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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
167/234

166話 十大魔人最強の男

 月夜の明かりに照らされながら、アートは壁へとひたすらに筆を滑らせる。

 そこは、魔王の玉座が存在する王の間。

 魔法により天井には月夜の闇が存在し、玉座は光に照らされる。

 アートはその玉座の背後にある巨大な壁へと、何やら一枚の絵を描いているのだ。

「王よ。その絵に見える景色こそが、王が見据える未来ということですか?」

「ふむ。やはりお前には分かってしまうか。流石は十大魔人最強なだけはある」

「その称号に意味などありません。ただの人間が勝手に付けたものにすぎませんから。我は「不屈」。王から賜りしこの称号こそが我の誇り」

 十大魔人最強と称されるこの男の名は、「不屈のオーレル」。

 全身が真っ黒な毛に覆われた獣の様な見た目であり、背中には自身の身長と同等の五メートルほどの大剣が背負われている。

「オーレル。お前にはこの絵から何が見える?」

 アートが描いた壁画は、絵と呼べるかも定かではない、様々な色が混じり合い、結果的に赤黒く染まった一枚の絵。


「——————竜魔激突。憧れ故に免れない未来——————」


 直後、一瞬のみアートの纏う空気が冷たさを帯びる。

「失言でした。お許しを」

「許そう。お前には一体どこまでが視えているのか、この俺でも分からないほどだ」

「我はただ視えるだけ。王は自らの力で如何様にも変化を起こせる力をお持ちだ」

「この話は一旦終わりにしよう。どうやら客人のようだ」

「そのようですね」

 王の間へ姿を現したのは、ユーラシア。

 そのあまりの広さと景色に意識を一瞬にして奪われてしまっている様子だ。

「目を覚ましていたのか」

「う、うん。こう言っちゃあれだけど、家の布団よりもよく眠れたかな?」

「そうか。それならばよかった。それで、次のお前の担当をトロプタとドラルドに任せたのだが、お前一人か?」

「うん。何か二人きりで話があるみたいで、待ってる間お城の中を色々と見て回ってたんだ」

「そうか・・・・・」

「もしかして、ダメだった?」

「いいや、そんなことはない。ところでユーラシア。待っている間、少しこの者と手合わせしてみないか?」

 オーレルは片膝を地へ付けていた状態から立ち上がり、五メートルにも及ぶ大きな巨体をユーラシアの目の前へと運ぶ。

 そのあまりのオーラにユーラシアは緊張で多少体を震わせる。

 背に携える大剣も相まって、ユーラシアにはカリュオスと対峙した時の感覚が肌を通じて思い出されていた。

 しかし目の前に立つオーレルは、カリュオスの比ではないほどの実力。

「先日の魔怪獣との戦闘は見事だった。魔孔を開いて今日で五日目。お前の成長速度がどの程度なのか一度この目で見ておきたい」

「王の憧れる存在「竜王」」

「えっ、何で知ってるの?」

「言い忘れていたが、ここにいる十大魔人たちは皆お前の正体を知っている。だが、そんなことはこの場ではどうでもいいことだろう」

 確かにアートの言う通り、自分の正体が知られることなど今更。この場ではもちろんのこと、学園も消えてしまっているため、バレたところで何の支障もきたしはしない。

「例え竜王本来の力が発揮できなくとも、王がお認めになったその素質。確かめさせてもらうとしよう」

 オーレルはズッシリと厚みのある鋼色の大剣を抜くと、両手で握りしめ、胸の辺りで構える。

 戦闘態勢となったオーレルを前にして理解する。

 神人にすら届き得る実力者であると言うことを。

 そして、今の状態では自身の攻撃のこと如くが通用しないであろうことを。

 そしてその予想は的中。

「行くぞ。竜王」

 小さな囁きとは正反対に重く、素早く振り下ろされる大剣。

