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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
155/234

154話 救いたい理由

「一瞬にしてすごいことになってやがるな」

 勇者とミラエラに遅れてロッドもユキの下へと到着。

 そしてロッドの後ろには、ドラゴニュートとエルフ数名の姿もある。

「あれだけ大きいバケモンだってのに、力は全く感じない。だが、奴の宿す魔力の波長は見逃しやしないぜ。勇者様は、あんなのを見てもまだ、戦いたくないと言うつもりか?」

「策はある。この数日間。僕たちが何もしていなかったわけないだろ」

 勇者は覚悟を宿した目つきで天高く浮かんでいる龍の顔を見つめる。

「それじゃあ、その策とやらを聞かせてもらおうじゃねぇか」

 状況だけ見れば、この場の全員で力を合わせてユキへ立ち向かうのが正しい選択であることは一目瞭然。

 しかし、少し前まで対立していたロッドから協力を匂わせる発言が飛び出したことに一瞬驚かされてしまう。けれどすぐに思考を切り替え皆へと指示を飛ばす。

「エルフのみんなは、老師たちを連れて避難を。ロッドとドラゴニュートのみんなは、僕たちとミラエラと協力してまずは雪の周囲に発生している竜巻を何とかしよう」

 聖水の竜巻は勢いをどんどん増していき、止まることを知らずに巨大化していく一方。

 そしてその大きさ一つ一つが世界樹に相当するほど。

 まずは竜巻を消失させなければ、静・樹・都にまでその影響が及んでしまうことになる。

 都にいる市民たちは、ビヨンド、ブルジブ、オータルの剣聖魔三名と、王を含めたゴッドスレイヤー、エルフたちに万が一の守護を任せてある。

「それじゃあ、竜巻を消失させる方法だけど、周囲一体ごと爆発させる。だけど、並の威力なんかじゃびくともしないだろう。だからこの空間が吹き飛ぶほどの威力の爆発を生じさせる必要がある」

 この勇者の発言に最初に異を唱えたのは、ロッドでもエルフ達でもなく、ミラエラ。

「ちょっと、そんなことしたらみんなただじゃ済まないわよ?」

「僕たちを誰だと思ってるの? エルフの都も含めて誰一人犠牲になんてさせないよ」

「———ほんと、貴方が言うとものすごい説得力ね。頼もしい限りだわ」

 今現在、竜巻が邪魔して怪物の顔となるユキ自身には近づけない状況。勇者の実力ならば、竜巻を消滅させることは一人でも可能。

 しかしそれをしない理由は、雪を助けるため。手加減せずに攻撃を放てば、その威力に空間が耐えられない。あるいは、雪を傷つけてしまう可能性がある。

 それに実体を持たない今の雪は、単純な攻撃を仕掛けただけでは倒せないだろう。

 そしてこれから発生させる爆発の影響から、『エルフの都』、そして雪までも守ろうとしているのだ。

「これから僕たちが雪の意識を誘導させながら、発生している竜巻ごと雪を覆う結界を施していく。その間にミラエラは遠慮なく空間全てを冷却してほしい」

「なるほど、その後に我々の出番と言うわけですか」

「そう。理解が早くて助かるよ。君たちドラゴニュートとロッドは、冷え切った結界内へと存分に熱エネルギーを注ぎ込んでほしい」

 冷え切った空気を急激に熱することにより、空気が急激に膨張し爆発を誘発することができる。

「その後は僕たちに任せて」

「分かったわ」

「それじゃあ、よろしく!」

 そうして勇者は迷いなく、己の何千倍、何万倍とある巨大な聖水の怪物へと向かっていく。

 天と地を光の速さで移動しながら、三百六十度死角なしに豪雨のように飛んでくる水の弾丸を、表情一つ変えず、息一つ乱さずに掠りもせず鮮やかに避けていく。

 加えて、無数の魔法陣を幾つも宙へと描きながら、それらを繋ぎ合わせて一つの雪を閉じ込める結界の檻を形成していく。

 その速さと華麗さにエルフやドラゴニュート、ロッドやミラエラまでも少しの間見入ってしまっていた。

「意識を切り替えなさい!ミラエラ」

 ミラエラは一度強く自身の頬を叩くと、それに合わせて他の者たちも止まっていた足を動かし、各々の役割のために動き出す。

 

 ミラエラはみるみるうちに完成していく結界の近くまで歩みを進めると、危険を顧みず己の心、そして力と対話し始める。

 

 ミラエラとユキとの間に存在する絆は、罪と復讐。

 

 始めは罪を罪とも自覚せず、ユキの悪行を責め立てた。

 

 人殺しなど許せる罪ではない。けれど、私の選択は彼女を更なる殺人道へと陥れてしまう行為でしかなかった。

 

 いくら悔いても過去は変えられない・・・・・そしてこの後悔は何か? 

 人類を殺されてしまった悔しさ? 選択を間違えてしまった悔しさ? そのどちらも正解だろう。

 

 なぜ選択を間違えてしまったことを悔いているのか? 

 ユキが勇者の家族だったとしても、ミラエラには関係ないの話だ。どの道ミラエラ一人の力では手を差し伸べたところでユキの運命は変えられなかっただろう。それに、ユキとは家族でも何でもないのだから。むしろ、恨まれている。

 

 ミラエラがユキを助けたいと思う理由——————

 

 初めて見たユキの表情は、恐怖に染まっていた。

 

 助けを求めていた。

 

 けれど、その時のミラエラはそのことに気が付く余裕すらなく、差し出された助けを求めるユキの手をはたいてしまった。

 

 要するにミラエラは・・・・・ユキ・ヒイラギのことを敵とはみなせなくなってしまったのだ。

 

 可哀想な存在でも、仲間にしたい存在でも、純粋な救いたいという感情でもない。

 

 かつてミラエラは罪を犯した。

 

 その時の自分とユキが重なってしまっている。

 

 止められない衝動。

 

 止めてほしいと願う思い。

 

 罪を犯してしまい、現実を受け入れられない感情。

 

 ミラエラは何千年と生きて来たため、心も落ち着き、罪と向き合うことができるようになってきた。

 

 そして、ミラエラが今やろうとしていることは、背負う罪を少しでも軽くしようとする最悪な行為。

 

 自分と重なったユキを救うことで、少しだけでも心を軽くしようとしているのだ。

 

 ——————私は最低だ。だけど、罪は必ず償う。例え偽善と罵られようとも、救える可能性があるのなら、私は手を差し伸べたい・・・・・その思いは、本物だから。

 

「『氷界創造』」

 

 肉体は凍結し、意識を保てるのも残り僅か。動かせるのは瞳のみ。

 これまでになく冷たく、そしてこれ以上ないほどの魔力制御。

 怪物から三百六十度放たれていた水弾を、先ほどまでは終始勇者が結界により防いでいてくれた。

 水弾は、『断罪の要塞』で放たれていた水弾の威力以上。『断罪の雨』に匹敵するほどの威力を宿していた。

 そしてミラエラの放った『氷界創造』は、空間一帯ではなく、結界内に囚われる怪物のみに向けられ、放たれていた水弾を、新たに放たれようとする水弾を瞬間的に凍結させている。更に、竜巻の運動は止まっていないものの、薄らとした氷の膜が竜巻全体を覆っている。

 絶対零度には届かないものの、これまでで最も完成された『氷界創造』であったのは間違いない。

 ミラエラは一人静かに意識を沈めていく。

 

「よくやった」

 

 結界を完成させた勇者が凍結したミラエラの背中へと手を添え、ゆっくり地へと寝かせる。

 手から伝わるは暖かな感覚。

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