163話 弱さ
神攻終了から早三日。
ロッドは三日間とも父親であるコウィジンのいる工房へと入り浸っていた。
「親父は何も言わないんだな」
「何か言って欲しいのか?」
「別にそう言うわけじゃないが・・・・・」
「今のお前は奥さんを亡くした十年前のあの時とそっくりだ。だが、そうじゃねぇことくらい分かってる。父親だからな」
ロッドは『ゴッドティアー』により妻であるラベンダを失った時、ゴッドスレイヤーとしての責務を放り出してしまうほど自暴自棄になっており、数日間今と同じようにコウィジンの下へ訪れ抜け殻のようになっていた時期がある。
「だがあの時と違うのは、エルナスや他のみんなの前では、しっかりとした姿を見せてるってことだ。あの時は、根っから腐り切っちまってたから意地でも根性を叩き直してやろうと思ったが、同じように見えても今と昔じゃ大きく違う」
コウィジンは作業していた手を止めて、背を向けているロッドの前へと回り込む。
「いいんだよ。父親の前でくらい弱みを見せたって。俺も心から愛した大切な人を失った経験がある。お前の今の気持ちを分かってやれる。けどなロッド・・・・・お前にはまだ守るべき大切な人がいるはずだ。だから存分に弱みを俺に見せてくれ。そんで前を向け!」
そう言ってロッドの大きな体を自らの小さな体へと引き寄せる。
「親父・・・・・こんなに小さかったんだな」
「お前の悲しみを受け止めてやれる大きさはあるつもりだ」
ロッドは小さく笑みを浮かべると、普段は決して見せることのない涙が地面へとポタポタと垂れ始める。
「都の誰一人として犠牲者が出なかったのは誇らしいことだ。けど、どうしてミューラなんだ・・・・・俺の腕に残るのは、ミューラの痩せ細ったあまりにも軽すぎる感触。あいつを小さな頃に抱いた記憶はあっても、体がそれを忘れちまった——————せめて、エルフの都で安らかに眠ってくれることが俺の望みだ」
ロッドは、腕に残り続けるミューラを抱いた感覚を大切そうに思い出し、両腕に顔を沈めて更に涙を溢れさせる。
「ユキを殺したくて、憎くて仕方がない。だが、俺の決断は絶対間違ってはいない」
「ああ、お前の決断は正しいよ。憎しみは憎しみでは断ち切れない。そんなことは俺たちエルフにも分かるからな」
その後、しばらくの間静寂に包まれながら涙を流したロッドは、涙を拭い立ち上がる。
「感謝するぜ、親父」
「大したことはない」
「エルナスの側にもいてやらないと行けないからな。俺はもう行く。あいつは俺より重症だ。唯一の家族である俺が側にいてあげなくちゃならねぇ」
「またいつでも来い」
ロッドは顔を前へと向け、いつもと変わらぬ堂々とした様子でエルナスの下へ向かうのだった。