 本来ならば城を破壊してしまうほどの威力であったが、アートの異空間結界魔法により城へのダメージはゼロ。

 五メートルもの刀身を持つ大剣が、まるでレイピアでも振るっているかのように素早く高速で幾度となく襲って来る。

 しかし、純粋なスピード勝負ならば、ユーラシアの竜眼と思考領域が上回り、オーレルの攻撃が当たることはない。

 けれど、オーレルがそんな単純な相手なわけがない。

 徐々にフェイントも織り交ぜた変化球が投げられ始めると同時に、竜眼のタイムリミットを迎える。

 その瞬間、一切の隙なくユーラシアの懐へと大剣が撃ち込まれた。

「クッ」

 剣化の呼吸で刃と化した両腕を駆使して腹部への直撃を避けたものの、弾丸の速さで後方へと飛ばされるユーラシア。

 オーレルはまるで野球の球でも軽く打ったかのような涼しい表情を浮かべている。

 そしてすかさず飛ばしたユーラシアの後を追い、追いつく。

「———ッ⁉︎」

 オーレルは加速した勢いを上乗せし、大剣を振り上げ、両者宙にいる状態で振り下ろす。

 

「やめろ」

 

 耳へと届いたその一言により、オーレルの大剣はユーラシアの鼻を擦り止められた。

 ユーラシアはその衝撃派により、更に後方へと吹き飛ばされる。

「おおっと、何か嫌な予感して急いで来てみたら・・・・・ダメだぜ、オーレル。ユーラシアくんを殺そうとしちゃ」

「トロプタか。安心しろ、これは王の御意思だ。少し、竜王の転生体であるその者の実力を確かめるためにしただけのこと」

「だとしても、貴方はもう少し自身の強さを見直すべきです。以前は魔王様と手合わせできていたほどの実力なのですから」

「えっ・・・・・それって——————」

 十大魔人であるオーレルは、魔族の中ではNo.2の座を誰しもに認められていたほどの実力。

 そして、魔力なしの純粋な一対一では、魔王とさえ互角の勝負を演じられていたほど。

 ユーラシアはオーレルの強大さを改めて実感し、息を呑む。

「確かに、つい先日の俺とならば魔法ありでもそこそこいい勝負が演じられただろう」

「身に余るお言葉です」

 オーレルは大剣を地面へと突き刺し、再びアートへと頭を垂れる。

「気にするな。俺が言っているのは、魔導祭までの話だ。今はもう、以前の力は全て取り戻したからな」

 そう言うと、アートはユーリに支えられるユーラシアへと視線を向ける。

「ユーラシア。お前がこれから相手にする魔怪獣は、第一等級だけでいい。第二、第三の雑魚は放っておけ」

「よろしいのですか?」

 やはりここでも反応を見せたのは、案外思いやりのあるドラルド。

「彼は竜王の魔力をほとんど存分に振るえません。それに、魔孔が開いてまだ数日です」

 魔力樹から魔力核へ供給される魔力は、供給される段階で既に宿主の魔力色に染まっているが、今のユーラシアが行っている作業は、魔孔から取り入れた魔力を魔力核に一時的に溜める段階で自分の色に染め、外部へと放出する作業。

 そのため、いくら魔力の濃い魔大陸だとしても、魔力核の大きさしか竜王の魔力を一度に放出することができない。

「ドラルド。これは王の御意志。お前如きが口を出していいはずがない」

 ドラルドはオーレルの圧に気圧され、口を閉じる。

「失礼しました。魔王様」

「許そう。そしてユーラシア。お前は第一等級の魔怪獣を魔力のみで倒せたならば、もう一度この玉座の前へ姿を見せろ」

「うん。分かったよ」

 そうして、ユーラシアは文句一つ言うことなく、アートの前から姿を消した。

 その後をユーリとドラルドが追いかけていく。

「今の竜王に第一等級の相手が務まると思っていますか?」

「いいや、瞬殺されるだろうな。だが、心配はいらない。ユーラシアの帰還を楽しみに待つとしよう」

「そうですね」

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