユーラシアは多少の緊張を感じて息を呑む。

「覚えてるかい? オルタコアスで初めて会った時に言ったこと」

 すると、ユーラシアの視線は無意識に自身の右手へと向けられる。

「その指輪、君の赤髪と相まって、結構似合ってるじゃん」

 ユーラシアは、ユーリと初めてオルタコアスで会った日に貰ったフェンメルの残した指輪を、ずっと大切そうに肌身離さず身に付けている。

 ユーラシアは性格はともかく、見た目はお世辞にも落ち着いてる風には見えない。どちらかと言えば、派手な方。なので、指輪のゴツゴツとした派手な見た目にユーラシアの容姿がしっくりくるほどマッチしている。

 ユーラシアは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「いつか、フェンメルさんの愚痴でも垂れてやろう・・・でしたね」

「そ、流石に二人きりじゃないとできないからね。けどいざ愚痴ろうと思っても、愚痴なんて出てこないもんだな」

「・・・ですね」

 思ったよりもユーラシアの反応が薄いことにユーリは違和感を覚える。

 以前のユーラシアとは明らかに異なる反応。

「なぁ、ユーラシアくん。これは俺の勘なんだけど、以前とは抱く悲しみにえらく差があるように見えるんだけど、アストラル界で何かあったかい?」

「アストラル界でと言うよりは、フェンメルさんを失ってからの時間の長さが、ボクの気持ちを落ち着かせてくれたんだと思います。だけどボクの心に一番影響を与えてくれたのは、もしかするとフェンメルさんの魂は今もどこかで生きてるんじゃないかって分かったことです」

 途端にユーリは目を見開く。

 驚きの感情と動揺の感情がごっちゃになった様子が見て取れた。

「えっ、そ、それは誰から聞いたんだい?」

「もしかするとって話なんですけど、魂は生きてる可能性があるんじゃないかって、学園の先輩に教えて貰ったんです」

「そ、そうなんだね」

 平静を保っているつもりでも、気の抜けた返事をしてしまっているほど気が乱されてしまっていることをユーリ自身自覚できていない。

「だからもし、どこかで今も生きていてくれるなら、ボクはそれだけで十分なんです。確かに会いたいですし、色々な話もしたいです。だけど、生きていたとしてもボクとは何か会えない理由があるのかも知れないって考えた時、フェンメルさんの意思を無視するようなことはしたくないんです」

 ユーラシアはソルン村で暮らしていた頃に比べて、身も心も本当に強くなった。

 まだまだ未熟な面も多いけれど、十分一人立ちできるほどの男には成長できたと胸を張っていいほどに。

 そしてこの時ユーリは、友であるフェンメルの、主人である魔王の認めた存在がユーラシアでよかったと心の底から再度思わされたのだった。

「だからフェンメルさんとの思い出はいつまでも大切に胸の中に抱き続けながら、ボクは自分自身の使命と真正面から向き合って行こうと思います。手の届かない存在じゃなくて、今手の届く大切な者たちを守って行きます」

 現実世界では三日というアストラル界での修行が間違いなくユーラシアの精神的な成長に繋がっているのは言うまでもないが、もしかすると、アストラル界に入る前からユーラシアはフェンメルに対する覚悟を決めていたのかも知れない。

 確かにユキへ向けた怒りの理由も、指輪を肌身離さず身に付けている理由もフェンメルだが、ユーラシアは、ずっと今手の届く大切な者たちを守りたいという意思を強く見せていた。

 アストラル界での長い年月が、頭と理性で納得できるほど、フェンメルを過去の存在にしてくれたのだ。

「この話は終わりにしよう。今の君に、俺からの言葉は必要なさそうだ」

 そう言うとユーリは、ユーラシアと共にゆっくりと地上へ降りて行く。

「最後に二人きりで君と話せてよかったよ。魔会が終われば、大切な人たちのところへ行くんだろ?」

 一体今のユーラシアの力がどれほどのものなのかは、ユーリには分からない。

 しかし、他の魔族も同様にユーラシアの変化に気づき、そして悟るだろう。

 ユーリは見えて来てしまった別れの時を想像し、一人ひっそりと悲しみに浸るのだった。


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