167話 ネビュラ
ユーラシアがユーリとドラルドに連れて来られた場所は、視界一帯が灰色の霧で覆われた場所。
「ユーリさん。本当にここに第一等級の魔怪獣がいるんですか?」
「ドラルド曰く、そうらしいぜ」
「お二人とも感じませんか? この場所の違和感を」
「違和感?・・・・・へぇ〜なるほど。随分と面白い魔怪獣のようだ」
ユーリは何かに気がついたらしく、好奇心を抱いた楽しげな笑みを見せる。
「ユーラシアくんなら気づけるはずだよ」
「違和感か・・・・・他の場所は全部砂煙で覆われているのに、ここは霧しかない——————」
ユーラシアは思考する。
魔大陸は、その隅々まで魔王因子を含んだ魔怪獣たちの様々な魔力で埋め尽くされた状態。
そしてこの霧地帯も同様に、身震いしてしまいそうなほどの魔力濃度となっている。
しかし唯一の不可解な点と言えば、この霧が一体どこまで存在しているのかは定かではないが、少なくとも自分たちを覆う霧からは同一の魔力しか感じないということ。
そして、ユーラシアがこの場所へ来た時に一番最初に抱いた違和感。それは、十大魔人に匹敵する魔力を持つ個体でありながら、それらしき魔力を持つ存在が周囲には存在していない点。
以上のことを踏まえて導き出される答えはただ一つ——————
「もしかして、この霧が魔怪獣ってことですか?」
「その通りです」
霧は次第に一箇所へと収束し始め、つま先から脚、胴体、頭と、徐々に一体の人型の存在が形成される。
その者は、全身が銀色の光沢を持ち、カマキリのような鋭い鎌のような爪を両手両足に備え、カマキリのような顔面をしている。
「あれが、第一等級——————」
ユーラシアは目の前の魔怪獣から放たれるあまりにも鋭い魔力に息を呑む。
先ほどまでユーラシアたちを包んでいた霧に宿る濃い魔力は、そのほとんどが目の前の魔怪獣へと凝縮されている。
そして、周囲に若干残る魔怪獣の魔力により、砂煙は一切立ち入ることを許されていない。
魔怪獣はあくまでも魔物の延長線上。
その全てが魔力で構成され、魔法は扱えない。
けれどユーラシアは、これまで自身の体を何か別のモノへと変質させる魔物を見たことがない。
「奴は魔力を霧へと変質させているわけではありません。魔大陸へと発生していた霧に魔力が宿り誕生した特殊個体。故に奴の本質が霧であり、私たちは「ネビュラ」と呼んでいます。第一等級はそのような特殊個体ばかりです」
「霧が本体ってことは、物理攻撃が効かないってことか」
「確かに、直接的な物理攻撃は意味を成しません。魔王様が望むように魔力でゴリ押せば突破口はありますが、今の貴方が扱える魔力量では、到底ネビュラには届き得ません。さぁ、どうしますか?」
ネビュラを攻略するための正攻法は、魔力量でゴリ押しすること。つまり、他の厄介な魔怪獣と比べ、アートがユーラシアへと与えた魔力のみで第一等級を倒すという試練をこなすことにおいて、ネビュラは最も現実的な相手と言える。
世界樹から供給される魔力で『竜王の咆哮』をぶちかませれば、第一等級であろうとも魔怪獣ではユーラシアの敵ではない。けれど今のユーラシアにとって、ネビュラは最適な相手である。
ドラルドはユーラシアにとって最良最適な判断を下したと言えるだろう。これもドラルドの優しさ故である。
「ボクは一日でも早く成長して、みんなのところに行かなくちゃいけない。守るんだ、みんなを。そのためなら、ボクはどんな壁だって乗り越えてみせます!」
「答えになっていませんが、その意気は買うに値します。それでは私たちは別空間で見ていますね」
そしてドラルドとユーリはユーラシアの下からいなくなり、ユーラシアと魔怪獣の文字通り一対一の構図が出来上がる。