160話 約500年ぶりの贈りモノ
最高神は、『エルフの都』へ向けて創造の力を行使する。
その力は、『エルフの都』全体に環境を豊かにする魔力を発生させるモノだった。
一瞬、『エルフの都』の結界外に魔力が生じたものの、発生した魔力は瞬時に結界内へと入り、アクエリアスとの戦闘で生じた損傷全てを生命含めて元通りにしてしまった。
死した存在は最高神ですらどうしようもならないが、創造し直すことはできる。しかし、完全に同一人物とは言い切れないため、人類はそんなことは望まないだろう。
「これ・・・・・どうなってるの?」
悲惨な『エルフの都』の状態があっという間に元通りになっていく様に勇者は驚きを隠せず目を丸くする。
そしてそれは勇者だけではなく、意識のあるエルフやドラゴニュートたちも同様の反応。
そして最もその光景に驚きを露わにしているのは雪。
「最高神様・・・・・?」
「は⁉︎ ちょっと待て、雪。今起きてるこの現象が最高神の仕業だって言いてえのか?」
ユキも決して確信が持てるわけではない。
ただ、この大量に送り込まれて来た謎の魔力からは、『原 天×点 界』にいる時は常に感じていた温かみのある包容力と似たような感覚を覚える。
そして同時に『エルフの都』へと飛ばされる直前に言われた最高神からの言葉を思い出す。
『人類の、我たちの運命の鍵を握るのは、貴方です。そのことをよく覚えておきなさい』
「まさか・・・・・最高神様は、わらわの選択を見据えておられた、と?」
ユキは目を見開き、明後日の方角へと視線を素早く向ける。
そして、魔力という名の神の力に乗せられて来た最高神からの最後の言葉がユキの耳へと届く。
『これからも様々な辛いことがあるでしょう。ですが目を背けず、側にいて貴方を支えてくれる大切な存在を信じて、共に人間としての日々をやり直していきなさい——————』
ユキは両目を潤わせ、最高神へ向けて最後の忠誠心を見せ頭を下げる。
「本当に、最高神の仕業なの?」
勇者の問いに対してユキは顔を上げ、先ほど浮かべていた悲しみでも、苦しみでも、怒りでもない、それら負の感情が吹っ切れたような晴れやかな表情をこの場にいる皆へと向ける。
「他の皆の下へと案内してくれぬか? 伝えなければならないことがあるのだ」
エルフたちは目の前で起きる現象と、ユキの発言に理解が追いついてはいないものの、ユキに敵意がないことは明らかなため、一先ずミラエラやチャンドラ含めて意識不明の者たちを連れ、剣聖魔や学生、市民たちの待つ都エリアへと移動することにした。